プロマネを揶揄した言葉に、「プロマネは責任あれども権限なし」といわれるのを耳にしたことがあります。
この言葉の意味するところは、だからこそ、様々なステークホルダーの理解を得、プロジェクト推進の味方になってもらい、協力を得ることが必須であることを表しています。
プロジェクトの現場で起こっていることは、一見すると理不尽な要求が、次々にやってくることかもしれません。工期の短縮、生産性の向上による工数切り下げ、キーマンの引き抜きや別プロジェクトへのシフト、度重なる変更要求、品質問題の発生や改善・・・。
そもそもがトレードオフの関係にある機能やスコープ・納期・品質・コスト・体制や要員等に対する要求であり、いったん対応が後手に回ると、仕事に追われ消耗してしまいます。
この負のサイクルを打ち切るための取り組み・・組織的な取り組みとしては、パワハラやセクハラ等コンプライアンスにおける縛りや、契約手続きの適正化等によって、過去と比べ、改善傾向にあるかと思いますが、プロマネ個々人にとっては現在も変わらない切実な課題となっているのでは、と思います。
あらゆる交渉の原点は、WIN−WINの関係にあると思いますが、このWIN−WINの関係を築くための方法として、対人関係におけるアサーティブな態度がポイントになってきます。
そこで、今回は、アサーティブネス(Assertiveness)、アサーティブな態度をとることと、
それによって「断る」方法を身につける必要があることを考えたいと思います。
スティーブン・R・コヴィーの「7つの習慣」における第四の習慣は、「WIN−WINを考える」です。
対人関係における交渉パターンには、
の4パターンがあるといいますが、自分が負け続けたり、相手が負け続けたりする場合、
その関係が長期に継続することはありえないことを考えると、最初の3つのパターンは一過性のものにすぎません。
システム構築業務やソリューションの提供というものが、相手の業務・システム知識を深く把握した上で行う知恵の提供を前提とするのであれば、顧客とベンダーとの間は、長期的な関係となるし、長期的な関係を続けるためにも、WIN−WINの関係が必然となります。また、WIN−WINの関係が築けないのであれば、あえて取引するのを避けて、「NO DEAL(取引せず)」とすることが大切になってくると思います。
それでは、自分と相手の双方の言い分を通すWIN−WINの関係を築くためには、日頃からどのような態度で交渉に臨めばよいのでしょうか。
アン・ディクソンさんの「アサーティブネスのすすめ」(*1)によると、
私たちが日常生活のなかでついとりがちなコミュニケーションのパターンには、3つあるといいます。
それに対して、自分の気持ちと意見を誠実に、率直に、対等に伝えられるタイプを、第四の生き方として、アサーティブな態度であるといいます。そして、攻撃的でもなく、受身的でもなく、作為的でもないこの第四の態度、アサーティブな態度で生きることを勧められています。
プロジェクトにおける様々なステークホルダーとの関係は、上位者や顧客は重要であり敬意を払う必要がある一方、対等であるとの認識を持つことが大切です。しかし、対等であるという認識を正しく持って、勇気を持って行動に移すためには、アサーティブな態度とはどういうものかを知らなければなりません。
アサーティブな生活態度には、その基礎となる権利として、11の権利があります。
そして、この11の権利に加えて、
5番目の権利に、私には「ノー」という権利がある、といいますが、注意が必要だと思います。「ノー」という言葉は、相手を拒絶することではなく、断らないことで自分だけでなく、結果として相手を傷つけてしまうことを避け、誠実な態度で、相手と長期的な関係を続けるために使う言葉である、と再認識することが大切だと思います。
しかし、ただやみくもに「ノー」といって断っても、単につきあいの悪い人、ものわかりの悪い人、自分勝手な人と受け止められては・・プロマネ失格になってしまいます。
そう考えると、「ノー」と言い、断るためには、必要な戦略がありスキルがある、ということがわかります。
勝間和代さんの「断る力」(*2)では、適切に断るためには、断る側に「断る資格」が必要であること。この「断る資格」がないまま、断ってはいけない、と指摘されています。
断る力のスキル面では、相手と要求の目標を明確に共有化した上で、
たとえば、
「AよりもBというやり方のほうが、目標達成のためにいいのではないでしょうか」
その理由を、各々の方法を採用した場合の得失を明確にして説明すること
とか、
「相手の提案や考えを尊重した上で、より高次な提案を行う」こと
そのためには、
「別の見方や考え方、相手が知らない知識ややり方を提供する」ことができなければならない。一段上の知識や目線での提案を行うこと、それができないと、本来、「断る」資格はない。・・厳しいですが、その通り、だと思います。
プロジェクトの現場でも、新しい提案や代替案のない、一見子供じみた「断り」を目にすることが多いのも実際です。プロマネは、この「断り」に対して、子供じみた「断り」であれば、冷静に分析させることが必要でしょうし、また、その分析さえできない混乱した現場の悲鳴であるのであれば、マネージャとして現場の意見を的確に整理した上で、現場の代弁者としてステークホルダーに対して、建設的な意見を持って、アサーティブな態度で交渉すべきです。
まずは、「断る力」の全体構造を理解した上で、「断る資格」があるかどうかを自問自答した後、上に対しても、下に対しても、アサーティブな態度を採って、粘り強く折衝していくことを積み重ねたいと思います。
(*2)勝間和代「断る力」