シナリオとは、将来を知るための実現可能な詳細な説明で、戦略を構築・実践するための企業内部での一貫性を確保した上で、経済、産業、または技術の革新に重要な複数の想定に基づいて策定されます。シナリオの計画と分析は、2つの一般的な意思決定の際のあやまり、つまり、変化の過小評価あるいは過大評価の補正を行う複数のシナリオを構築するための体系的な方式に特徴があります。シナリオ計画と分析の全体的な目的は、戦略的な考え方の共有できる基本的な考え方を構築することです。ここでシナリオ計画とは、シナリオを策定するための一連のアプローチ全体を意味しています。
シナリオ分析とは、不穏なそして急激に状況が変わる環境の分析をするときの予測を計画的に構築するためのツールです。決められた規律を守りながら創造的であるアプローチを通じて、環境の変化によって将来起こりうることをすべて想定し、その数を管理可能な数まで減らし、依存している環境変化をもたらすと思われる変数(変化するであろう要因)の関係を判別するために感度分析を組み込み、戦略的な意思決定の際に生じる盲点をなくすために傾向やパターンを孤立させ、将来の戦略的判断の際に考えを表現するための枠組みを提供するめに定量的および定性的な分析の組み合わせです。
ビジネスを取り巻く環境分析は、定義上そして必要性から長期計画において分析者は現在の状況の先を見て、不確実な将来の競争のために企業の経営資源と能力を準備しなければなりません。傾向の推定や計量経済学などにおいて、このような考え方は予測テクニックの範囲であると思われていました。しかし予測するということは、将来は過去の傾向やパターンから予測できるということを前提としているという概念そのものに大きな弱点がありました。この弱点は、短期ではなく長期にわたる予測を行ってしまったために失敗してしまったことで明らかになっています。
より的確なシナリオを描くためには、当然、企業を取り巻く環境を正確に捉えるための情報収集・分析・加工をすることでインテリジェンスを生成しなければならなりません。
多くの研究が従来の予測方法の妥当性に挑み、正確性が低く有用でないことを指摘しています。1970年から1975年の間に構築されたアメリカの計量経済学モデルの包括的な研究のひとつは、9ヶ月を超えるもので信頼性があるものは構築できないと結論付けています (Spivey & Wrobleski、1980)。同様に、それでは、定量的エコノメトリックモデルとより定性的な予測のアプローチとの間に正確性において何の違いもないとしています。1978 年の米国政府が支援したもうひとつの研究でも、エネルギーの価格の予測テクニックが扱われました。この結果も類似しており、どの種類のエネルギー価格の予測テクニックも惨憺たる成績を収めていたが、定性的なアプローチはエコノメトリックモデルよりも優れた結果を残す傾向にあったことを指摘しています。別の大規模な研究は、特定のメソッドを使用したからではなく、想定が間違っているため、予測はしばしば不正確な結果をもたらすとしています (Ascher、1978)。
このような一連の研究と予測方法によって将来を予測できないことに対する経営者達の悲観論により、従来の予測テクニックが用いられなくなったと言えます。戦略的計画ツールとしての予測の限定的な価値は、戦略の教祖共言われている Peter Drucker (1973) によって恐らくもっとも上手にまとめられています。Druckerは、「我々は予測ができないのだから戦略的計画をしなければならない」と主張しています。
1970 年代になると、伝統的な予測テクニックの落とし穴を克服するために企業の戦略計画立案者達はシナリオ分析を採用する機運が高まりました。コンュータのシュミレーションモデルによるシナリオ作成には、1942 年にマンハッタンプロジェクトの原子物理学者によって最初に使用されたと言われています。
シナリオ分析の次の大きな発展は、RAND Corporation が U.S. Air Defense Missile Command のためにコンサルティングを行った中で生まれました。RAND の軍事戦略家たちがシナリオを、「ちょっとした出来事や判断のポイントに焦点を当てるために構築された出来事の仮想上のシーケンス」 (Kahn & Wiener、1967) と定義した最初の人達でした。開発の目的は、将来を正確に予測するよりも、「相互依存関係と現在と将来の傾向をさらに理解する助けとなるシナリオ」として設計されていました。
