4月から、NHKで『スーパープレゼンテーション』の放映が始まりました。番組ナビゲーターを務める伊藤穣一さんにより、TED(Technology Entertainment Design)のカンファレンスでのプレゼンの数々が紹介されています。第3回目に紹介されたのが、デレク・シヴァーズ(Derek Sivers)の「社会運動はどうやって起こすか(How to start a movement)」でした。このプレゼンで、一本のビデオが見せられます。群集の中で、ある一人の男性が、突然裸になり、奇妙な踊りを始めるというものです。最初、しばらくの間は、何も起こりません。見ている私たちと同じように、ビデオの中の人々も、ポカンとして見ています。ところが、この裸踊りの人の横で、一緒になって動きを真似する人が一人でてきます。なんだかわからないのですが、とても楽しそうです。すると、二人、三人とだんだん真似して踊り出す人が増えてきます。そうなると、この踊りの集団を遠くで見かけた人も、画面の外から駆け寄って、踊りに加わります。最後は、画面の人たち全員が、踊っているというところで終わります。
このビデオに対して、デレク・シヴァーズは、こう述べます。
「最大の教訓は、リーダーシップが過大に評価されていることです。たしかにあの裸の男が最初でした。彼には功績があります。でも、一人のバカをリーダーに変えたのは、最初のフォロワーだったのです。・・」と。
もしフォロワーがいなければ、一人の裸の男はそのままで、リーダーにはなり得なかった。フォロワーがいて初めて、リーダーになりえた、ということを指摘しています。
今回は、リーダーシップを補完する重要な要素としてのフォロワーシップとそのあり方について、考えてみたいと思います。
リーダーシップの定義には、様々なものがありますが、その一つは、プロジェクト・メンバーを含むステークホルダーの力を引き出すことでプロジェクトを成功に導く力です。メンバーの力を引き出すために、プロジェクト・メンバー個々人の目標と組織やプロジェクトの仕事を結びつけることがリーダーにとっての役割になります。明確なビジョン、目的・目標を共有することで、メンバーのプロジェクトへの貢献・献身・工夫が生まれます。たとえば、すべてはプロジェクトの成功のため、という価値観が、仕事の優先順位づけやステークホルダーとの交渉時の基準になるからです。
ところで、一見すると、リーダーシップの重要性に反するように思えるかもしれませんが、組織論の研究成果によると、組織運営において、リーダーの持つ影響力は、10〜20%にすぎない、ともいわれています。残りの80〜90%は、リーダーを支えるメンバーの力から成り立っています。つまり、このメンバーの持つ力、リーダーシップと対になる概念として、フォロワーシップがあります。
フォロワーシップは、リーダーを支えるフォロワー、部下の力を指します。メンバーシップとか、部下力と呼ばれるものと同じ、と考えています。
リーダーや上司の指導力や判断力を、現場を熟知しているフォロワー・部下が補うことで、組織の力を最大化させるというものです。
したがって、プロジェクトが大規模化・複雑化・高度化している現在、プロマネにとって、自身のリーダーシップ・スキルを向上させることは必要ですが、それ以上に、フォロワー・部下のフォロワーシップをいかに醸成するか、高めることができるかが、プロジェクトの成否を握っています。また、プロジェクト・メンバーのフォロワーシップをいかに発揮させるかが、リーダーシップの大きな要素の一つである、と思っています。
ロバート・ケリー『指導力革命―リーダーシップからフォロワーシップへ』(*1)によると、フォロワーシップの内容は、「貢献力」と「批判力」の2つの力により成り立つ、といいます。
「貢献力」とは、上司の指示にしたがって、積極的に目標の達成に邁進する力を示しています。一方、「批判力」とは、上司の指示が正しいかを自分なりに考え、必要があればあえて提言する力です。上司より現場を知った上での建設的な提案が、フォロワーには求められています。
したがって、「貢献力」が高いとは、組織の活動に積極的にコミットしようとする態勢が整っていることであるのに対し、「貢献力」が低いとは、消極的・受け身の姿勢をとっていることを示します。また、「批判力」が高いとは、組織や上司の価値観に対して、建設的に批判をする姿勢である一方、「批判力」が低いとは、無批判・依存的な姿勢であることを示しています。
この「貢献力」と「批判力」の程度の組み合わせによって、具体的なフォロワーの姿には、大別して5つのタイプがあるといいます。
(1) 貢献力が低く、批判力は高い 孤立型フォロワー
(2) 貢献力が高く、批判力は低い 順応型フォロワー
(3) 貢献力は中位、批判力も中位 実務型フォロワー
(4) 貢献力が低く、批判力も低い 消極的フォロワー
(5) 貢献力が高く、批判力も高い 模範的フォロワー
各タイプの特徴を見てみます。
(1)孤立型フォロワーの特徴は、「自立した考えを持つ一匹狼」や「組織の良心である」といった自己イメージを持っているケースが多い。他人からは、「問題児・シニカル・ネガティブ」「不満分子」「頑固で判断力に欠ける」「チームプレイヤー向きではない」と見られています。
