最近SE(Systems Engineer)の仕事は学生に人気がないようです。理科系への進学希望者も減っており、IT企業の就職人気ランキングは下がる一方です。従来3Kという言葉はブルーカラー(工場等の現業系、技能系)の仕事がきつい、汚い、危険という意味で使われていましたが、最近ではITサービス業界の仕事が新3Kと呼ばれるようになっています。「きつい」「帰れない」「給料が安い」と言うことらしいのですが、さらに「休暇が取れない」「(就業)規則が厳しい」「化粧がのらない」「結婚できない」を加えて、7Kという表現もあるようです。
どうしてこのようなイメージになってしまったのでしょうか?ITサービスの仕事にもいろいろなタイプの仕事があります。日本では特に階層化が激しく、メーカー系、独立系大手、独立系中小の3階層構造による下請、孫請の契約形態により仕事内容や給与格差が激しくなっているのが実情のようです。厳しい労働環境下でのプログラミングやオペレーションの仕事もあるようです。しかし最近ではこのような仕事はGD(Global Delivery)と呼ばれるインドや中国の優秀なSEが低価格で実施してくれるようになっています。GDがさらに浸透して来ると日本のIT技術者はGDとは違う価値を提供することが求められます。具体的にはPM(Project Manager)やアプリケーションに強い開発や運用のリーダー、特定分野の技術にめっぽう強いITS(IT Specialist)、アーキテクチャー設計をリードできるITA(IT Architect)等が求められているのです。このような提案力や指導力を持ったIT技術者、それが本来のSEの仕事なのではないでしょうか。
昨年からIBMは「Smarter Planet」という考え方を提唱しています。IT技術を駆使してもっと住みやすい、スマートな地球へと生まれ変わろうという宣言です。それは、商品の開発、製造、売買はもちろんのこと、ヒト、お金の動きから、石油、水、電気の動きに至るまであらゆるサービスの提供方法と、さらには数十億単位の人間の働き方、統治の仕組み、生活を支えていく新しいシステムとプロセスを意味します。具体的な分野として例えば交通、小売、医療、学校等があげられます。この分野では、さまざまな場面で非効率や無駄なことがあり地球規模のスマート化が求められています。都市部に入る自動車に課金する交通システムにより交通渋滞の解消、ガソリン消費量減少そしてCO2削減に貢献します。ICタグを活用した物流システムにより産地から消費者までの追跡が可能となり食の安全を確保することができます。最近話題の救急病院の患者受入れ不能問題も地域の病院、ベッド、医師を含めた総合的な救急システムにより解決できるかもしれません。また家庭の電力使用量を示すメーターをオンライン化することで、どの時間帯にどれくらい電力が消費されているかをリアルタイムで把握することが可能となり、発電量の効率的な制御が可能となり無駄をくすことが可能となります。もちろん家庭の電気使用量を確認する検針という作業は不要になります。
ネットワーク技術の進歩により地球はフラット化し、地球上のある一点で起きた事象があっと言う間に世界の経済、社会、環境に影響を及ぼすようになりました。今世界に広がる金融危機、食の安全の問題、環境問題などは、こうしたグローバリゼーションの抱える地球規模の課題であるとも言えます。このような地球規模の課題を解決するにはIT技術とそれを活かすためのSEが必要なのです。
本来SEという仕事は大変やりがいがあり、夢のある仕事です。企業経営に貢献するシステム構築によりお客様に喜んでいただき、世の中を便利にするような社会システムにも関われるチャンスがあります。そして「Smarter Planet」の考え方のように地球規模の社会貢献さえもできる時代になっています。そして独創的なアイデアを実現でき、企業を超えたプロジェクト・チームとしての達成感を感じることができます。企画・提案、計画、開発、運用、と広範囲の仕事を担当することも可能です。本人の自発的な姿勢により成長できる機会はたくさんあります。経験の浅い時代は何でも積極的にやる姿勢が重要ですが、いつまでも簡単な仕事ばかりやっていたのでは3Kの世界に突入してしまいます。一つ一つの経験を活かし、より付加価値の高い仕事へと自分を高めていけば、素晴らしいやりがいのある仕事になって行くはずです。
私も長い間SEの仕事をして来ました。現在とは時代が違い、環境も違っていますが、基本的な仕事の内容には違いはありません。若い頃はチームの一員として頼まれた仕事をきちんとやるという立場で仕事をしていました。技術力を磨くという意味では良い経験でしたが、SEとしての仕事が面白くなって来たのは、リーダーとしてお客様と相談をしながら自分自身がいろいろと考え、提案をして仕事を進めていくようになってからです。あるお客様では長期的な経営戦略と事業戦略に基づきIT戦略立案からシステム化計画策定、それを実現する大規模開発プロジェクト、そしてサービスインまで一貫して担当させていただき、最後に感謝状をいただいたことがあります。この時はお客様の社長や役員の方、利用部門の方とも会話や相談をさせていただく機会がたくさんありました。この過程で新しい情報技術の採用もありましたが、長期展望を持った素晴らしい経営者の考え方も勉強させていただき、SEとしても人間としても大きく成長できたと実感しました。SEという仕事を選んで良かったと感じた瞬間でもありました。
最後に優秀なSEについてふれたいと思います。今までの私の経験の中でたくさんの優秀なSEに出会ってきました。彼らの共通点を「優秀なSEの条件」として箇条書きにしてみました。
ここにあげられた点に共通していることは、人間としての魅力そのものだということです。私は自分の経験からSEという仕事は世間でいわれているイメージとは違い、素晴らしい体験ができる、最も人間らしい、やりがいのある仕事のひとつだと考えています。そして若い人は勿論、多くの優秀な子供たちが将来SEという仕事を目指してほしいと願っています。そのためには情報システム学会としても若い人や子供たちがSEという仕事を正しく理解できるように情報発信して行くべきではないでしょうか。特に実際にSEの仕事を担当している企業側からの情報発信が期待されていると認識しています。