情報システム学会 メールマガジン 2010.1.1 No.04-10[13]

連載 著作権と情報システム 第10回

司法書士/駒澤大学 田沼 浩

1.著作物

[3] 文化庁案「著作権審議会第六小委員会(コンピュータ・ソフトウェア関係)
       中間報告」(2)

 1984年(昭和59年)1月に発表された文化庁の著作権審議会第六小委員会の中間報告の検証の続き。
第二章 コンピュータ・ソフトウェアの著作権制度による保護に関する諸問題
 ソフトウェアの著作権制度での保護について、以下、I保護の目的、II保護の対象、III保護の享受者、IV保護の内容、V権利の制限、VI保護の要件、VII保護期間、VIII救済制度、IXその他、に分けて詳細な検討による現行著作権の問題が示されている。

I 保護の目的
 「ソフトウェア、特にプログラムが著作権の法的保護になじむかどうか」。著作権法第1条「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」という著作権の保護の目的と合致するかである。
 同中間報告の結論として、「著作物の保護と利用の調和による文化の発展への寄与という著作権法の目的とするところは、プログラムの法的保護にとってもふさわしいものである。」としている。
 プログラムの製作も利用も当時の産業活動だけにとどまらず、あらゆる社会活動(一般事務処理、科学研究、教育活動、医療、交通管制、通信、芸術、娯楽)や家庭生活の場にも及んでいる。本中間報告でプログラムは、「人間が活動するあらゆる場面で利用されており、人間生活の各分野に深くかかわって大きな役割を果たしている」そして、「その意味でプログラムの内容の向上は最終的には文化の発展に寄与するものであると考えられる」と説明されている。
 これに対して、プログラムを工業所有権的保護になじむものとして、産業政策的な観点に立って保護すべきという意見も同時に載せられている。

II 保護の対象
 プログラムが著作権法の保護対象である著作物であるか。
 著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条第1項第1号)」であり、本中間報告では著作物であるためには、「著作者独自の精神的創作物であること及び思想、感情が何らかの形で表現されていること」を要するとしている。
一 プログラムの著作物性
 プログラムが著作物を有するかについては、次のような背景を前提に課題(1)〜(4)を掲げて検討している。

(ア)昭和48年6月著作権審議会第二小委員会の報告書から「プログラムの多くは、いくつかの命令の組み合わせ方にプログラムの作成者の学術的思想が表現され、かつ、その組み合わせ方および組み合わせの表現はプログラムの作成者によって個性的な相違があるので、プログラムは、(著作権)法第2条第1項第1号にいう『思想を創作的に表現したものであって、学術の範囲に属するもの』として著作物でありうる(同報告書11頁)」としている。
(イ)昭和57年12月6日判決、判例時報1060号18頁(「スペース・インベーダー・パートII事件」)、横浜地裁昭和58年3月30日判決、判例時報1081号125頁
(1)プログラムの種類と著作物
プログラムの種類によって著作物性の有無を判断すべきではなく、プログラムに創作性があれば著作物であると考える。
(2)オブジェクト・プログラムの著作物性
オブジェクト・プログラムの著作物性について、昭和48年6月著作権審議会第二小委員会の報告書において「ソース・プログラムを変更して作成したオブジェクト・プログラムはソース・プログラムの複製物であるにすぎない。その変更は、アセンブラやコンバイラ等の変換プログラムによって機械的に行われているため創作とはいいがたい(同報告書13頁)」と報告している。
 オブジェクト・プログラムについて、直接オブジェクト・プログラムが作成された場合以外に、アセンブリ言語によって書かれたソース・プログラムをアセンブラにより変換した場合と、コンパイラ言語によって書かれたソース・プログラムをコンパイラにより変換した場合がある。アセンブリ言語のソース・プログラムをアセンブラによりオブジェクト・プログラムに変換したとしても、アセンブラの種類によって内容の異なるオブジェクト・プログラムが生じる可能性はなく、著作権法上の創作性が新たに加わるとは考えにくい。コンパイラ言語のソース・プログラムをコンパイルによりオブジェクト・プログラムに変換した場合、コンパイラの種類、または同じでもコンパイラの使い方(最適化[optimization]手法の指定など)の違いが創作性を生むかどうか検討されている。本報告書では多数意見と少数意見として分けて、多数意見としては、コンパイラ作成者がソース・プログラムの内容に準じてコンピュータを動作させる表現に変換しようとしたにすぎないので、特別な創作性を評価することが困難であることや、オプティマイゼーションの指定は作成可能なオブジェクト・プログラムの中から一つを選択しているにしか過ぎないことから、オブジェクト・プログラムはソース・プログラムの複製物にしか過ぎないと考えられた。一方オブジェクト・プログラムを2次的著作物とみる少数意見も載せられている。

引用・参照文献

・著作権法概説第13版、半田正夫著、法学書院、2007年
・著作権法、中山信弘著、有斐閣、2007年
・ソフトウェアの法的保護(新版)、中山信弘著、有斐閣、1992年
・岩波講座 現代の法10 情報と法、岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編、岩波書店、1997年
・標準パソコン用語辞典(2009〜2010年度版) 赤堀侃司監修 周和システム第一出版編集部 2009年