筆者の勤務する大学は東京の平均的な水準の文系私立大学です。教育内容・水準は決して自慢できる状況ではありません。しかし今回は御下命を頂きましたので、弊学における情報教育の現状をご紹介します。
筆者は長く弊学において情報教育を担当してきました。筆者の他にも数人の情報教育担当専任教員がおります。他に多数の非常勤教員が弊学内で情報教育に携わっています。弊学の情報教育は入門教育と中級教育に分かれ、それぞれ下記の表1と表2のような体系になっています(注1)。
表1の科目では、内容は長期的にあまり変わりません。しかし表2の科目では、より頻繁に改訂されます。入門教育(表1)のうちコンピュータリテラシー入門と情報リテラシー入門は必修ですが、その他は選択科目です。
(注 全て半期2単位科目)
(注 コンピュータリテラシー応用2は半期2単位、その他は4単位科目)
筆者の理解では(注2)、理系学部における情報教育との違いは技術習得よりもより広い応用可能性や情報システムの社会的影響についての概念的理解に時間がより多く割かれている事です。技術的な詳細にはあまり深入りしません。情報システムがどのように社会で応用されているのかについての理解が重視されています。
弊学は文科系大学として、情報技術の専門家を育成する事よりも、学生の産業や社会での応用可能性理解を重視しています。
かつてのプログラミング中心の教育に比べると、特に表2の中級情報科目の幅が広がっています。以前はより多くのプログラミング科目やアルゴリズムの科目が開設されていました。かつては学生のプログラミングへの関心が高く、筆者のゼミ卒業生でもプログラマになったり、コンピュータベンダーやディーラー、ソフトウェア開発会社などに就職する学生もかなりいました。しかし最近では、このような業種に就職する学生数が減っています。そもそも、プログラミング科目を履修する学生数が減少する傾向にあります。これは欧米における学生の情報システム指向低下と一致した傾向と思われます。
情報システム学は「技術的な側面よりはむしろ社会や組織体への応用を扱う社会科学,あるいはそれに近い複合領域」(注3)です。上記のような弊学における情報教育の長期的シフトは、コンピュータ教育から情報システム学方向へのシフトと見なせると思います。高度情報社会となり、情報システムが産業や社会に不可欠となり、情報技術だけでなく情報システムへの理解が深まってきた結果と思います。
(注2) 本稿の記述は筆者の個人的認識であり、弊学の公式見解ではありません。
(注3) 中嶋聞多「情報システムの研究」http://www.issj.net/is/01/index.html