情報システム学会 メールマガジン 2010.4.25 No.05-01 [10]

著作権と情報システム
1.著作物
[3]文化庁案 「著作権審議会第六小委員会(コンピュータ・ソフトウェア関係)中間報告」 (6)

司法書士/駒澤大学  田沼 浩

IV 保護の内容

 一 著作者人格権(の続き)
(3)同一性保持権
 同一性保持権(著作権法第20条第1項)は、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする」としているように、著作物の内容に対する同一性を保持する権利と著作物の題号に対する同一性を保持する権利に分類でき、同中間報告では、プログラムにおける内容の改変等が同一性保持権の問題となるか検討をしている。
 プログラムの場合、バグを埋めるデバックやバージョンアップなど改変を必要とすることが多く、改変する度に著作権法に基づく著作者の同意を有するかという問題が生ずる。プログラムのバグを修正することは、単に論理的な誤りを修正する行為に過ぎないため、同中間報告では「(著作権法)第20条第1項に該当しないか、又は同条第2項第3号(現行法第4号)のやむを得ない改変に該当する」ものとして、同一性保持権の侵害とはならないとしている。そして、バージョンアップなどプログラムの改変については、改変したプログラムが翻案に該当してまったく別の二次的著作物として認識される場合と、改変したプログラムが単なる修正、増減であって、まったく別の二次的著作物として客観的に認識できない場合に分けることができる。改変したプログラムが翻案に該当してまったく別の二次的著作物として客観的に認識される場合は、中間報告では著作者の意に反したとはいえないものとしている。改変したプログラムがまったく別の二次的著作物とまで客観的に認識できない場合も、著作者の意に反していない場合と意に反している場合に分けることができる。著作者の意に反していない場合は同一性保持権の侵害とはならない。著作者の意に反した場合は同一性保持権の侵害とはなる。中間報告では、改変したプログラムが別の二次的著作物として客観的に認識できなかったとしても、「やむを得ない改変」については例外として立法措置をとるべきものとしている。

まとめ
 以上の結果、中間報告では、著作権法第20条2号に新たな例外規定を設けることを求めている。
 中間報告に沿って、著作権法第20条第2項の一部を改正し、同条第2項第3号が新たに設けられた(昭和60年6月14日法律第62号により改正)。
【著作権法第20条第2項】
 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

引用・参照文献

・著作権法概説第13版、半田正夫著、法学書院、2007年
・著作権法、中山信弘著、有斐閣、2007年
・ソフトウェアの法的保護(新版)、中山信弘著、有斐閣、1992年
・岩波講座 現代の法10 情報と法、岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編、岩波書店、1997年
・標準パソコン用語辞典(2009〜2010年度版) 赤堀侃司監修 周和システム第一出版編集部 2009年