迷惑メール対策として、メールアドレスの @ は ■ に変更しています。 ******************************************************************** 情報システム学会 メールマガジン 2007.9.1 No.02-05 [1] 社会保険庁年金問題プロジェクトを新設 [2] 第3回情報システム学会全国大会・研究発表大会のお知らせ [3] 第3回ISSJロードマップ討議の報告 (杉野 隆) [4] 学会パンフレットと研究報告書を無料配布 [5] 情報処理学会主催シンポジウムに協賛 [5-1]産業界が求める情報システム人材のスキル2007 [5-2]高度IT人材育成フォーラム [6] 理事が語る (松平 和也) [7] 研究会だより [7-1] 産業界から論文発表を促す会の案内と活動報告 [7-2] グローバル・アライアンス(GA)研究会活動報告 [7-3] 第9回「情報システムのあり方を考える」会開催の案内 [8] 連載「大学教育最前線:第1回 中央大学」 (久保田 光一) [9] 連載「情報システムの本質に迫る」第3回 (芳賀 正憲) [10] 会員コラム「アジアの情報処理技術者試験」(平塚 亮三) <編集委員会から> 「本号から新連載『大学教育最前線』を開始しました。各大学における 情報システム教育の方針と現状を交代でご執筆いただきます。 ISSJメルマガ編集委員会では会員の皆様からの寄稿をお待ちしています。 情報システムの実践,理論などに関するさまざまなご意見をお気軽にお寄せ ください。 また,会員組織による人材募集やカンファレンス,セミナー情報,新書の 紹介など,会員の皆様に役立つ情報もお知らせください。 宛先は−−>メルマガ編集委員会(issj-magazine■issj.net)です。 ******************************************************************** ▲目次へ [1] 社会保険庁年金問題プロジェクトを新設 社会保険庁の年金記録問題は,年金に対する国民の不安と不信感を招き大 きな社会的問題になっています。この国民的関心の極めて高い年金問題につ いて,情報システム学会では 社会保険庁年金問題検討プロジェクト(プロジェクトリーダ:上野南海雄) を立ち上げ,年金問題に取り組むことにいたしました。 情報システム学会では,情報システムとは, 「社会または組織体の活動を支える適切な情報を集め、加工し、伝達する人 間活動を含む社会的システム」 と認識しています。 上記認識のもとに、 ・年金システムは、利用者(国民)にとって真に有用で安全な情報システムか? ・社会保険庁の情報システム理解度、発注能力および情報システムが健全に 働く業務運営力 ・情報システム専門家の専門性、専門家の倫理 ・運営に携わる担当者の倫理 ・受注企業倫理と説明責任 ・年金システム受発注構造と問題の解明 を中心に議論を深め,情報発信いたします。 参考:「東証における誤発注問題に関する提言」 http://www.issj.net/teigen/0612_toushou.pdf ▲目次へ [2] 第3回情報システム学会全国大会・研究発表大会のお知らせ 「情報システムのよる価値の創造〜地域からの挑戦〜」をテーマとして、 情報システム学会は2007年11月30日(金)と12月1日(土)の2日間、第3回 情報システム学会全国大会・研究発表大会を、新潟国際情報大学にて開催い たします。大会テーマに合わせた特別講演を予定しています。 また、会員の皆様から学術的な研究発表だけでなく実践活動に基づく事例 研究発表も募集していますので、奮ってご応募ください。発表申し込みの締 め切りは9月30日(日)です。 大会の詳細は−−>http://www.issj.net/conf/issj2007/index.html ▲目次へ [3] 第3回ISSJロードマップ討議について 企画担当理事 杉野 隆 本学会の運営方策について議論し,今後の方針,工程を定めるために, ロードマップ討議を随時行っています。上野副会長の司会のもとに、昨年度 は2回行いましたが,本年8月11日に,理事,会員有志16名が集まって,第3 回のロードマップ討議を行いました。今回のテーマは, (1)学会定款の第2条(学会の目的)の見直し (2)学会と社会とのかかわり方について (3)情報システムに関する認識 の3点でした。 まず(1)について,現行の定款第2条には,「本会は全国の情報システムに 関連ある部門の研究者ならびに情報システムを扱う実務経験者および学生を 会員とし,会員相互の連携と研究の促進を目的とする。」と示されています が,情報システム学会の特徴を反映した記述に変えるべきだとの意見が 理事会で出され,検討することになりました。 定款に前文を設け,学会の理念,情報システム学の確立,発展のために学 会の果たすべき役割などについて記述する。学会の理念としては,情報シス テム学の構築,産官学民の協力,新たな倫理の徳目の創出などを含めてはど うかという意見がありました。しかし,成案を得るにはもう少し時間を要し ます。 本学会は,産業界との実践的な協力関係継続を活動の柱としています。昨 年12月には,東証証券取引システムの障害に関して提言しました。 その後も,さまざまなシステム障害が発生しています。東証の場合と同様に, これらのシステム障害を続発させないための本質的な提言を社会に向けて行 うことは,情報システム学会と社会とのかかわりを深める,重要な社会的貢 献であると思います。この視点については,(2)の課題に含まれます。 これらの課題の根源には,本学会の対象とする「情報システム」とは何か, 「情報システム学」とはどのような概念の学問なのか,という基本的な課題 認識があります。これが(3)に関わる課題です。 今回の討議ではまだ結論は出ていませんが,今後更に議論を深め,修正案 をまとめ,来年の総会に諮る予定です。 会員の皆様からもご意見をいただけると幸いです。 −−>sugino■kokushikan.ac.jp 宛てにご意見をお寄せください。 ▲目次へ [4] 学会パンフレットと研究報告書を無料配布 学会を紹介するパンフレット(小冊子)の印刷が完了しました。また「情 報システムのあり方を考える」会の『2006年度研究報告書』(A4版320 ページ)に,まだ残部があります。いずれも会員であれば無料です。 ご希望の方は,以下までご連絡ください。 〒102-0084 東京都千代田区二番町14番地 日本テレビ麹町ビル西館4階 株式会社プライド 情報システム学会担当係 (Tel:03-3239-5431 Fax:03-3239-5432) ※郵送ご希望の方は,郵便局の「EXPACK(エクスパック)」専用封筒(500 円)あるいは返信用封筒(切手貼付)にご住所とお名前をご記入のうえ、 上記宛てお送り下さい。 なお『報告書』はなくなり次第,終了とさせていただきます。 ▲目次へ [5] 情報処理学会主催シンポジウムに協賛 情報処理学会主催の下記シンポジウムに本学会が協賛します。 [5-1] シンポジウム「産業界が求める情報システム人材のスキル2007」 日時:2007年9月18日(火)13時〜17時30分 会場:専修大学神田校舎 7号館(大学院棟)731教室 〒101-8425 東京都千代田区神田神保町3-8 参加費用(当日受付にて徴収):会員・非会員 2000円 同シンポジウムの内容は、以下のとおり。 *J07-ISカリキュラムの中間報告 *講演:「IS人材育成」 (1)「DREAMSは何故生まれたか」(仮題) 勝田近秀氏(株式会社NTTドコモ情報システム部 担当部長) (2)「大学と産業界のIS人材育成」(仮題) 鶴保征城氏(高知工科大学 教授/IPA SEC所長) *パネルディスカッション「新ビジネスの展開と求められる人材像」 パネリスト: 槇本健吾氏(株式会社インサイト・コンサルティング 常務取締役) 沼田克彦氏(東京電力株式会社) 児玉公信氏(株式会社エクサ SPBOMソリューションオーナー 担当部長) コーディネータ:渡邊慶和氏(岩手県立大学 教授) 詳細は、−−>http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/S-edIS2007.html ▲目次へ [5-2] 高度IT人材育成フォーラム 情報処理学会主催「高度IT人材育成フォーラム 〜産官学の連携とその継続に必要なものは? 〜」に協賛します。 同フォーラムの概要は、以下のとおり。 日時:10月24日(水) 10:00〜18:00 場所:早稲田大学 井深大記念ホール(東京都新宿区西早稲田1-6-1) プログラム: 第一部:特別講演 鶴保征城氏(情報処理推進機構SEC所長) 「高度IT人材育成とIT産業界の課題」 第二部:「高度IT人材育成に関連する取り組みの紹介」 第三部:パネルディスカッション ※ 無料で御参加頂けます。(要参加登録。昼食パーティー込) 詳細は、−−>http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/forum/kodo-it.html ▲目次へ [6] 理事が語る「昔昔にこんなことがありました」(その2) 理事 松平和也 ※前号では,(その1)として以下を掲載しました。 1.計算機の一号機と美人のプログラマ伯爵夫人 2.HERMAN HOLLERITH(1857-1929)とパンチカードと電子計算機の話 3.Leslie Matthies(レス・マサヤ)とCOBOLのProcedure Divisionの関係 4.Robet W. Beamer(ASCIIの父,UNIVACのリーダー) 5.PRIDE方法論,世に出る 今号はその続きをお届けします。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 6.COBOLの母,GRACE MURRAY HOPPER (12月9日,1906年生まれ。 1992年1月1日死亡) YALE大学で博士を取得。女性ですが海軍提督なのです。COBOL言語の開発 者:MOTHER OF COBOLと言われてます。COBOL:COmmon Business Oriented Language,開発コード名コンパイラ・ゼロ。グレースさんがこの命令文の構 想をしていた時に,上記のLESさんのPlayscriptの起用に着想したというの です。 結果PROCEDURE DIVISIONが設定された。MBA社のブライス氏はユニバック 時代このコンパイラ・ゼロのPROCEDURE DIVISIONのテストに取り組んだとい うのです。かくて,第三世代言語COBOLが開発された。この開発成功で従来 難しかった第一世代言語の機械語からわれわれは開放された。ASSENBLY LANGUAGE,すなわち第二世代言語にもやがて別れをつげることができた。 COBOLが出てきて随分とプログラムが易しくなったと感じたのは私ばかりで はなかったですよねー。 ホッパー女史がバグという言葉を創出したのはご存知ですか?昔々はプロ グラムのためにワイヤーを使っていたのです。そのワイヤーの間に挟まって いた蛾を取り出してワイヤープログラム盤の誤動作の原因を取り除いたとき "これからはプログラミングとデイバッグと言うことにしよう"と女史が宣 言した。 彼女はMARK1,MARK2コンピュータをも活用し,エッカート・モークリーコ ンピュータ社のメンバーになって彼らと働き電子計算機の活用推進に大きく 貢献した女性なのである。米国ACMの大会で"日本の女性も計算機を使う 時代が必ず来ますよ"と男ばかりの我々に優しく予言してくれた女史の言葉 は忘れられない。 7.UNIVAC対IBM:勝負はあっという間に UNiversal Automatic Computerの頭文字UNIVAC1の黄金時代は短命であっ た。1964年に出したIBM/360で市場をひた走る強力なIBMに対抗して米国で はバンチが結成される。IBM−BUNCH(Burroughs,Univac,NCR,CDC, HONEYWELL)。