情報システム学会
日本経済の課題と展望
―イノベーションで新しい日本の成長基盤を築く―
情報システム学会 設立総会 講演1
会長 北城 恪太郎 氏
2005年4月23日(記:2005.4 吉舗紀子)
<日本経済の課題と国際競争力>
 日本は、世界でも群を抜いて高い膨大な財政赤字(対GDP比163.4)を抱えています。一方、2100年には人口が現在の半分になるとの推計もあります。人口減少社会の到来に向けて、地方と都市との関係、社会保障の問題など、国の形をどうするかについても考えていかなければなりません。
 日本の国際競争力は現在60ヵ国中23位(IMD World comparisonによる)で、比較項目を見ると、研究開発投資やコンピュータ利用は2位と高いものの、株主価値重視が59位、企業家精神が60位と大変低いのです。また、日本の労働生産性はOECD30ヵ国中18位ですが、実は第2次産業(製造業)は米国を100としたとき93と高く、中でも先端製造業は120です。ところが、第3次産業は61ですし、第1次産業(農業など)は11と圧倒的に低い。ですから、規制で守られている分野は規制をなくして変革を促し、生産性を上げ、競争力を高めなければなりません。

<イノベーションによる新たな成長基盤の構築>
 企業経営にはイノベーションと改善の両方が必要です。イノベーションとは、「業界の常識を変える」「社会の仕組みを変える」ような大きな変革のことです。先に述べた日本の現状においては、イノベーションによって新たな成長基盤を構築していかなければなりなせん。
 イノベーションを起こすためには、「経営トップのリーダーシップ」「迅速な意思決定と実行」「イノベーションを推進する事業評価の仕組み」「イノベーションを担う人材の育成と成果主義」「ベンチャーの活用」が求められます。企業文化を創るのはトップの役割ですし、イノベーションには“感知して応える”スピードが重要で、そのためにはITインフラの整備も必要です。事業の集中と選択、そのための事業評価の仕組みも確立しなければなりません。イノベーションには“創造的思考力”が不可欠ですので、イノベーションを担うリーダーの資質を見抜く、人材を育てることも重要です。イノベーション実現のためには、社内リソースの活用だけとは限りません。業界の常識を変えるには、外部のベンチャーと提携する、あるいは買収するなど、外部から社内に取り込むことも必要でしょう。

<企業の社会的責任(CSR)>
 企業は社会の一員として、社会の発展に寄与しなければならず、反社会的な行動をとる企業は持続することはできないでしょう。公正な取引を行い、情報を適正に開示し、“社会からみて好ましい経営”をする必要があります。社会から“企業は金儲けだけ”と思われたら、官から民へという構造改革も進まないでしょう。

<社会システム改革のための情報システムへの期待>
 情報システムはいまや社会システムの基盤ともなり、その役割はますます高まっています。情報システムがなければ企業経営は成り立たないという現状において、もっと早く、もっと安く、もっと柔軟性の高い情報システムを構築できなければなりません。
 “情報システム構築・運用”の質の向上こそが、日本発展のための大きな課題といってもよいと思います。実務者と研究者・教育者が一体となって“情報システム構築・運用”の質の向上に取り組むことが必要です。
 情報システムに関する課題は、「投資対効果」「見積りの正確性」「開発スピード」「ローコスト」「信頼性、セキュリティ、プライバシー」「インテグレーション、オープンスタンダード、オープンソース」「知的所有権、柔軟性、ユーザインタフェース」など多数あり、どの課題が研究に値するかの定義もまだされていません。
 利用者の視点に立って、使いやすく、安心して使える効果的なシステムをどのようにつくるか――情報システムのあり方を追及し、人材を育成し、実務者と研究者が議論し、交流する場が情報システム学会(ISSJ)です。
 ISSJ会員の皆さまと「研究分野の選定」「知的所有権の保護と公開のバランス」「企業の参画の動機付け」「会員勧誘」「広報活動」といった課題に取り組み、価値のある情報システムをつくることによって日本の国際競争力向上に寄与していきたいと考えています。

以上
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