一般社団法人 情報システム学会
一般社団法人情報システム学会
概要
 情報システム学会(Information Systems Society of Japan)は,人間中心の情報システムを志向し,ビジネス・研究領域の融合や情報システム人材の育成を目的とした学会です。本学会は、日本学術会議指定した「協力学術研究団体」です。
情報システム学会での“情報システム”の捉え方
“情報システム”は
あなたに優しいものですか?
あなたに有益なものですか?
あなたに何かを強いていませんか?
そして,あなたは“情報システム”を
十分に使いこなしていると実感していますか?
“情報システム”は
人間活動を含む社会的なシステムです。
豊かな情報空間をもたらします。
単なるコンピュータ応用システムではありません。
人間の情報行動を支え,発展に寄与するものです。
組織活動に柔軟と革命を与えるものです。
2023年 砂田薫会長 新年のご挨拶
一般社団法人 情報システム学会
代表理事 会長 砂田薫
(国際大学GLOCOM)

 皆さま、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 昨年はテクノロジーの威力を強く感じた一年でした。サッカーのワールドカップでは人の目で判断できないゴールライン上のボールの位置を、ビデオとボール内蔵チップで構成されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システムが正確に捉えて話題となりました。このテクノロジーのおかげで三苫薫選手のゴールラインぎりぎりのプレーが有効と認められ、日本はスペインに逆転勝利しました。サッカーファンでなくても強く印象に残った場面です。
 一方、ウクライナとロシアの戦争でもテクノロジーの存在感が一段と高まったと感じます。とりわけ、インターネット、スマートフォン、ドローンという私たちにとって身近なテクノロジーが、戦争の道具として、時には強力な武器として、使用されている現実に私は少なからぬ衝撃を受けました。スペースX社の低軌道衛星「スターリンク」によってウクライナのインターネット環境が維持され、ロシア軍を見かけた市民はスマートフォンからその情報を軍へ提供するようになっています。また、空からの攻撃では自爆型ドローンが多く使われています。
 ワールドカップや戦争という特別な状況でなくても、日常的な生活や仕事に最新テクノロジーは広く浸透しています。絵やイラストを描く、楽曲や俳句をつくる、音声やテキストで問いかけに応答してくれるなど、昨年はAIのレベル向上を実感した人が多いのではないかと思います。

 さて、本学会では「情報システム」を情報の収集・処理・伝達・利用にかかわる社会の仕組みとして捉え、人的機構(個人・組織・社会といった人間系)と機械的機構(情報にかかわるテクノロジー系)で構成されるものと考えています。テクノロジーの急速な進展に対して人間系の変化は緩やかなものなので、両者のギャップが拡大し、そこから新たな問題が起こるのではないかという不安を覚えるのは私だけでしょうか。
 丸山真男は『「文明論之概略」を読む(中)』(1986年、岩波書店)で、知の建築上の構造として上から「情報(information)」「知識(knowledge)」「知性(intelligence)」という順に並べ、一番下に「叡智(wisdom)」を置きました。知の土台となる叡智とは、「庶民の知恵とか、生活の知恵といわれるのがそれに近い」としています。そして、「現代の『情報社会』の問題性は、このように底辺に叡智があり、頂点に情報が来る三角形の構造が、逆三角形になって、情報最大・叡智最小の形をなしていることにあるのではないでしょうか」と記しています。その結果、高度の技術と多くの人員を駆使して膨大な情報を集める専門部局がきわめて素朴な状況判断の誤りをしばしば冒しているとも指摘しています。
丸山のこの議論は今日決して古びていないどころか、ますます重要性を増しているように感じられます。人類は戦争を遂行するために最新テクノロジーを最大限活用するようになりましたが、一方で戦争を回避するための叡智や知性をいまだ獲得できていません。
私自身、多くの情報を収集するだけで何か知的な活動をしているような錯覚を抱きがちになると反省しています。叡智の最大化にもっと意識的に取り組み必要があるのではないか。そう考えるのは、もしかしたらそれが「人間中心の情報システム」につながるかもしれないと思うためです。

 最後になりましたが、皆さまにとって今年が良い年となりますようお祈り申し上げます。


以上
2023年(令和5年)1月1日

 
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