2011年(平成23年)5月21日に開かれた一般社団法人情報システム学会の理事会においてご推挙いただき,会長を仰せつかりました。誠に光栄なことでありますが,責任の重さも感じております。会員の皆様と力を合わせて本学会の発展のために微力を尽くす所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。また,本学会は, 2011年4月に学会としての運営を任意団体から一般社団法人に完全に移行し,一般社団法人として順調に滑り出しました。竹並前会長はじめ理事,その他の方々のご尽力のお蔭であり,御礼申し上げます。
さて,情報システム学会は,2005年(平成17年)4月に発足し,今年で満6年となりました。学会の発足時に,北城初代会長は,本学会の目指すべき方向と役割として,(1)情報システム人材の育成,(2)実務家と研究者の交流,(3)これからの情報システムのあり方の追求の三つを挙げられました。この方向と役割は,現在も変わっておりません。これを別の視点から見ますと,真の意味での情報システムの専門家(profession)集団として,学界,産業界,一般市民など社会の多方面に貢献することであります。社会学者であるErnest Greenwoodは,professionの概念を規定する属性として,体系的理論,社会における権威,社会からの支持,倫理綱領,固有文化の5つを挙げています。本学会は,情報システムの分野において,これらの属性を一層充実させることにより,さらに貢献を深めてまいります。
さて,情報あるいは情報システムにまつわる事件・事故はますます重大化,大規模化しています。東日本大震災に関連して2例を挙げます。
東日本大震災は1,000年に一度という大津波をもたらし,被災地の方々は大変な苦労を被っていらっしゃいます。なかんずく,福島第一原発は,炉心溶融という重大な事故を引き起こしました。10mを遥かに超える大津波の到来という想定外の脅威によるものであり,不可避のリスクであったと主張する向きもありました。リスクマネジメントではこの種のリスクを残留リスクと呼び,残留リスクを受容した上で,想定内リスクの低減策を実施することを求めています。加えて,残留リスクについては,技術の発達,社会環境の変化などに応じて定期的に見直すことによって,できるだけ想定内リスクとして取り込み,適切な対策を実施することを求めます。しかし,福島第一原発では,この基本的な管理サイクルを回していませんでした。原発の絶対安全神話に拘り,定期的な見直しによって想定内リスクとして認知し直し,このリスクを低減させるという意思決定回路を遮断してしまったものと思われます。
また,みずほ銀行のシステム障害は,大震災の義援金の特定口座への振込依頼が大量に集中したことがきっかけとなって発生したものです。危機管理体制が不十分であったことも災いし,被害は拡大しました。義援金の振込が集中することは事前に分かっていたことですから,運用で回避する,さらには勘定系システムと振込システムの処理構造を適正化する経営判断をしていれば,この種の障害は防止できたものと思われます。
われわれは,情報システムの研究・実践の成果を提供することによって,これらの事件・事故の再発防止になんらかの協力,貢献ができるのではないかと考えます。本学会は,情報システム学の体系的理論,固有文化などを確立し,社会に貢献することによって,社会における権威と支持を獲得するために,今後も努力を継続する所存です。
本学会では,学会誌の発行,全国大会・研究発表大会,研究会の実施など研究活動の活性化,新情報システム学体系化の調査研究活動,懇話会,社会への提言といった研究普及活動,メルマガ,Webサイトの運営といった会員,社会への広報活動を今後もさらに充実させていくとともに,情報システムの未来を語る会を新たに開催します。また,全国大会・研究発表大会を2011年(平成23年)11月に京都で開催しますので,ご期待ください。しかし,これらの活動の実現には,会員の皆様の積極的な取り組みと相互の協働が欠かせません。会員の皆様の温かいご支援をお願いいたします。