日本は富士通/日立/日電/東芝/三菱電機/沖電気の6社。 松下電器が電子計算機産業に進出せずと松下幸之助氏が決断したのは有名な 話。日本では通産省電子政策課と六社が束になって外国勢(主にIBM)と戦っ たが苦戦苦戦の連続。ずいぶんと税金を無駄使いしたなー。今でもまだ無駄 に使ってますぞー。 8.DBMS/DDD/CASE時代 Peter Kreis率いる西独ソフト会社Software AG社がドイツから日本と米国 に進出。松平が販売権利を得て事業可能性を模索。結局あきらめビーコン社 に販売権を譲渡。なお松平は米国でこそADABASを売ろうと知人のマックガイ アー氏を米国社長に推薦した。半年苦労して彼はNY市に売り込みを成功。彼 の家で乾杯したのを記憶している。米国ではIMAGE,MODEL204,System2000, など各種の競合品が現れた。データデイクショナリー/デイレクトリーも徒 花のように現れ消えた。3D,DATA MANAGER等である。CASEツールはもっとひ どかった。INDEX/TI/NASTEC/KNOWLEDGEWAREなどが転瞬の間に出現し消え た。 1980年代はツール指向の時代であった。DBMSの世界はコッドのRELATIONAL の掛け声でじんわりと主役交代が進んだ。結果ORACLE/INGRES/DB2に取っ て変えられた。1990年代は構造化プログラミングが退潮しOOP−オブジェク ト指向プログラミングになった。言語はJAVAであり,C言語になりここまで くると第三世代まで必死に喰らいついていた生ける化石人老齢シーラカンス はギブアップ。 2000年はIBMの変身で始まった。AJILE(俊敏)もBPR(リストラ)も全て IBMの変身変幻の道具。IBMはパソコン事業も売った。SOA(サービス指向アー キテクチュアー)が合言葉になった。日本企業はオロオロするばかり。富士 通も日立も日電も迷走した。業績も一時迷走した。電子計算機を早めに諦め た東芝と三菱電機の経営はとっても好調だ。あのGEでさえさっさと撤退して しまった。そういえば,ウエルチ前CEOは「自分は化学屋で電子計算機は苦 手だ」と言ってたなー。 9.BOB BEAMER・MILT BRYCEが数年前に死去。 ボブ・ビーマーが死去した。程なくブライス氏も死んだ。MBA社のチーム が知らしてきた時考えた。ビーマーがASCIIコードを工夫しなかったらビル・ ゲーツも巨万の富を掴めなかった。インターネットも無い。 歴史に"もし?"は無いが,先人の苦労は偲ぶべきだと会話したものであ る。ASCII:American Standard Code for Information Interchangeは偉大 な標準化であった。 ミルト・ブライス氏がPRIDE方法論を世に出さなかったらプライド社も無 い。私も今頃工場でIE技師として現場改善をやっていることだろう。自画自 賛になるがシステム開発方法論の標準化も大事なことと信じている。情報資 源管理関連の標準化活動で故穂鷹先生と堀内一先生(今でもISOでご苦労さ れてる)達とでANSIのレフコビッツ連中とやりあったのも良い経験であった。 -- 経験し学んだ歴史を語ることは楽しい。良い時期に良い人と知り合えた ものである。学会の友人は皆"善知識"であり今後もこのような歴史を語り 合いたいものである。 html版は http://www.issj.net/mm/mm0205/0205-6-rk-km.html ▲目次へ [7] 研究会だより [7-1] 産業界から論文発表を促す会の活動報告 「産業界からの論文発表を促進するための研究会」は 9月15日(土)10時ー11時50分、 専修大学大学院棟(7号館)8階 784ゼミ室において 第11回研究会を開催します。 また,11月30日に2007年度研究発表大会と同時開催で 「事例研究論文作成のためのワークショップ」を開催します。 同研究会のこれまでの活動報告および今後の予定については、 こちら−−> http://is.nuis.jp/~takagi/issj/index/ ▲目次へ [7-2] グローバル・アライアンス(GA)研究会活動報告 カンボジア在住のインサイト・コンサルティングCEO,早川からの最新の 現地レポートをお伝えします。 (主査 槇本健吾) <カンボジア現地報告>(その2) (その1は6月号に掲載) <<外国人情勢>> 歴史的には,フランス統治時代には政治部門ではベトナム人が重用され, 経済は中華系が握るという構図でしたが,独立後例のポルポト時代の民族浄 化で,ベトナム系,中華系が迫害され華僑もいったん中国語を捨てるという ことがありました。昨今の中国の台頭で再び中華系が中華学校を再建し,中 国から中国語の教師が呼ばれるなど中華系の再興が始まっています。 <<台湾系の躍進>> 現状では,台湾系が街の中心の中小零細企業を仕切り,郊外の大規模な繊 維工場は中国系で,大手の商業施設はタイ系,韓国系が不動産投資で儲けて いるという形で各民族資本が棲み分けています。韓国系は目立ちませんが, 不動産部門ではかなりの成功をおさめているようです。空港から都心部への 道路の両側の土地は15年ほどまえに1平米単価が35セントだったものが, 今は200ドル(570倍)に高騰しており,儲けたのは韓国資本だという口 上を,空港から乗ったタクシーのドライバーから聞かされました。都市伝説 化したネタ的な要素もありますが,話半分くらいには受け止めています。 <<通貨・経済的特徴>> 現地通貨はリエルですが,おつりのための小銭としてしか使われていませ ん。基軸通貨(?)は米ドルで,タイバーツも流通しています。銀行もドル, バーツ口座を用意しており,バーツ預金ですと,一年定期の利率が8%です。 タイはシンガポール,マレーシアに次ぐ,アセアンの3番手という印象があ りますが,シンガポール・ドルやマレーシア・リンギットが隣国で流通して いるという話は聞きませんので,タイ資本のしたたかさが伺えます。 <<放送・通信>> 拙宅のアパートに敷かれているCATVは60CHほどありますが,その半分 が中国語放送,もしくは中国語字幕放送で,英語,タイ語,韓国語,クメー ル語,フランス語が複数チャネルを有し,インド,イタリヤ,日本語放送が 1CHあります。こうしたところに外国人の勢力図が反映しているように思 われます。 (早川賢雄) html版は http://www.issj.net/mm/mm0205/0205-7b-kh-ga.html ▲目次へ [7-3] 第9回「情報システムのありかたを考える」会開催の案内 第9回研究会を2007年9月8日(土)13時30分から、 慶應義塾大学理工学部(矢上台キャンパス創想館2階14−212 ディスカッションルーム2)で 開催します。プログラムは以下のとおり。 *第1部:午後1時30分―午後2時50分 題目 「ビジネス技術―わざの伝承」 講演者 柴田亮介(元電通リサーチ専務取締役 マーケッティング・コミュニケーション・プランナー *第2部: 午後3時―4時30分 題目 「情報生産とテクニカルライティング」 講演者 斉藤俊則(日本教育大学院大学学校教育研究科専任講師) ▲目次へ [8] 連載「大学教育最前線:第1回 中央大学」 中央大学理工学部 情報工学科 教授 久保田光一 情報システム学会メールマガジン大学教育最前線として,中央大学理工学 部情報工学科を紹介できることは光栄に思うと同時に,情報システム学会の いうところの広義狭義の情報システムに関する系統だった教育は行われてい ないことも告白せざるをえない.しかし,「情報システム学」という広範な 体系の土台となるところの,工学的な基礎教育をしっかりと行っているつも りである.その先の「情報システム」に関する講義は,これまでごく僅かの 科目しか開講できていないのが実情であるが,今後拡充できれよいと考えて いる.以下,簡単な沿革と学科の現状を紹介する. 中央大学理工学部情報工学科は,情報とシステムに関する工学教育のため に1992年に設立された.学科の英語名称は Information and System Engineering であって,いわゆる IS (Information Systems) では無い.設 立以来学科の目標は「基礎重視」であり,その意志が英語名称に表れている (と個人的に解釈している). カリキュラムの大きな特徴として,プログラミング演習を1年生から3年生 まで3年間実施している.このように演習に長い時間を設けている理由は, 自分の力で考える「場」の提供である. プログラミング演習時間には学生 を約 60名のクラスに分け,TA 3名,教職員 5〜6 名で学生をサポートして いる.単にできあがったプログラムを写すだけの作業をさせたくない,教員 やTAや友人等と相談しながら着実にプログラミングについて学ばせたいとい う目的である.その他学科の紹介・カリキュラムについては,Web ページ http://www.ise.chuo-u.ac.jp/ISE/outline/Curric/syllabus/ で概要を公 開している.カリキュラム詳細は現在更新中であるが,その中核は,情報数 学,回路とシステム基礎,解析概論,離散システム基礎,ディジタル回路, 集積回路などの必修科目群である. 学科の教育方針は基礎重視であるので,カリキュラムには,色々な応用ソ フトウェアやハードウェアを開発するに足る基礎知識と応用力を身につけさ せるための基礎科目が多い.上記プログラミング演習でもあえて Linux 環 境でのコマンドによる演習を行っている.これは単なる応用プログラム開発 ではなく,いわゆる「組み込み系」や「開発環境」の開発など,システムプ ログラム開発もできるような人材育成のためである. 最近,分野横断型の取り組みが色々と活発である.しかし,分野横断型の 取り組みの前提条件は,個々の専門分野の確立である.だからこそ,少なく とも学部レベルでは,自分の専門分野の基礎勉強を行うこと,他の分野にも 興味を持つことができるような広い視野を養うことと,が主たる目標ではな かろうか.そのような意識を持ちつつ,学生に接するように心掛けている. 以上のような方針で設立から15年経過した.幸運なことに,就職に関して 卒業生への求人数は多い.これは,しっかりと腰を据えて着実に進むことを 実践してきたひとつの証しであると考えたい. html版は http://www.issj.net/mm/mm0205/0205-8-zs-kk.html ▲目次へ [9] 連載「情報システムの本質に迫る」 第3回 桃は「ドンブリカッシリスッパイポー」と流れる 芳賀 正憲 情報システム学を組み立てていくためには,情報とは何か,その基本的な 概念が明確になっていることが必要です。前々回述べたように,information はinformから派生した語であり,informは「心・頭の中に形作る(言葉で表 す)」というのが原義です。したがって,情報の実体は言語であると考える のが妥当と考えられます。 より一般的には記号(の集合)と言うべきでしょう。しかし,記号の中核 を占めているのが言語であり,また「音楽は世界に通じる言葉」「文化は言 語である」という表現に見られるように,言語は広く記号全体を表わすもの としても使われるので,情報の実体は言語であると見なしてさしつかえあり ません。 この点に関して慶応大学で哲学の教授をされていた沢田允茂氏は,すでに 1962年「人間において情報の処理は,通常のばあい,主として言語とよ ばれる記号体系によっておこなわれている」と述べています(岩波新書「現 代論理学入門」)。62年といえばわが国が情報社会に突入していく前夜で す。このとき,沢田氏の観点をもとに出発していれば,今日「情報教育」が 「パソコン教育」を意味するような誤解は生じなかったと惜しまれます。 ここで私たちは,言語のもつ働きのすごさに思いをいたす必要があります。 人間の情報源の8割が視覚などといわれますが,視覚や聴覚には時間・空間 に限界があります。その上,認識した内容を他者に伝えるのも容易ではあり ません。