情報システム学会メールマガジン大学教育最前線として, 中央大学理工学部情報工学科を紹介できることは光栄に思うと同時に, 情報システム学会のいうところの広義狭義の情報システムに関する系統だった教育は行われていないことも告白せざるをえない. しかし, 「情報システム学」という広範な体系の土台となるところの, 工学的な基礎教育をしっかりと行っているつもりである. その先の「情報システム」に関する講義は, これまでごく僅かの科目しか開講できていないのが実情であるが, 今後拡充できれよいと考えている. 以下, 簡単な沿革と学科の現状を紹介する.
中央大学理工学部情報工学科は, 情報とシステムに関する工学教育のために 1992年に設立された. 学科の英語名称は Information and System Engineering であって, いわゆる IS (Information Systems) では無い. 設立以来学科の目標は「基礎重視」であり, その意志が英語名称に表れている (と個人的に解釈している).
カリキュラムの大きな特徴として, プログラミング演習を1年生から3年生まで3年間実施している. このように演習に長い時間を設けている理由は, 自分の力で考える「場」の提供である. プログラミング演習時間には学生を約 60 名のクラスに分け, TA 3名, 教職員 5〜6 名で学生をサポートしている. 単にできあがったプログラムを写すだけの作業をさせたくない,教員やTAや友人等と相談しながら着実にプログラミングについて学ばせたいという目的である. その他学科の紹介・カリキュラムについては, Web ページ http://www.ise.chuo-u.ac.jp/ISE/outline/Curric/syllabus/ で概要を公開している. カリキュラム詳細は現在更新中であるが, その中核は, 情報数学, 回路とシステム基礎, 解析概論, 離散システム基礎, ディジタル回路, 集積回路などの必修科目群である.
学科の教育方針は基礎重視であるので, カリキュラムには, 色々な応用ソフトウェアやハードウェアを開発するに足る基礎知識と応用力を身につけさせるための基礎科目が多い. 上記プログラミング演習でもあえて Linux 環境でのコマンドによる演習を行っている. これは単なる応用プログラム開発ではなく, いわゆる「組み込み系」や「開発環境」の開発など, システムプログラム開発もできるような人材育成のためである.
最近, 分野横断型の取り組みが色々と活発である. しかし, 分野横断型の取り組みの前提条件は, 個々の専門分野の確立である. だからこそ, 少なくとも学部レベルでは, 自分の専門分野の基礎勉強を行うこと, 他の分野にも興味を持つことができるような広い視野を養うことと, が主たる目標ではなかろうか. そのような意識を持ちつつ, 学生に接するように心掛けている.
以上のような方針で設立から15年経過した. 幸運なことに, 就職に関して卒業生への求人数は多い. これは, しっかりと腰を据えて着実に進むことを実践してきたひとつの証しであると考えたい.