RAND でのこの先駆的な研究は、今ではもう有名な持続的なグローバル経済成長のシナリオ分析である Limits to Growth (Meadows et al., 1972) と Mankind at the Turning Point (Pestel & Mesarovic, 1974) によって追随されてきました。これらの研究で、シナリオ分析に組み込まれている要因間の相互依存関係は、個々の要因にしばしば取って代わるということを明示的に認識した重要な結論を導き出しています。つまり、シナリオ分析は最初の動的な要因に再度インパクトを与える「ポジティブなフィードバックのループ」または「内部でつなぎ合わさっている原因と結果の関係のインパクトを組み込まなければならない」ということです (Zentner、1982)。たとえば、組み込まれている要因のひとつである経営資源の利用の可能性が変わった場合には、ポジティブなフェードバックのループを通じて経営資源の利用の可能性に影響を与えると思われる他の要因 (環境汚染、食料の収穫、人口、資本の利用可能性など) のインパクトのシーケンスを相殺することになります。
シナリオ分析は SRI International によって1982年に行われた Seven Tomorrows (Hawken、Ogilvy、& Schwartz、1982) という研究でさらに信任を得ました。このシナリオでは、経済成長、エネルギーの利用可能性、農業の生産性、社会価値システムと気候の変化の傾向を分析することにより、今後20年間を想定しようとする試みでした。それぞれの傾向を動かしている異なる変数を操作することにより、ポジティブなフィードバックのループを通じていくつかの大きな変化を伴う将来像を描くためのシナリオについて、この研究では構築することに挑みました。
これらの初期のころのシナリオの構築と分析は非常に定量的であったにも関わらず (つまり、それらの一部は数十万の相互依存関係を組み込んでいました)、より定性的なシナリオ分析もこの時期に同時期に発展していました。もっとも有名なシナリオ分析への定性的なアプローチは、1960年に Olaf Helmer によって開発されたDelphi メソッドとクロス・インパクト分析(1960年代初頭に開発)でした。基本的に Delphi メソッドは、複雑な数学的モデルよりも、専門家により繰り返しなされる提言を新たな変数としてインプットすることに依存します。
1970年代中盤から後半にかけて、戦略計画プロセスの重要な一部として多くの大手企業に採用されました。また、良く知られている1970 年代の石油危機は、シナリオ分析の重要性を強調しました。更に、1977 年に分析方式に正式にシナリオ分析を取り入れたのは Royal Dutch Shell Company などの石油会社でした。中にはシナリオ分析は Shellが1973年の6位から1980年代後半の2位にグローバルな競争において躍進する原動力になったと言う人もいます (Grayson & Clawson、1966)。その背景には、経済、政治そして社会的要因の変化に対応するのに適切であるため、それらに対して脆弱な体質であった石油会社で人気となり積極的に導入されたようです。
1977 年には、フォーチュン 1000 社を対象に行った調査では、そのうちの 16%の企業が積極的に複数のシナリオ計画を使用していたことが分かっています (Linneman & Klein, 1985)。
グローバライゼーション、貿易の自由化、情報技術によって作られた絶え間ない変化を考えた場合、シナリオ分析はあらゆる規模の企業が将来を戦略的に知るための基本的なツールとして現在認識されていると言えます。