しかし言語によって,私たちは時間・空間無限の広がりの中で,具 象・抽象概念のいずれでも,また虚実自在に思考も伝達も進めていくことが できます。 ヘレン・ケラー女史の事績は,言語がいかに大きな力をもつかを感動的に 伝えてくれます。1歳で視覚と聴覚を失ったヘレンは,7歳のときサリバン 先生からwaterという単語を教えられ,初めて言葉の存在に気がつきます。 彼女には触覚が残っていたので,ほとばしる水の流れと,それがwaterであ るという情報の形(指文字)を同時に認識することができたからです。 サリバン先生の献身的な教育を受け,17歳のときハーバード大学入学の ためヘレンが選んだ試験科目は,ドイツ語,フランス語,ラテン語,英語, ギリシャ・ローマ史の5教科。彼女はそれらのすべてに合格し,特にドイツ 語と英語では優等賞を受けました(新潮文庫「奇跡の人」)。 著書に彼女の職業は,著述家・社会福祉事業家と書かれています。著述家 が,平均的な人よりはるかに多くの情報受発信能力を必要とすることは言う までもありません。 このように大きな力をもつ言語という一つの文化を保有したとき,それへ の対応の仕方には民族・社会により大きな差異が生じました。典型的には, 西欧と日本が対照的です。 西欧では,「初めに言葉があった。・・・言葉は神だった。すべてのもの は,言葉によって作られた」と言われているように,言葉に絶大な力を認め た上で,だからこそ,このような強力な言葉を研究して使いこなそうと考え ました。 そのため,まず記録と伝達を容易にする文字を作りました。次に,言葉で は虚実変わらず表現できますから,言明の正しさが示せるように論証法を考 えました。さらに,1人より衆知を集めた方がより適切な結論が得られると 考え,対話のプロセスや弁証法を発展させました。このようにして概念化が 急速に進められました。 概念化とは,多数の事例を分析してそこから共通の見方や本質を抽出し, それに適切な言語表現を与えていくことです。概念化を通じて,西欧では哲 学や科学のめざましい発展がもたらされました。 わが国で,言葉に霊が宿り,言葉にはその内容を実現する大きな力がある と考えたところまでは,西欧と共通です。しかしその後は対照的で,わが国 では,そのようなすごい力をもった言葉は,恐れ多いからできるだけ直接的 に取り扱わないようにしよう,敬して遠ざけようと考えました。 まず,文字は言葉の存在を際立たせますから,作るのをやめます。論証は 言葉の操作になりますから,もちろんアプローチしません。厳密な言葉のや り取りになる対話は避け,以心伝心のコミュニケーション・プロセスを定着 させていきました。 西欧で概念化が進んでいる興味深い事例として,ブレインストーミングを 挙げることができます。 ブレインストーミングは,米国のオズボーン氏が創始,わが国には195 0年代に導入された,多数のアイディアを抽出するための技法です。企業の 問題解決などに広く用いられています。ところが米国では,30分間に 150アイディア抽出するなど,顕著な成果が報告されているのに,わが国 で実際にやってみると30以上引き出すのは容易ではないのです。その段階 になるとメンバーが皆,沈黙状態になります。 あるとき,米国のコミュニケーション技法のテキストを見て驚きました。 (McGraw-Hill College「COMMUNICATING AT WORK」)ブレインストーミング では,多数のアイディアを抽出するためルールを定めていて,そのうちの1 つは,わが国では「トッピなアイディアを歓迎」とか「自由奔放」などとさ れています。ところがそのテキストでは「Wild and Crazy」なアイディアを 出すことを求めているのです。そして実際に出されたアイディアは,すべて 仮定法過去の表現になっています。 周知のように,英語には仮定法のような「法」があります。法(Mood)と は,「心のあり方」という意味です。もともとブレインストーミングは,正 常な精神状態では評価をしたい,批判はされたくないという意識が働き,そ れが新たなアイディアの創出を阻害するので一種の精神錯乱状態をつくり, 正常な精神状態を脱却することを意図して考案されたものです。したがって Wild and Crazyのようなマイナスイメージの形容詞の方が,ルールの表現と して的確であると言えます。また,心のあり方は言語の表現を規定しますが, 言語表現が心のあり方に影響を与える側面もあります。現実を離れた仮定法 過去というMoodをもつ英語世界は,Wild and Crazyなアイディアを抽出する ことを,日本語世界よりはるかに容易にしているのではないかと推測しまし た。 概念化を進めなかった日本語は,その代わり感覚に近い言葉,擬態語や擬 音語を豊富にもつことになりました。 皆様は,桃太郎の桃は,川をどのように流れて来たと理解されていますか。 岡山民俗学会の立石憲利氏が調査したところ,桃の流れ方を形容する言葉は, 全国で100種類以上あるそうです。その中の1つが「ドンブリカッシリスッ パイポー」です(日本経済新聞6月21日朝刊)。 私たちは,言語の使われ方が人間の情報行動に及ぼす影響の大きさを考え, 今後さらに言語技術の研究や教育に力を入れていく必要があると思われます。 この連載では,情報と情報システムの本質に関わるトピックを取り上げて いきます。皆様からもご意見を頂ければ幸いです。 html版は http://www.issj.net/mm/mm0205/0205-9-jhnst03.html ▲目次へ [10] 会員コラム「アジアの情報処理技術者試験」 平塚亮三(光テクネット合資会社経営) 38年の歴史をもつ情報処理技術者試験は日本のIT人材育成で重要な役割を 果たしてきた。2000年からはアジア諸国でも同試験が実施され,資格の相互 認証が行われている。それから7年経った現在,アジアの情報処理技術者試 験の状況はどうなっているのか。アジアと中南米のIT人材育成の分野で各 国の大学や政府機関で講義や技術援助の経験を持つ平塚亮三氏にご寄稿いた だいた。