産業界では多くの企業が経営課題の達成に向けて、業務改革・改善に大変な努力をされていると思います。その手段として、情報システムの企画、構築、運用を計画に沿ってQCDを遵守しながら推進する必要がありますが、なかなかうまくいっていないのが現状と思います。
少し古いデータですが、
(日経コンピュータ08年12月1日号より)の報告が出ています。
ユーザ企業、ベンダ企業で、いろいろと努力をしているが両方が満足するケースは少ないのが現状と思います。
この問題に関して、小職も実際に経験し痛い目に会い苦労してきておりますがケース事例と課題解決に向けた視点や対応策の概要をこのメルマガにて説明し、今後、討議してゆければと思います。
1.情報システム企画、構築でうまくゆかいないケース例
実際に発生したケースのポイントからユーザ企業、ベンダ企業の満足状況について、以下に列挙します。この課題に取り組んでおられる企業の方々から見られると既知の問題と思われるかもしれませんが、確認の意味で記述します。
■ケース2:追加要件対応で、ベンダのPJ採算が悪化
■ケース3:お客様の体制が弱く、適切なRFP、要件を提示できない
2.上流工程プロセスの課題
上記のケースのような、いわゆる上流工程:要件定義までに起因する情報システム企画、構築での問題の原因はいくつか考えられるが集約すると以下の2点がポイントで課題と考える。
1つ目のポイント:
そもそもの経営の課題、それに基づく業務の現状と改善後の姿が正しく定義認識されているか、そして、そのGAPを埋めるために業務プロセスの改善、情報システムの改善項目が要件として正しく定義されているかの問題がある。
システムの要件定義までが適切な目的手段分析や因果関係分析に基づいたプロセスを経て実施されているかがポイントである。
2つ目のポイント:
このプロセスを難しくしている大きな原因として、情報システム企画構築に関わるステークホルダ、とりわけ、ユーザ側とベンダ側の役割分担とスキルの問題である。本来、お客様のシステムであるから、企画、要件定義、設計、製造、評価までをお客様が中心にリーダシップを図り責任を持って実施すべきである。
少なくとも要件定義や外部設計まではお客様が実施することが望ましい。しかしながら、ユーザの情報システム部門の体制がまだ十分でないことが多くベンダ側に頼っているケースが多い。
2つ目のポイントの役割分担について、5つのモデルパタンに分けて以下に示す。(情報システム学会総会・09年5月・JUAS殿発表資料より)
これは、情報システム企画開発における役割を大枠で、次の5つの工程
(戦略企画、要件定義、外部設計、内部設計、製造)でユーザ:U、ベンダ:Vのどちらが役割責任を持って遂行するかを定義したものであり、プロジェクト企画時にどのタイプパタンを選択するか明確にして始めることが重要であるとしている。当然であるが、モデル2から3へを目指してゆくことが望まれる姿である。お客様のレベルに応じた役割分担、契約方法を適切に選択してゆくことが重要である。
モデル1 IT利用模索PJ
戦略企画→要件定義→外部設計→内部設計→製造
U U/V V V V
モデル2 標準モデル
戦略企画→要件定義→外部設計→内部設計→製造
U U V V V
モデル3 米国型インハウス・モデル
戦略企画→要件定義→外部設計→内部設計→製造
U U U V V
モデル4 先進企業モデル
戦略企画→要件定義→外部設計→内部設計→製造
U U U U/V V
モデル5 Win−Winモデル
戦略企画→要件定義→外部設計→内部設計→製造
U/V U/V U/V V V
3.対応策の視点
前述した3つのケースのようなどちらか又は両方が不満足な状態になる結果をなくす、減らす意味で、上流工程でのユーザ側、ベンダ側双方での工夫、努力が必要であり、下記の視点で対応策を実施してゆくことが重要と考える。
これらの視点の対応策については、特に、ユーザ側・情報システム部門が主体的に実施できるようになるための支援強化が必要であると考える。また、この課題解決を追求してゆくと、企業の組織体質、意思決定ルール、経営者の考え方など企業文化との関係まで入り込む必要があると思われる。
本テーマについては、本情報システム学会でも幾度か議論はされているが明確な方向性や施策は課題になっていると認識しております。今後、課題解決の方向性や方策を打ち出してゆくことを目指して、研究会、シンポジウム等の場で討議してゆきたいと思います。