現代の組織と業界は、大きなチャンスとリスクを伴う大きな社会・産業・経済構造の変化と不確実性に直面しているために、大胆かつ正確な判断をしなければならない場合があります。このような不安定な環境で将来を予測する場合、非常事態計画だけでなく、感度分析やコンピュータでのシミュレーションも併せて行う必要があります。また創造性、洞察力そして直感も必要です。シナリオ計画および分析は、分析者がこのような要求を構造化することを助けるツールとなります。
Schoemaker (1995) は、次のような状況に直面している企業は、シナリオ計画および分析から利益を得ることができると指摘しています。
業界は発展し、発展するにつれ、魅力のレベルが変わります。この発展がどのように展開するか知ろうとすることは、よくても不確実な要素を含むことになります。この不確実性のレベルが極めて高いとき、その準備をするのにシナリオ分析は非常に役に立つと言えます。既に述べたとおり、シナリオとは、経済、業界および技術の発展に重要な複数の想定に基づく、将来の予想を企業内部で一貫性のある詳細な説明であると言えます。業界シナリオは、将来業界がどのようになっているかに関する詳細な内部で一貫性のある説明です。
ここでは、シナリオ分析の定量的そして定性的な4 つの一般的なアプローチを紹介します。
(1)コンピュータによって生成されたエコノメトリックモデルによるアプローチ
このモデルでは、識別された複数の傾向要因間の多数の変数の相互関係を統合しようとするものです。1つの変数を変更することにより、重要性が低いインパクトの順序が最初の変数に対するポジティブなフィードバックループ効果とともに分析されます。
(1)直感的なメソッドによるアプローチ
この方法は定量的なアプローチを排除し、将来的に不均衡なインパクトを与えると考えられている定性的な変数を強調します。基本的なトレンドとして識別された変数が将来に投影され、驚きのない将来像が構築されます。この後に、トレンドの一部が変更され、可能性のある別の将来について調査が行われます。この直感的なアプローチは、魅力的なほどシンプルですが、非常に抽象的で体系的に応用しにくいので操作し難いアプローチと言えます。
(2)Delphi モデルによるアプローチ
この方法では、専門家のパネル (内部と外部の両方) に自分の専門分野の現在および将来のトレンドを個別に何度かインタビューします。何度か繰り返した後、多数の意見を一致させるために結果を統計的に処理します。Delphi アプローチは、将来起こるであろう出来事の一連の軌跡を判断することに焦点を当てています。
(3)クロス・インパクト分析によるアプローチ
このアプローチでも専門家に意見を求めますが、加えて将来のトレンドまたは出来事に関し専門家が起こりそうだと考えている発生時期を求めます。これからは、複数のトレンドまたは出来事の中から1つの傾向または出来事を取り除いたときのインパクトを判断するために操作可能な、将来の出来事の可能性および時間枠において起こりそうなことの分布が得られます。クロス・インパクト分析では、将来に影響を与える識別されたさまざまな要因、出来事、問題間の相互依存性に焦点を当てています。
定性的なアプローチを重視したシナリオ分析が、今日採用すべき最も効果的なメソッドのように思われます。最初に多数のシナリオを構築し、演繹的または帰納的なアプローチを使用して数を減らします。演繹的に減らすときには、各シナリオの一般的な物語のテーマを考え、次に各シナリオで支配的な影響力を与える要因に集中します。帰納的に減らすときは、分析者はまず要因を管理可能な数に減らし、次に潜在的な将来価値を予想しもっともらしいシナリオを得るためにこれらの複数の要因を組み合わせます。
演繹的な方法も帰納的な方法もそれぞれに長所がありますが、リスクもあります (Schnnars、1987)。演繹的に減らす方法では、分析者は多数の要因を組み合わせ将来の物語を構築できますが、重要な要因の組み合わせを省略してしまう場合があります。したがって重要なシナリオを見逃してしまうことがあります。逆に、帰納的に減らしてゆく方法では、最初に要因の数を減らしてしまうので、重要な変数を省略してしまうことがあります。これらの両方の盲点を回避するために、Schnnars は両方のアプローチを追及することを推奨しています。管理可能な数としてシナリオを集約することが出来れば、シナリオをより厳格に分析することができるようになります。