平塚氏は経済産業省関連の事業で各国へ派遣され現地の人材育成に 関わった経験を持ち,現在はIPA(情報処理推進機構)のIT人材国際化審議委 員会の委員もつとめている。 (1)日本と各国の情報処理試験の関係 1969年に通商産業省が始めた情報処理技術者試験は日本のエンジニア の登竜門として定着し,応募者通算累計が1367万人以上という国内最大 の国家試験となりました。このメルマガ読者にも情報処理第二種(現基本情報 技術者)や初級シスアドなどの有資格者が大勢居ると思います。2000年に は当時の平沼経済産業省大臣が「アジアITスキル標準化イニシアティブ」と して,我が国の情報処理技術者試験をアジア各国へ広め,合格者の日本と相 互認証を行うことを提唱しました。 その結果,日本の14試験科目区分のうち,基本情報技術者(FE)試験など で各国と相互認証が締結されることになりました。 (2)アジアのIT資格制度レベル格差 2000年の提唱以前から,日本に追随してIT資格試験を実施していた国 には中国,韓国,インド,シンガポール,台湾があります。この既存の試験 制度を持っていた国々を本稿ではAグループと呼ばせていただきます。それ 以外の,日本のIT資格試験制度を移入する形で実施する事になった国々をB グループとすると,フィリピン,ベトナム,タイ,ミャンマー,マレーシア, モンゴルがあります。今後当然Bグループは増えるでしょう。 これらA,Bグループ各国の統計情報その他については,末尾に参考資料 をお付けしますのでご覧下さい。また,興味有る方は,日本の試験実施団体 であるIPA(情報処理推進機構)のサイト http://www.jitec.jp/1_18else/_index_else.html もご覧下さい。IPAは一 対一の形態で相互認証を締結し相手国を一国ずつ増やしてきました。 これらの資料からIT資格制度の普及度を比較できます。最古の歴史を持つ 日本は別格として,中国,インド,韓国の3国の実績が突出しています。そ の他の国は,どうもドングリの背比べと言った案配です。またIT資格制度の 趣旨も国家毎に様々です。インドでは学歴の無い人に理工系大卒の資格や博 士号を与えるための試験研修制度という位置付けですし,シンガポールでは 技術系公務員向けの試験です。合格率もFE(基本情報技術者,旧第二種)レベ ルで,日本が約16%なのに対し,中国が約50%,モンゴルが3%と差が あります。シンガポールのPM(プロジェクトマネージャ)では毎年100%合 格します。 したがって,Aグループでは試験制度の趣旨背景が国家毎に異なり,相互 認証の維持に多くの努力が必要だと理解していただけるでしょう。 (3)Bグループ国の動向 IPAでは,IT資格試験制度のアジア普及とIT標準の適正普及を目指し,新 たにIT資格試験を始める国々を援助し,相互認証を進めてきました。このB グループでは,前述のAグループに比べ,等質の試験制度を開始し維持する ことが出来ています。試験科目区分は日本と同一で,日本から提供された問 題,採点基準,集計用ソフトウェア等を使用します。とはいえ当初は相互認 証が個別に締結された事もあり試験日がまちまちで,試験問題は同じ年でも 国ごとに異なっていました。 IPAは2005年11月にBグループ各国を召集し,各国間での統合相互 認証の実施を会議で決定しました。更に2006年から春夏年二回同日に同 一問題でアジア共通統一試験(IT Professional Examination)が実施される ようになりました。このアジア共通統一試験のために該当7ヶ国代表により ITPEC(IT Professionals Examination Council)という協議会が年に二回集 められています。試験問題と解答例は当初全て日本から英文で提供されてい ましたが,ITPEC発足後は各国持ち寄りが少しずつ進められています。今後 各国試験実施団体が経験を積んで様々なノウハウを磨いていくことでしょう。 ITPEC内では一対一ではなく参加国全てで資格が認証されます。 しかしながら,各団体の得ている国家予算や受験料収入は乏しく独立運営 は全く不可能です。Aグループの中韓印は別として各国の実施機関はことご とく経済的基盤が脆弱です。特にBグループでのIT試験制度を継続させるに は,そもそもの提唱元である日本からの何らかのサポートが不可欠です。日 本の経産省はBグループ国からの日本への要請に応じ,ほぼ毎年日本人講師 を派遣し受験者向けセミナーなどを複数回実施しています。1試験科目で6 週間程度の講習会です。さらにBグループ国のうち,受験者増加傾向が見ら れるフィリピンとベトナムに対しては要請に応じて(筆者を含め)日本人専門 家が派遣され,数ヶ月間の技術援助を複数回数行っています。 これらのITPEC協議会,派遣講師,派遣専門家らの努力により少しずつ受 験者が増え,試験への認知も高まってきました。しかし成功例と見なされて いるフィリピンやベトナムで年間受験応募者数がやっと千人を越えたところ です。かつて日本で初めてIT試験が行われた1969年の初年度受験者数が 約5万人だったのに比べ見劣りします。 (4)相互認証の効果 Bグループではこの相互認証資格試験の立ち上げに対して,政府機関はエ ンジニア育成に弾みが付くことを期待しました。学生やエンジニアたちは合 格して日本企業や日系企業で仕事をしたいという期待を抱きました。日本発 祥の資格がやってくるということで,誰もが日本に対して強みがある資格の はずだと認識しました。また企業経営者は,合格者を大勢雇用して日本企業 からのオフショアリングを捉えたいという期待を抱きました。ところが現時 点では裏切られているというしか言えません。 このメルマガ読者の方々で,日本と外国の間でIT資格の相互認証がなされ ていることを知っていた方はどれほどいらっしゃるでしょうか。企業経営者 でオフショアを考えている方,人事担当者で外国人エンジニアを人選する方 ではいかがでしょうか。アジアのIT資格試験制度を相手の技術力の評価目安 にしていますか。