情報システムの将来
著者:佐藤 敬
組織の大規模化、個人のライフスタイルの多様化,人々の活動の地球規模でのボーダーレス化などによって,情報システムのあり方は大きく変化した。インターネットの登場は,情報システムの利用者の範囲をひろげ,情報システムそのものを多様化するとともに,複雑化ももたらした。その結果,情報システムの企画,開発,運用,保守,改良には多大なコストと時間を要するようになった。また,システム障害や不正侵入などが発生した場合の影響の甚大さが増したため,信頼性への要求がさらに高まった。
情報システムは,企業の業務遂行に必須のものであるばかりではなく,人々の日常の暮らしを支えるインフラとしても欠かせぬものとなっている。すなわち,情報システムの社会化である。人々が違和感なく使える情報システムを実現するためには,情報技術のさらなる進歩に期待するとともに,人間活動と情報技術の調和をより一層図っていかなければならない。
技術と社会との間に深い関係があることは,改めていうまでもない。たとえば,地域の発展・衰退が,新しい交通手段の発達によって左右されてきた事例や,既存の組織・体制が変容することを恐れて新技術の導入を敬遠したがために,地域の経済が傾いた事例は,枚挙に暇がない。従来の技術に比べ,情報技術と社会との関わりはさらに強い。それは情報技術が人間の情報行動に直接関与するからである。
情報システムは,過去からの伝統の上に形作られた人間の生活や文化に裏打ちされた「情報に絡む仕組み」自体であると考えられる。そこに,コンピュータの出現によってもたらされた情報技術が強い影響力を持って登場したのである。現在,こうした仕組みと情報技術を,従来の情報システムにどのように組み込むべきかが問われている。情報技術が強力であるがゆえに,良い意味でも悪い意味でも社会への影響は大きいからである。
いずれにせよ,人間の情報行動になじむ情報システムをいかにデザインすべきかが問題である。その際,企業あるいは社会の姿,そしてそこでの人間の生活を左右するものであることを意識して,デザインに臨むことが大切である。単に技術的な精巧さ・完全さのみを狙うものであってはならない。ただし,情報技術の進歩およびそれに伴う社会の変容には想像もつかないものがありうるので,その価値を見定め,それを受け入れるだけの価値観の柔軟さ・包容力を備えている必要がある。