シナリオ分析にどのアプローチを使用するかということに関わらず、通常次の 5つの目的が追求されます。
シナリオ分析においては、「ソフト」な定性的な要因の重要性が高いために、シナリオ構築を成功させるためには組織の特徴が大きな影響を与える場合があります。もっとも重要な要因は、トップマネジメントの積極的な関与です。これは、一見抽象的で漠然としているシナリオ分析を、将来の競争のために準備する責任があるマネジメントチームのさまざまなメンバーにより、具体的なはっきりとしてものとして見せることができます。もう1つの重要な成功要因は、さまざまな背景を持つシナリオを分析する者の関与です。教養課程、文科系、そして社会科学などをしっかりと学んだ分析者は、シナリオの分析過程において真の価値を付加することができます。このような専門知識を有する者は、将来の環境について通常より影響力がある無形の定性的な要因に、技術寄りあるいは定量志向の者よりも敏感に反応することが多々あります。
シナリオ分析の強みと利点としては、経営資源を基本とした視点からの戦略オプションをテストすることができます。シナリオは、業界が進展する過程において競争優位を得るための資源または重要な成功要因を識別する時に力を発揮します。それぞれの競争相手に関するシナリオにおける結果を使用することで、守りおよび攻撃の両方の動きを予測することが可能となります。
シナリオの発展におけるもうひとつの価値ある局面は、業界の革新的な動きについてマネジメントが鋭敏についてゆくことができるということです。優れたシナリオかどうかは、それが将来を正確に表しているかということではなく、組織がそれから学んだり、適応したり、進行中の「戦略的転換」を行うことができるかによります。この理解のプロセスを通じて、リスクに対する有事戦略として戦略オプションに投資することの漠然とした重要性をより把握できるようになります。シナリオ分析は、企業が持つ経営の盲点を緩和するもっとも良いツールの1つです。
シナリオ分析はまた、定量化および定性化の相対的な度合いまたはシナリオアプローチの公式または非公式な性質が、個々の企業の風土や能力に合わせて用意することができるので非常に柔軟な分析であると言えます。
4.1.1 予測の隙間部分を埋める
シナリオ分析で取り扱うシナリオは、従来の予測が終わるところから開始されます。可能な将来の環境の非公式な定性的な評価を含めることによって、シナリオ分析は確立された予測テクニックの定量的な範囲を超えて、多くの関連する変数を含めて分析をすることができます。
4.1.2 情報過多管理ツール
シナリオ計画では、膨大な量のデータをインテリジェンスとして絞り込むことで、実際に行動を起こすことができる範囲を設けることができるため、非常に有用な分析ツールです。その性質から、シナリオ分析はマネジメントが将来の競争環境がどのような状況になるかについて理解することを助けるよう構造が組み立てられています。
4.1.3 シナリオ分析のみに戦略の策定をゆだねている
シナリオ計画の潜在的な破綻は、組織がシナリオ計画を戦略の策定の代わりに使用するときに起こります。シナリオ計画では、それが企業の現在のあるいは将来の戦略であるかに関わらず、予定戦略の結果を知ることができます。そのため、シナリオ計画を分析で使用する必要があります。これは特定の戦略を支えたり分解したりすることはできますが、新しい戦略を策定はできません。
4.1.4 偏りを避ける
企業の現在の強みにもっともフィットするシナリオを選択するトレンドを避けなければなりません。分析者は自分の生来のトレンドと絶縁し、それぞれのシナリオの真の可能性に客観的にならなければなりません。
4.1.5 グループでコンセンサスをとることの困難
グループがシナリオに合意することは重要ですが、必ずしも管理することは容易ではありません。シナリオにはしばしば「ソフト」と「ファジー」な両方の局面と定量的および分析的な局面が含まれるので、それぞれに合意してもらうためには多くの労力と時間が必要となります。簡単なものに対し複雑なシナリオを構築するには、いつもトレードオフを行わなければなりません。