日本国内で全く認知されていないのであれば,出先機関の 日本人も認知していません。現地の日系企業は合格者の期待を裏切ってきま した。せっかく合格しても日系企業の採用に反映されないのです。 筆者が主に活動してきたベトナムでは,筆者が派遣され広報教宣指導,講 習した期間に受験者も合格者も倍増しました。しかし残念なことに昨年秋か ら減少し始めています。 受験者が増えない理由がまだあります。試験問題情報がアジア各国で出回 っていないのです。日本のような過去問題集や対策本,対策カリキュラムな どが存在しないのです。日本から来る講師による対策セミナーがあるはずと 思われるでしょう。これは年に1〜2回開かれて一度に30人くらいに教え ていきます。考えて見て下さい。6週間平日毎日日中の講習に参加できる人 は非常に運が良いですし,年間受験者数に比べ少なすぎます。この講習受講 者は受験者向け教材を手に入れますが一般には販売されていません。日本側 の版権が厳しいのです。 合格者は日本への入国規制緩和措置を受けてビザ発給条件が緩やかになる というインセンティブがあります。ではその恩恵を受けている人数はどのく らいでしょう。フィリピン累計合格者471名中1名,ベトナム累計合格者552 名中0名,ミャンマー累計合格者43名中1名,といった少なさです。なぜイ ンセンティブが機能しないのでしょうか。それは緩和処置が,「合格者をた とえ中卒,高卒でも理工系大学卒業のエンジニアと見なす」という緩和規則 にあります。受験者はほとんど理工系大学の学生か卒業生なので意味が無い のです。 その結果,合格者が日本企業日系企業からの恩恵をあまり受けない結果と なっています。たとえばベトナムの現状では合格者はハノイのFTPソフトウェ アに就職する例が有名で,ベトナム人エンジニアの転職ステップの好例とし て知れ渡り始めています。また,ほとんどの在ASEAN日本企業の現地人採用 の人材評価基準はIT資格ではなく日本語能力です。日本語さえ出来ればITが 分からなくても日系企業に採用されます。アジア各国でオフショアリングは 増強して来ています。しかし今までのところIT資格試験の貢献度は無いとは 言えませんが,まだ少ないと言えます。 (5)筆者らの活動 今までBグループの国で筆者を含めいくらかの日本人講師が現地のエンジ ニアを対象にFE,SW(ソフトウェア開発者),NW(ネットワーク技術者),DB (データベース技術者),PM(プロジェクトマネージャ)などの講習を教えてき ました。大勢のエンジニアを合格へと助けてきたはずです。また講師育成セ ミナーも何度も行ってきました。 筆者は現地で教えるだけでなく,現地日系企業の日本人らと接してこの相 互認証について伝え続けました。その結果既存の進出済み企業の方々の皆さ んには相互認証を知っていただくことが出来ました。しかし,たとえばオフ ショア先を求めてのビジネスマッチング訪問団などの日本人の皆さんは現地 に来て筆者らから聞くまで現地のIT試験も相互認証もご存じありませんでし た。 そこで筆者ら派遣された講師や専門家は現地試験実施機関のホームページ の充実を助け,日本語ページを作り,毎年更新するように進言してきました。 もちろん当然予想されるように,日本語ページは筆者らが帰国後は更新され ていません。 筆者は初めてミャンマーで講習を教えた際に現地教材が無いことに気付き, その後の機会があれば現地向け問題例解説集等の教材出版の必要を報告しま した。その後IPAからはFE過去問題解説集が今年夏に英語で出版され,ITPEC 各国で活用されることになったところです。 また筆者は一昨年ベトナムに長期派遣された際にFE試験問題解説集とSW試 験問題解説集を執筆しました。昨年はベトナムでNW試験問題解説集を執筆し ました。すぐに英語から現地ベトナム語へ翻訳してもらって講習に使いまし た。筆者はそれらの教材を用いてベトナムとフィリピンにおいて繰り返し講 師育成セミナーを実施しました。私はこれらの教材の版権を放棄し,自由に 印刷し講習に使って欲しいと進言してきました。筆者が滞在中にそれら教材 を印刷した部数は,予想通りに筆者が帰国後すぐに無くなりました。ところ が現地で次にその教材を印刷してもらうまで一年半かかりました。この夏 (2007年)やっと経済産業省から現地での印刷活用の許可が出たところ です。この夏からやっとASEAN各国とモンゴルでこの教材が英語または各国 語で使用されるところです。なぜこんなに時間が掛かるのかいろいろな事情 が有ったようですが,理解に苦しんでいるところです。 (6)相互認証の維持必要 筆者は次のように考えます。日本の若年労働者は減っていきます。若者の 理科離れとニート化の心配が消えません。今後の日本企業が国際労働市場か ら優秀なITエンジニアを獲得する手だてが必要です。従って優秀な外国人若 者に日本語とIT技術を教え,日本の標準基準で評価する制度は必要です。で すから試験制度を立ち上げただけでは無く,試験前の上流の教育現場を整え, 合格後の雇用先や人材バンク機能までどこかで揃える必要があります。 筆者は過去の報告書でそのための組織の設立を繰り返し提案しました。そ の後上記の通りにITPECという協議会が始まりました。ところが,本日現在 ITPECは年に2回集まるだけの会合であり,事務局も専任担当者も居ません。 実体が無いものであり組織は有りません。また報告書で日本国内でこのIT資 格相互認証について広く広報するように何度も提案しました。その結果は皆 さんが知っているというか知らない通りということです。 ところで,日本がITPECで行っている事柄を横から見ていた韓国政府が, Bグループ各国の労働省に接触し別個のIT新資格試験制度を提案して回って います。韓国が提唱する新資格試験では,合格者全員の韓国企業雇用を保障 すると謳っています。これは日本の試験制度ではまねできません。韓国も将 来のIT人材不足を危惧しているのです。今まで日本の税金で育てた人材が韓 国等に採られていくことは十分にあり得ます。