情報システム学会 メールマガジン 2011.2.25 No.05-11 [8]

理事が語る 「がんばれ日本の情報システム」

理事 甲斐莊正晃(株式会社KAINOSHO)

 昨年5月に理事を拝命し、企画委員長の伊藤重隆様、委員の伊藤重光様ほかにいろいろご指導を頂きながら、少しずつですが活動をはじめております。少しでも学会の発展にお役に立てればと考えておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

 この場をお借りしまして、自分自身のこれまで40年ほどの情報システムとの係わり合いの中で、最近特に感じることの多い2つの点について、述べさせて頂ければと思います。
 その1点目は、企業や組織の中での情報システム部門のポジションの問題です。私が大学を卒業して、金融機関に入社し情報システムを担当しはじめた昭和51年(1976年)当時、情報システム部門は企業の中の専門家集団として、特殊ながらも貴重な人材を有する部署とし認識されていたように思います。その後のコンピュータの普及に伴い、本来さらに企業の中で重要なポジションとなっておかしくない情報システム部門ですが、多くの企業の中ではできればアウトソーシングしてしまいたい専門バカの集団とさえ見られているのが、今日の実態のように思われます。
 お会いする企業の方からは「この部署にいる限りは出世できない」との声が聞こえてきますし、企業の上層部の方も「できるだけ関わらないでおきたい仕事」と捉えているようです。このような、企業や組織の中での情報システム部門の立場の弱さは、長年言われ続けています「わが国の企業でのIT活用の後進性」の大きな要因のひとつであると日頃から考えています。
 大学で情報処理の授業を担当していますが、就職を目指す学生のコンピュータ利用スキル習得の意欲は、依然高いものがあります。若い世代の、コンピュータへの興味が、実際の職種としての情報システム部門への関心に結びついていないことは、日本の情報システム発展にとって、とても不幸なことだと思います。情報システム学会として、このような日本の現状を変えているために、何をすべきなのか、会員の皆様をいっしょに考えさせて頂ければと思います。
 2つめの点は、日本の社内システムにおける情報システム活用の停滞です。企業の中の情報システムで考えてみますと、今日ではメールからはじまって生産管理、販売在庫管理、経理など、さまざまな用途の情報システムが存在しますが、もしそれぞれの機能を利用するために、別々の端末と別々のユーザIDやパスワードを使い分ける必要があったとすれば、社員から一斉に不満の声があがることでしょう。しかし、日本の社会システムを見た場合、その不合理は改善されることなく、拡大しつつあります。
 行政が関与する社内システムだけを考えて見ましても、住民票や戸籍、健康保険、年金、労働保険、自動車運転免許をはじめとした各種の免許、パスポート、納税者の識別番号など、ひとりの国民に対していくつもユーザIDが割り振られ、これらはすべて個人が管理する必要があります。実際には、これらにさらに行政が関与しないクレジットカードや民間の保険、金融機関の口座、各種の会員登録などが加わり、個人が管理しなければいけない個人番号の数は、数十に及んでいると思われます。
 転居に伴う住所変更や、結婚による改姓などを経験された方は、これらの社会システムにバラバラに存在している個人情報を更新することの手間の多さに、うんざりされたことと思います。先日、情報システム学会の「情報システムのあり方と人間活動」研究会で、国際大学の砂田薫先生のお話を伺い、デンマークではすべての個人に関する情報が、独立機関によって一元管理されていることを知り、「やればできることではないか」の想いを強くしました。
 社会システムを構成している一番の要素である「個人」の識別と情報管理の後進性は、わが国の情報システム活用の発展にとって、大きな影を落としていると言わざるを得ません。学会としてどのような情報発信をしていけるのかについても、皆様と議論できればと考えております。