4.1.6 競争および財務的な懸念にシナリオを結びつける
シナリオは概念的なシンプルさからアピールする度合いが高いことが多いです。シナリオを構築する際、困難となるのは、「正確性」と「方向性」の間のトレードオフです。しかし、マネージャや意思決定者に基本的なシナリオから競争的な財務問題までのレベルまで掘り下げてもらうには、ほとんどのシナリオは広範囲なマクロレベルで構築されているので困難な場合があります。
シナリオは物語のようであるにも関わらず、シナリオ計画は体系的に認識できるような創造的なプロセスになっています。シナリオ分析の正しい実行方法を1つに絞ることはできませんが、このアプローチの共通的な経験を基にいくつかのガイドラインが構築されています。ここで紹介するシナリオを構築するためのプロセスは、Schomaker(1995) によって開発・推進されているものです。
ここではシナリオ分析を進めるための10のステップについて説明します。
ステップ1:分析の範囲を定義する
製品、市場、顧客グループ、技術または地理別に時間枠と分析の範囲を設定します。時間枠は、製品ライフサイクル、政治、選挙、競争相手の計画期間、技術の変化の割合、経済のサイクルなどのいくつかの要因に依存しています。いったん適切な時間枠を決めたら、あなたの組織にとってもっとも価値が高い知識は何になるかを質問してみてください。
ステップ2:主なステークホルダーを決める
将来、重要な問題の発展に興味を持つのはどの仲間か、またそれらの人達により誰が影響やインパクトを受け、逆に誰がそれらの人たちに影響やインパクトを与えるか。ステークホルダーの現在の役割、利害、地位を識別し、それらが時間の経過と共にどのように代わるかを評価します。
ステップ3:基本的な傾向を識別する
最初のステップで識別した問題に影響を与える可能性がある業界や STEEP の傾向は何か。それがあなたの組織にどのように (負に、正に、中庸に) 影響するかを含め、簡単にそれぞれの傾向を説明してください。継続の可能性に関する意見の不一致の傾向に関しては、次のステップで取り扱われています。
ステップ4:不確実性を識別する
どのような結果および出来事が不確実なのか、また関心があることにどのような影響を与えるか。それぞれの不確実性に対し、起こりそうな結果を識別します。(つまり、法案が通過あるいは否決したか、技術の開発に成功したのかしなかったのかなど。)また、これらの不確実性の間に因果関係は存在するのかを識別し、もっともらしくないものの組み合わせを除外します。例えば、政府または私的な負債と赤字が着実に増える一方で金利も着実に下がるなどです。
ステップ5:最初のシナリオのテーマを構築する
(a)不確実なものの上位 2つを識別し、それを評価する、(b)連続性が高いもの対低いもの、準備の度合い、混乱など可能性のある一連の結果を結合する、(c)正の要素を全て1つのシナリオに入れ負の要素を全て1つのシナリオに組み込みこむことで極端な世界を識別するなど、いくつかのアプローチをとることができます。
ステップ6:一貫性とありえそうかをチェックする
次の要素を評価することになります。(a)選択した時間枠とトレンドに矛盾はないか。矛盾がある場合、適合しないトレンドを除外します。(b)実際は矛盾のない不確実性の結果をシナリオは組み合わせているか。組み合わせていない場合は、シナリオを排除します。(c)主要なステークホルダーは、自分が好むポジションに配置されているか。その場合、シナリオは別のものに変わってゆきます。
ステップ7:学習のシナリオを構築する
ステップ6を実行することにより、一般的なテーマがいくつか浮かび上がってくるはずです。あなたのゴールは、戦略的に関連があるテーマを識別した後に、それらのテーマで可能なトレンドや結果をまとめることになります。それぞれのシナリオのトレンドは浮かび上がってきますが、適時それぞれのシナリオにおいて比重の強弱を付ける必要があります。
ステップ8:調査しなければならないところを識別する
盲点についてより深く掘り下げ、不確実性やトレンドに関する理解を深める必要があります。例えば、特定のシナリオにおいてステークホルダーがどのような態度をとるかを本当に理解しているかどうか考えます。
