情報システム学会 メールマガジン 2010.8.25 No.05-05 [13]

新刊紹介『プロフェッショナルCIOの教科書』

甲斐莊正晃ほか著、中央経済社、2010年2月、2400円(+税)

 企業の情報システム部門が、会社のなかで地盤沈下に悩んでいる。今日のように企業活動や個人生活でのIT活用が進んだ時代に、「何故」と思われるかも知れないが、著者が実際に数多くの企業のコンサルティング活動のなかで得た実感である。長年、企業のIT化に携わってきたものとして寂しい限りである。その昔、まだ自家用車が珍しかった時代、会社には「自動車部」という部署があり、運転という専門技術を部署の売り物にしていたと聞く。ITの普及と共に、情報システム部門も昔の「自動車部」と同じ運命を辿るのだろうか。
 本書「プロフェッショナルCIOの教科書」を著者が執筆したきっかけは、企業の情報システム部門の組織としての存在価値を高め、そこで働くひとに誇りとやりがいを持たせたいという思いからである。どのような組織においても、その組織文化や職場の雰囲気は、その部門のトップの考え方と行動で決る。本書は、企業の情報システム部門を引っ張るリーダーであるCIO(最高情報責任者)が、企業のIT構築という職務を通して、社内での情報システム部門の価値と評判を高めていくための指南書である。
 右肩上がりの業績成長が目指せなくなってきた今日、経営層が情報システムに求めるものは、ITを活用した業務の効率化だけではない。IT導入を契機とした、企業価値を高めるための業務プロセス改革であり、社員の意識改革による顧客志向の企業文化の構築である。本書では、このような情報システム部門が経営から求められる様々な要望に対して、CIOがいかにして社内をリードし、改革とIT導入を成功させるかに必要な知識と活動ノウハウを、実践に基づいて具体的に解説している。
 現在CIOの立場にある方はもちろん、将来の経営陣の一角を目指す情報システム部門の社員、そしてITを活用して強い企業基盤を構築したいと考えている経営者の方にとって、これからの情報システム部門とCIOのありかたと必要となる広範な知識の基本を知ることのできるのが本書の魅力である。

著者紹介:株式会社KAINOSHO代表取締役、大妻女子大学非常勤講師、経済学博士。

以下、本書からの抜粋。

【目次】
I.企業に共通する問題・課題
    〜会社の中は解決すべき課題のデパート〜
II.業務改革の基本的手法
    〜人のふり見て、わがふり直せ〜
III.内部統制の基本
    〜性善説か、性悪説か〜
IV.ITの勘どころ
    〜10分間でわかる企業ITの肝〜
V.プロジェクト失敗の本質
    〜CIO必読「プロジェクト転ばぬ先の杖」〜
VI.改革成功の法則
    〜ITは作るのも使うのもヒト〜
VII.業務改革を成功させるプロのノウハウ
    〜目からウロコの、たこつぼ脱出法とは〜
VIII.情報改革を成功させるプロのノウハウ
    〜調整型のCIOは、なぜ失敗するか〜
IX.意識改革を成功させるプロのノウハウ
    〜お客様の笑顔こそ、改革の原動力〜
X.改革成功10のステップ
    〜黙ってCIOに任せなさい!〜

【はじめに 本書の構成と活用方法より】
 本書は、はじめてCIOに着かれる方にも、ついにCIOに昇り詰められた方にも、そしてこれからCIOを目指す方にも、「CIOの仕事」を成功させるために必要な知識と知恵を得て頂くための「オリエンテーション・ガイドブック」となるべく構成しています。
 第1章から第5章までの本書の前半は、CIOに必要な基礎知識を効率的に習得して頂けるように工夫してあります。読者の方がすでに十分な知識を得られている領域については、読み飛ばして頂いても構いません。
 第1章では、今日企業が直面している業務や組織、社員意識上の解決すべき課題を洗い出します。CIOの仕事は、これらの課題をITの力を活かしながら解決していくことにほかならないからです。第2章は、CIOが直接的もしくは間接的に携わる必要がある「業務改革」について、その代表的な手法を紹介しています。ITを活用した業務の「見える化」や旧来の非効率な業務プロセスの刷新は、今日どんな企業にとっても重要なテーマとなっているからです。
 第3章では、今日CIOにとっても軽視できないテーマとなってきました、内部統制の基礎知識と、CIOとしての取り組み方について説明しています。第4章では、CIOにとって最低限のIT知識としての「企業でのIT構築の勘所」を、とくに業務改革との関連性を中心に紹介しています。
 前半の最後になる第5章は、CIOにとっての「転ばぬ先の杖」です。CIOの仕事にかかわるすべての読者の方に、熟読して頂きたい内容です。著者達が永年の経験の中で目にし、また経験してきた業務改革とIT構築プロジェクト事例の中から、「CIOになったら、これだけは避けたい失敗のパターン」の数々をご紹介しています。
 第6章から始まる本書の後半では、これからの新しいCIOの役割に相応しい仕事の進め方と、それぞれの領域でのポイントとなるノウハウを、順を追って紹介しています。第6章では、本書の前半で解説した業務改革、情報改革、意識改革を組み合わせて、CIOの仕事を成功させるための基本的な考え方を、「改革成功の法則」としてまとめています。
 第7章は、業務改革を成功させるためのノウハウ集です。直接、業務改革を担当されないCIOの方にとっても、IT部門の業務改革の指導や、全社の業務改革のアドバイザーの役割を果たす上で、有益な情報となるはずです。第8章は、情報改革を成功させるために、CIOとして気を付けておきたい重要ポイントを紹介しています。また最近の企業でのコンピュータ・システムの導入で、無視できない存在となっていますERPについても、その失敗しない活用法を伝授します。
 第9章は、業務改革や情報改革を成功させるための、社員意識作りのノウハウ集です。全社業務改革推進の視点に限らず、IT部門のモチベーション向上や企業ブランドの社員浸透活動にも参考にして頂ける内容としています。最後の第10章では、業務改革、情報改革、意識改革を組み合わせて、会社の真のあるべき姿を実現するための企業改革活動の10の必勝ステップを紹介しています。それぞれの読者の方の役割や目標に合わせて、貴社に一番合った改革活動のスケジュールを策定するためのテンプレートとして使って頂ければと思います。
 モノ作りで世界をリードしてきた我が国企業も、「情報の活用に関しては欧米企業に10年以上の差を付けられている」としばしば言われます。これからの我が国企業活動の成否は、新しいCIOの肩に掛っているといっても過言ではないと思います。しかし、新しいCIOに求められる期待が拡大した今日、必要な知恵と知識を習得して経営の期待に応えていくことは、決して短い道程ではありません。本書ではCIOに必要な知識やノウハウの、ごく一部をご紹介しているに過ぎませんが、読者の方の息の長い取り組みの一助になることができれば光栄です。(甲斐莊 正晃)