戦略情報システム
著者:佐藤 敬
戦略情報システムも経営情報システムの機能のひとつであり,その定義はParkerによれば,「情報技術(とくにデータベースやネットワーク技術)を利用して,顧客の情報を取り込むことにより,他社との差別化や競争優位などをねらうもの」である。また,島田辰巳は「経営戦略を実現するために,差別化により競争優位を狙った情報システム」であるとし,このようなシステムは人間が行っていた情報処理作業を置き換えたり,意思決定の支援という範疇には入らないので,従来のシステムとは同一次元では捉えられないとしている。そもそも戦略情報という概念は,国家が外国の情報を収集・分析・評価して国策を決定するという「諜報(intelligence)」に近い概念である。戦略情報の専門家のW.Pratは「戦略情報とは現在の国策問題に関する重要性を最終的に明らかにするため,選択され,評価され,判断された情報から導き出された意義の深い情報内容(intelligence)である」と述べている。つまり,生の情報や判断された情報と,そこから最終的に導き出された戦略情報を明確に区別している。また,戦略情報の特徴的なことは,国家間であれば他国,軍隊間であれば敵軍,企業間であれば他社という競合相手を前提としてこれに対して優位に立つことを目的としていることである。
戦略情報システムはその構成要素として,情報の入力機能,処理機能,貯蔵機能(インテリジェンス・ベース),出力機能を備えている。
戦略情報システムの代表的な成功事例としては,アメリカン航空の座席予約システムがある。現在,世界中の航空会社はコンピュータによる座席予約システム(CRS:Computerized Reservation System)を有しているが,アメリカン航空のCRSであるセイバー(SABRE:Semi-Automated Business Research Environment)は,大規模データベースを日々更新しており,アメリカン航空だけでなく世界中の650社の航空会社の座席が検索でき,うち300社が予約できるほか,ホテルやレンタカー,アメリカやヨーロッパの鉄道の予約も可能である。さらに30万区間,2000万種類のコースの中から運賃が最も安い上位8種類のコースを端末に表示する機能も有している。そのため,旅行代理店は顧客への情報サービス向上だけでなく,自社の販売促進や事務処理の代行を図るために,競ってセイバー端末を導入し,CRS端末としてアメリカ国内でトップのシェアを持つこととなった。ある航空会社のCRS端末を導入した旅行代理店はその業務の多くをCRSに依存するから,そのCRSをもつ航空会社と結びつきを深めることになる。一方,セイバーが開発された当時のアメリカン航空の競合会社であるユナイテッド航空のCRSであるAPOLLOは当初自社の座席予約の機能しかもたなかったので,一時アメリカン航空に大きく水を明けられる結果となった。すなわちセイバーは,CRS端末の導入による旅行代理店の囲い込みを戦略目標としたSISであるということができる。
日本における戦略情報システムの代表的な成功事例としては,花王による洗剤などの日用品の流通情報システム,セブン・イレブン・ジャパンのコンビニエンスストア加盟店を結ぶオンラインシステム,ヤマト運輸の宅配便管理システムなどがある。いずれの場合も強力な競合他社が存在し,それらとの競争に打ち勝つための戦略情報システムであるということができる。
佐藤敬(2003)“5.16 情報システム
『情報社会を理解するためのキーワード :2』培風館 [85-95]から出版社の許可を得て転載します。
本稿は,情報システム学会会員である,佐藤敬氏の著作であり,学会の統一見解ではないことをお断りします。