ステップ9:定量的なモデルを構築する
シナリオが内部で一貫しているかを再度調べ、定量的なモデルを通じて特定の相互作用を公式化する必要があるかを評価します。このモデルでは、さまざまなシナリオの結果を定量化でき、有りえそうもないシナリオからマネージャが迷走することを避けることができます。
ステップ10:意思決定シナリオに向けて発展させる
やがて戦略をテストするために使用するシナリオにこれらのことを繰り返し行い、革新的なアイディアを創造します。あなたの企業が直面している実際の問題をシナリオが解決するものであるかどうか、またそれが組織の意思決定者の創造性や理解を刺激するものであるかどうかを自分自身に問うことになります。
これらのステップを実行することによって、3つまたは4つのシナリオができあがります。しかし、完全な内容で構築できるシナリオは僅かで、代替性が残された内容を伴うシナリオを提示しなければなりません。一度シナリオが構築されある程度の肉付けがされ物語のようなシナリオになってくれば、シナリオを検討しているチームで継続して監視することができるので、シナリオの内容が示唆している戦略的な問題点などについて主要な指標を識別することが可能となります。一度シナリオの数が決定されれば、企業の戦略的な意図を積極的に決定する必要があります。ここでシナリオ分析は終了し戦略的意思決定が開始されることになります。
Courtney et al. (1997) は、企業が将来の不確実性に対応するとき、基本的に次の 3 つの選択肢があると述べています。
1. 将来を形作る:もっとも激しい立場としては、技術の断絶や業界間における移動障壁の衰えなどについて、描かれたシナリオの競争におけるパラメータを定義することによって戦略を転換する人になることができる。
2. 将来に適応する:基本的に、トレンドが出てきたら直ぐにそれを利用できるように、企業をポジショニングするためのベンチマーキングとしてのアプローチが可能となります。
3. 戦略オプション:戦略オプションを追求するのに最低限の投資しか行わないが、明白な脆弱性を避けさらに保守的で積極的な戦略を構築することが可能となります。
ここで紹介する例はStrategic and Competitive Analysis, Craig Fleisher & Babette Bensoussan,2003の第18章にある内容です。
1990年代初頭の世界の防衛産業をとりまくビジネス環境は、非常にダイナミックで大きな変革が多くなされました。その中でもっとも注目に値する変革は、旧ソ連と西側諸国との間の冷戦の終わりと、環太平洋経済の台頭だと思います。1990年代初頭まで、世界が防衛に費やす金額は急激に増加していました。ソ連の脅威がかなり低減され、世界の防衛市場全体は成長を止めるか下降を開始するかのどちらかを選択する岐路にありました。冷戦のインパクトを悪化させるかのように、アジアの新興工業国が世界の防衛市場に参入し始め、世界の防衛力は一段と増力されてきたとの事実があります。
これらの環境変化のトレンドで、アメリカの防衛産業企業としてのマネジメントは非常に不確実な状態に置かれました。海外の市場に参入すべきか、防衛とは関係のない産業に参入すべきか、一時的な冷戦の平和は長く続くのか、二極構造のとき以来失われてきた市場の需要を地域紛争によって取り戻せるか、テロの増加によって全ての国が防衛を今以上に必要とするようになるだろうかなど、企業幹部は意思決定を迫られました。このような不確実性の枠組みの中で、多くの防衛企業はシナリオ分析に取り組むようになったと言えます。ある匿名企業は Future Group にシナリオ分析を依頼しました。
シナリオ分析を取り巻く主要な問題として、アメリカが 1995 年から 2005 年の計画期間において、主な顧客として存在し続けるかということでした。なぜこの時間枠が採用されたのかと言うと、防衛関連の研究開発に要する平均年数は 10年から15 年も係ることが大きな問題となっていたからです。防衛産業企業は、シナリオ分析が現在の製品サイクルを延命させるかどうかを確認したかったのだと言えます。
