平成16年4月より開校された法科大学院は今年6年目を迎える。法科大学院の定員削減と統廃合がテレビや新聞等でも連日賑わせているが、法科大学院の教育現場はそれによってカリキュラムの内容を大きく変えるわけではない。駒澤大学法科大学院は開校以来、駒澤大学と共に法曹を養成するという目的達成のために尽力している。
法科大学院も職業人を養成するという意味では、システムエンジニアなど他の職業を養成する場合と共通している部分は多い。もし違いがあるとすれば、法曹には明確な資質と能力が求められていることであると考える。日弁連法務研究財団1では、法曹には2つの資質と7つの能力が必要であるというひとつのモデルを提唱している。法曹の資質として、(1)司法の担い手としての法曹としての社会において果たすべき職業使命感と責任感、(2)法曹としての倫理(倫理法令や倫理規定の十分な理解だけでなく、たとえば弁護士であれば忠実義務、誠実義務、真実義務と守秘義務なども含まれる。)が求められる。一方法曹の能力として、(1)問題解決能力(社会において発生する事象において問題が何なのかを見つけ出し、その解決方法を策定して実行し、場合によっては積極的に社会に提示していく能力のこと。解決方法を決める場合、法的なアプローチ、経済的なアプローチ、政治的なアプローチ、科学技術的なアプローチなどを選択しなければならない。その中の法的なアプローチであれば、訴訟・調停・仲裁・和解などの解決方法となる。そして、これらに関連するスキルを十分に理解して解決に繋げるだけの能力が求められる。)、(2)法的知識(基礎的な法的知識は深い理解が求められる一方、一つ以上の専門的な分野での基礎的な知識を身につけてことも求められている。また正確かつ必要な法情報を調査する能力も求められるが、問題に関連する法令だけでなく、判例などその法令の適用例や行政通達、そしてそれらの背景にある内容を調査する能力も求められる。)、(3)事実を調査する能力と、問題に関する事実関係を証拠に照らして認定する能力、(4)問題を解決するための法的分析と推論により法的に正当性、妥当性のある論理的な結論を導き出す能力、(5)現行の法制度や実務に問題解決のため、創造的・批判的検討を加えて発展させる能力(特に法や判例のない部分を対象として)、(6)理論的かつ法的な議論を展開させて自分の意見として説得する能力と問題、事実、理由、結論などを誰にでもわかりやすく表現する能力、(7)コミュニケーション能力(相手の話を素直にきちんと聞くこと、相手の考えや関心などを適切に把握すること、適切な質問をすること、語られていないことの信用性を見抜き、場合によっては語られていない部分について聞き出すことなど)も求められている。法科大学院としては、これらの能力を導き出せるようなカリキュラムを組むことで、将来の法曹を養成している。
一方大学における法学教育、特に法学部における法学教育はどうであろうか。大学法学部の在学生も平均すればその大半が法曹を目指しているとは言い難く、また法科大学院への進学を希望する大学卒業生でも法科大学院に入学して卒業後に法曹になることはそれほど多くないことから、必ずしも法曹だけに絞った教育をしているとは考えにくい。駒澤大学法学部のHPの紹介でも「法律、政治の知識を学び、弁護士などの法律の専門家・・・の世界で活躍できる人材を育成します。2」として、法曹だけに限定せず司法書士などの幅広い法律の専門家の育成に力を入れている。さらに、「法律学科では、法律の知識を体系的に学ぶことでリーガルマインドを身につけ、・・・。弁護士などの法律の専門家・・・はもとより、現実の諸問題を的確に分析・解決するための論理的な思考力と洞察力をもち、社会のあらゆる場で実力を発揮できる人材の育成を目指しています。」として、問題解決能力や法的分析・推論能力を持たせることで、法律の専門家に限らない「社会のあらゆる場で実力を発揮できる人材の育成を目指」した幅広い分野に進むことを前提に法学教育がなされている3。
大学教育最前線として法科大学院及び法学部における教育について述べてきたが、将来の専門職業人の育成を目的とするという点では情報系学部と大きく変わることはない。また、日本においてもITC(Information and Communication Technology 情報通信技術)には今後とも莫大な投資が見込まれ、それに伴って多くの人材を必要とする。技術が革新的に変化を続ける情報通信分野であるだけに、人材確保という観点からだけではなく、その人材の水準が問題となろう。情報通信技術の専門家、特に情報システムの専門家は、法律や会計のような専門的な職業と違って“国境4 ”も存在しないことから、国際的にも通用しうる人材の育成を積極的に手掛けなければならない。少子化によって、産業の担い手となるべき若者も減る中で、教育における達成レベルを底上げしながら、産業全体の中で情報通信に関連する国内の人材をどの程度まで確保するべきか真剣に考えるべき時にある5。私見であるが、国策として、育成すべき情報通信に関連する人材の目標数値を定める時期にあるのではないか6。