情報システム学会 メールマガジン 2013.7.25 No.08-04 [16]

連載 著作権と情報システム
第38回 1.著作物[4]比較検証(2)通産省案と文化庁案<1>

司法書士/駒澤大学 田沼 浩

[4] 比較検証
(2)通産省案と文化庁案<1>
 通産省(現経済産業省)案の詳細については既に前述したとおり、WIPOのこれまでの検討経緯と我が国のソフトウェアの保護制度を関係各国に向けて積極的にアピールをするため、国際的にもソフトウェアの特質と取引の実態にあったルールを構築することであった。そしてそれは、国際的保護のための特別条約の制定において我が国が主導的立場に立つことを目指したものであった。しかし、時を同じくした昭和57年に発生した日立・IBM事件(IBM産業スパイ事件)、富士通・IBM事件によって、通産省案が「日米貿易摩擦の象徴的存在」になったことで、日の目を見ることはなくなった。中山教授が述べている通り、ソフトウェアを自由に使わせること、言いかえれば特許権のように専用実施権や通常実施権がなければ利用できないような状態におかないことが、当時のアメリカの国益に合致していた。すなわち、ハードウェアとソフトウェアが一体となっていたことと、1929年の大恐慌から続くアンチパテント政策の名残りが残っていたことであろう。その直後から起きたアメリカのパテント政策は、プロパテント政策に転換して行く。1979年10月カーター大統領の「産業技術革新政策に関する大統領教書」、「バイ・ドール法」、レーガン大統領下の「ヤングレポート」へと1985年のプラザ合意までのアメリカの知的財産政策の転換は、世界各国の知的財産政策に大きな影響を与えた。
 特に、ヤングレポートの国際競争力優位性による政策的な転換点とも考えられている。その後の米国通商法スペシャル301条に基づく違反国への制裁措置を定めて、毎年「優先国」「優先監視国」「監視国」を発表している。「優先国(Priority Foreign Country)」になれば、米国通商代表部から改善協議が求められ、協議不調になれば対抗するための制裁が行われる。

引用・参照文献
「著作権法概説第13版」 半田正夫著 法学書院 2007年
「著作権法」中山信弘著 有斐閣 2007年
「著作権法第3版」 斉藤博著 有斐閣 2007年
「ソフトウェアの法的保護(新版)」中山信弘著 有斐閣 1992年
「特許法(第2版)」中山信弘著 有斐閣 2012年
「岩波講座 現代の法10 情報と法」 岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編 岩波書店 1997年