最初にとったステップは、アメリカの安全と防衛の要件にインパクトを与える主な要因を識別することでした。膨大なリストの中から次の4つの力に絞られました。(1) 世界情勢へのアメリカの外交、経済および軍隊の関与。(2) 軍事力に対抗する力があるか。(3) アメリカ経済のバイタリティ。(4) 世界の不安定さの度合い。
これらの4つの主要な要因から表1に示す「シナリオ・スペース」が作られ、可能性としてありうる代替性のある13の「世界」に組み入れられました。4×4 のマトリックスを使用した16 の可能性がありましたが、非論理的であった要因とありえそうもない要因であった3 つが即座に却下されました。
防衛産業企業が直面した主な問題は、これらが具体化した時に、それぞれのシナリオが業界の競争上のパラメータにどのように侵害を与えるかということでした。シナリオ分析は、それぞれのシナリオにおける詳細な予測を出すことによってこれらに答えを出すことができました。これら詳細な分析は、政府のさまざま防衛支出の将来的な傾向、軍事関連のハードウェアの需要などの問題を解決しました。残りの13の可能な世界のうち、この種の分析のためによりありえそうな6つのシナリオが選択されました。以下はそれぞれのシナリオの簡単な概要です。実際に行われた分析では、それぞれのシナリオは念入りに説明されます。
シナリオ 1: アメリカ主導の市場
*・発展途上国での地域紛争と西欧諸国の介入は、軍事に継続的に支出をすることを保証する。
シナリオ 2: 危険な貧困
シナリオ 3: 地域市場
シナリオ 4: 平和と繁栄
シナリオ 5: 混乱しているプライオリティ
シナリオ6: 孤立主義者の夢
Future Groupは、次に、6つのシナリオにおけるアメリカの貿易支出をチャートにしました。図2は、それぞれのシナリオにおいて、防衛企業の長期戦略計画にどのような影響があるのかを示しています。次のステップでは、それぞれのシナリオでどの戦略を採用すべきか決定します。マネジメントにとって、シナリオ分析は将来戦略を変更するときに使用するツールとなりました。Futures Group が構築した6つのシナリオは、将来の戦略の信頼性をテストし、戦略オプションを構築し、将来劇的に変わる可能性がある確実に戦略的に成功するため、また競争優位を得るために必要な経営資源と能力を増強するための枠組みとなりました。
出所:Strategic and Competitive Analysis, Craig Fleisher & Babette Bensoussan,2003
ページ295
これらの3つの戦略的な姿勢はリスクのレベルも異なると共に、シナリオが実現したときの潜在的な報奨のレベルも異なります。分析者は、シナリオ分析によって、これらのさまざまな戦略的な意図を選択することを考えることができるレベルまで不確実性を管理する枠組みを策定することとなります。
将来は予測できないため、シナリオ分析は強力な計画ツールとなります。従来の予測または市場調査とは異なり、過去から現在のトレンド求めたのではなく、別のイメージを提供し戦略的思考を増幅させることができるようになります。シナリオ分析には、エコノメトリックスあるいは他の安定した状態の定性的なモデルで除外されている定性的な見解や明らかな不連続な変化点を見出すことができる可能性も含まれています。シナリオは組織においては共通の表現方法となり、複雑な状態や戦略を効率的に構築するための基礎となります。
優れたシナリオは、実現の可能性がありサプライズがあります。シナリオで、古いステレオタイプ的な考えを打ち破る力にも利用することができるようにも思えます。シナリオを利用するということは、将来をリハーサルするということで、既に展開されている警告的なサインとドラマを理解することにより、サプライズを避け、現状に適応し、企業が戦略的な意図を持って効率的に活動することができます。結果として、シナリオ計画では将来を正確に把握するのではなく、現時点での最良の決定ができるようになります。
参考文献
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