日本側の相互認証制度を強固 な物にしないと横取りされてしまいます。 (7)将来 Bグループの各国はPM(プロジェクトマネージャ)など高位試験の実施を望 んでいます。しかし受験者を育てる教育環境が未整備で,試験だけ始めるこ とが出来る状況ではありません。 各国受験者は詳細な試験情報や過去問題情報を望んでいますが,日本に比 べて情報が著しく貧しいままです。筆者も努力しましたがまだ焼け石に水に 近いと言えます。各実施団体や出版社,報道機関などの協力が必要ですが, 思うようには行かないのが現状です。 筆者はITPECの事務局がどこかに常設されることを望んでいます。しかし, 未定です。筆者は経済産業省に動いてもらうことを願っています。過去数年 間繰り返しアジアのどこかの国でIT試験に関する仕事に派遣されてきました。 今年度はまだ何も依頼を受けておりませんので,大阪の自宅に居ります。経 済産業省は今年も派遣する予算を確保したと聞いておりますが,まだ誰をど の国へ何時どんな形で派遣するのか調整を続けているのだと思います。出来 れば未整備の国へ援助しに行きたいです。でもポケットマネーで出来るよう な事ではありませんので政府機関から依頼を受けることを期待して待ってお ります。 近未来のアジアにおいて日本の影響力を確保することや,遠未来の東アジ ア共同体への道筋を考えるとIT技術の標準化に日本が何らかの立場を確保す べきであり,この相互認証資格は維持発展させるべきだと思います。 当面は各試験科目区分受験者向け現地教育環境整備と日本国内広報が急が れます。日本としては近未来遠未来の人口減少高年齢社会での若年IT人材 確保,多面労働力補完にアジアにもっと目を向け,アジアでの日本向け人材 教育に力を入れるべきだと思います。日本から提唱したアジアIT資格試験に 対して,日本が援助を出し渋るのは,相手を屋根まで上げておいてはしごを 外す行為と非難されるでしょう。 ※筆者はベトナムの多くのIT企業や理工系大学,専門学校と接触しています。 多くの受験者や合格者にも接触し情報を交換しています。個人的に筆者と 情報交換したい方は情報システム学会を通して連絡を取って下されば出来 る範囲で個別に対応したいと思っています。日本政府だけでなく民間企業 にも協力していただきたいです。よろしくお願いします。 <参考資料 A,Bグループ各国の統計情報> 以下に,(1)国名 (2)試験開始年 (3)試験監督官庁 (4)相互認証締結年 (5)試験科目区分数 (6)相互認証科目数 (7)最近の年間受験申込者数 (8)最近の年間合格者数 (9)試験言語を紹介する。 Aグループ(既存の試験制度を持っていた国) <1> (1)日本 (2)1969 (3)経済産業省 (4)− (5)14 (6)− (7)608,210人(2006年)(8)77,244人(2006年) (9)日本語 <2>(1)インド (2)1991 (3)通信情報省 (4)2001 (5)3 (6)1 (7)123,409人(2005年)(8)60,717人(2005年) (9)英語 <3>(1)シンガポール (2)1998 (3)情報通信省 (4)2001 (5)1 (6)1 (7)40人(2004年)(8)40人(2004年) (9)英語 <4>(1)韓国 (2)1982 (3)労働部 (4)2002 (5)3 (6)3 (7)304,773人(2006年) (8)84,629人(2006年) (9)韓国語 <5>(1)中国 (2)1991 (3)情報産業部 (4)2002 (5)5 (6)3 (7)91,758人(2006年) (8)19,363人(2006年) (9)中国語 <6>(1)台湾 (2)2002 (3)経済部工業局 (4)2004 (5)1 (6)1 (7)564人(2005年) (8)217人(2005年) (9)中国語 Bグループ(日本からの移入で始めた国) <7>(1)タイ (2)2001 (3)科学技術省 (4)2002 (5)1 (6)1 (7)2473人(2006年) (8)141人(2006年) (9)英語 <8>(1)フィリピン (2)2001 (3)貿易産業省 (4)2003 (5)2 (6)2 (7)1,179人(2006年) (8)117人(2006年) (9)英語 <9>(1)ベトナム (2)2001 (3)科学技術省 (4)2002 (5)4 (6)2 (7)1,446人(2006年) (8)112人(2006年) (9)ベトナム語と英語併記 <10>(1)ミャンマー (2)2001 (3)科学開発評議会 (4)2002 (5)1 (6)1 (7)210人(2006年) (8)7人(2006年) (9)英語 <11>(1)マレーシア (2)2001 (3)高等教育省 (4)2005 (5)1 (6)1 (7)324人(2006年) (8)19人(2006年) (9)英語 <12>(1)モンゴル (2)2003 (3)情報通信技術局 (4)2006 (5)1 (6)1 (7)165人(2006年) (8)6人(2006年) (9)モンゴル語と英語併記 (詳細は,http://www.jitec.jp/1_18else/_index_else.html を参照) html版は http://www.issj.net/mm/mm0205/0205-a-kc-rh.html ▲目次へ ******************************************************************** ・本メルマガ中の記名入りの記事は執筆者の意見であり,ISSJの見解を表明 するものではありません。 ・編集委員会へのメールは次のアドレス宛にお願いします。 issj-magazine■issj.net ISSJメルマガ編集委員会 編集長:砂田 薫,副編集長:吉舗紀子 編集委員:上野南海雄,小林義人,杉野 隆,芳賀正憲,堀内 一 (五十音順) ******************************************************************** ▲目次へ