日時 2009年12月12日 13時30分〜17時
講演テーマ 情報システム工学の曙
参加者 11名
内容
第2回の委員会として,概念データモデル設計法を提唱される手島歩三氏に話をうかがい,討議した。長年の実務経験を踏まえた,説得力にあふれた講演であり,その後の討議も活発に行われた。特に,手島氏が強調されていた,ビジネスに関与する利用者が概念を共有することの重要性はISSJの主張に合致するものである。また,新しい技術をさまざま勉強しながらいいところ取りするばかりであり,それらの技術の本質を理解して正しく使おうとしない大企業の自前主義の批判は耳が痛い。また,人材育成については,新しいことを教える必要はなく,基礎を教えることの重要性を強調され,大学での教育に期待(要請か?)しておられた。
1.手島氏の関心の中心はビジネス組織にあり,経営情報学会を中心に,継続的にいくつかの研究部会を持ち,情報システムの開発におけるビジネス・アーキテクチャの役割と,情報品質を保証することの重要性を主張されてきた。そのために,概念データモデルの設計法を研究されてきた。
2.「情報システム」とは,ビジネス組織を支える「情報」を取り扱うシステムであるとする。具体的には,情報の採取・蓄積・保管・抽出・加工・配布・表示などを取り扱う。これらは,従来人手で扱われてきたが,ICTの利用が有利な部分を情報システムとしてきた。情報システムは,「自動化と省力」,標準化を使命とするのではない。ビジネスに関与する人々の意思決定支援(コミュニケーション)を使命とする。
3.情報システムがビジネスに貢献するためには,情報品質を保証する必要があるが,そのためには対象とするビジネスの仕組み(ビジネス・アーキテクチャ)に関する諸概念を表現するメタ情報を定義することが重要となる。メタ情報には,情報システムの扱うデータのデータ仕様とデータ構造がふくまれるが,これらをビジネスに合致させることが必要である。手島氏は,そのための概念データモデルの設計法(CDM)を研究してこられた。
4.ビジネス情報は,その利用者が持つ概念に沿って「データ」として設計する必要であり,その方法論として,手島氏は,「もの・こと分析」と「こと・もの分析」の統合を唱える。ビジネスの対象世界を構成する「もの」の状態を変化させる活動を「こと」と呼び,「もの」と「こと」に即してビジネス活動の構成を把握することがCDMであるとする。これは,三つのモデルから段階的に構成される。「もの・こと分析」による静的モデルによって「もの」を捉え,ER図として描くが,ビジネス内容を正確に表現するために,文章表現を付加する。次いで,「もの」を状態変化させる「こと」に着目して,「もの」の状態変化過程,すなわちビジネス活動である「こと」を分析する。「動的モデル」としてビジネス活動における「もの」の状態変化過程を明らかにする。これは,時間の経過に従った実体変化過程図として描かれる。さらに,「もの」と「こと」の相互作用として分析した結果が相互作用モデルとして描かれ,ビジネス組織の役割と組織間の業務連携の仕組みが捉えられる。これは,データフロー図(DFD)に似た連携図として描かれる。ISO/ANSIは,データベースの設計において,概念スキーマを記述することの重要性を指摘した(1981年)が,CDMはこの考えを発展させたものである。概念データモデルがきちんと設計できれば,ビジネス組織が変わっても,その本質としての「もの」(これはデータベースに蓄積されている)は安定しており,組織を持続的に発展させることができる。
5.情報システムに関連して,ソフトウエアの品質低下,データ品質の低下,(予期せぬ)アプリケーション結合によるトラブル発生,利用者の情報システム不理解,要求定義の困難(情報システムのブラックボックス化),ビジネス組織を支える情報システム人材の不足などが問題として指摘されている。しかし,利用者が理解できるような概念データモデルの設計が実現すれば,このような問題は解決するという。例えば,利用者は自分でテストデータを作成できるようになり,情報システムのテストも確実なものになる。手島氏は,このような考えについて,長年手掛けてこられた,製造情報システムにおけるBOM(Bill of Materials;部品表)を中心に説明された。
6.情報システム・エンジニアに対しては,指導者ではなく考え方をアドバイスできる支援者,適正な論理の筋道にこだわる技術者,謙虚な人間性,あるがままにビジネス・アーキテクチャを捉え比較研究できること,情報システム・アーキテクチャに関する知識を持つ,さらにビジネス改革プログラムをマネジメントできる資質を要求された。
第2回の委員会として,概念データモデル設計法を提唱される手島歩三氏に話をうかがい,討議した。長年の実務経験を踏まえた,説得力にあふれた講演であり,その後の討議も活発に行われた。特に,手島氏が強調されていた,ビジネスに関与する利用者が概念を共有することの重要性はISSJの主張に合致するものである。また,新しい技術をさまざま勉強しながらいいところ取りするばかりであり,それらの技術の本質を理解して正しく使おうとしない大企業の自前主義の批判は耳が痛い。また,人材育成については,新しいことを教える必要はなく,基礎を教えることの重要性を強調され,大学での教育に期待(要請か?)しておられた。