(2)順応型フォロワーの特徴は、「気安く仕事を引き受け、喜んでこなす」「チームプレイヤーだ」「リーダーや組織を信頼し、身をゆだねている」という自己イメージを持っています。他人からは、「自分の意見に欠ける」「こびへつらい自分を卑下する」人と思われており、摩擦を恐れるために、本当は断りたいことも、「ノ―」と言えない人になっています。
(3)実務型フォロワーの特徴は、「仕事を遂行するために、組織をどう動かしたらいいか承知している」「バランスのとれた見方をする」という自己イメージを持っています。他人からは、「まあまあの情熱、月並みな手腕で業務をこなす」「危険を嫌う。失敗したときの逃げ道を用意している」と思われています。なかなか手厳しい指摘です。しかしながら、ルーティン・ワークに逃げており、創造的な仕事をしていないことに対する評価になっています。
(4)消極的フォロワーの特徴は、「リーダーの判断や考えに頼るべきだ」「上司が指示を出したときだけ行動を起こすべきだ」と思っています。他人からは、「勤務時間に仕事に来ているだけで、何もしていない」「ノルマをこなしていない」と思われています。
(5)模範的フォロワーは、独自の批判的思考(クリティカル・シンキング)を持ち、リーダーやグループを見極め、自主的に行動することのできる人である。「知力を含む、あらゆる才能を組織やリーダーに捧げている。ときにはリーダーの職務を補い、またあるときにはリーダーの困難な仕事を引き受けたりもする。」
さらに、組織やプロジェクトにおける「クリティカル・パスの立場から見て、この仕事はどうだろうか?」と自問する習慣が身についている人である、といいます。
このように様々なタイプのフォロワー、部下像をみるにつけ、一律なマネジメントで対処できず、なかなか一筋縄にはいかないことがわかります。
模範的フォロワーでない大多数のフォロワーが、模範的フォロワーになるために各々どう取り組めばよいのか?
「貢献力」と「批判力」の2つの軸を基に、こう述べられています。
孤立型フォロワーが、模範的フォロワーになるには、「貢献力」に対するネガティブな面を克服し、改めて前向きに仕事に従事するようになることが必要となります。
順応型フォロワーは、批判的思考を身につける訓練を積むことで、模範的フォロワーとなり得ます。だから、WIN−WINの関係を模索するために建設的に対峙、議論することで相手との関係が壊れることはない、と知ることが必要であり、実際の現場において、WIN−WINの関係を志向した交渉の経験を積むことが大切になります。
実務型フォロワーは、「後悔より安全」の価値観を持っています。そこで、自問すべきことは、「あなたは生き残るだけで満足か?」という問いかけ、自答することが必要になります。つまり、実務型は、目線を上げ、より高い目標を持つことで、模範的フォロワーとなり得ます。
消極的フォロワーは、まずフォロワーシップとは何かを知ること。フォローするとは、考えないことでも、消極的でいることでも、スポーツを観戦するようなことではないこと。受け身であることとは本質的に異なることを知ることからはじまります。
さらに、フォロワーシップを発揮させるためにはどうしたらいいのでしょうか?
その方法を考える上で、『影響力の法則―現代組織を生き抜くバイブル』(*2)のパートナーシップに関する項が参考になります。
まず、フォロワーが、リーダーや上司に影響を与えるために知っておくべき心得があります。
・あなたの上司は常に十分な情報を持っているわけではない。
・上司といえども全てに対応できるわけではない。それほど、世界はどんどん複雑になっている。
・マネジメントがうまくいっているかどうかを知っているのは、部下なのだ。
そして、フォロワーとリーダーの間の関係を、優位なリーダーと劣位なフォロワーの関係という関係から、パートナー関係へ転換する必要性を説きます。
・パートナーに大きな間違いをさせない
・パートナーが悪く見えるようなことはさせない
・行動を起こす前に、必ずパートナーに必要な情報を与える
双方とも相手から要請がなくても、貢献力と批判力を発揮する関係であることが求められます。この関係を、パートナーシップと呼びますが、このパートナーシップを円滑にする方法も示しています。
・双方が目指す共通の目的に対して忠実である
・個々の利益よりも、全体の利益を優先させる
・異なったスキルやものの見方を尊重し、それらを活用する
・お互いの弱点を許容する
・ひどいと感じる言動は、悪意からではなく、間違った情報や不適切な解釈のために起きていると考える
パートナー関係では、パートナーは組織のためにベストを尽くそうとしており、かつ基本的に知的で能力がある、と考える必要があります。こう考えられなければ、パートナー関係は難しくなります。
フォロワー・部下の自主性なるものに期待するだけでなく、彼らのフォロワーシップを高める努力を求めつつ、プロマネ・上司としても必要な支援をすること。プロジェクトを通してのフォロワーシップの醸成・育成も、プロジェクト成功の鍵の一つである、と認識しています。