情報システム学会 メールマガジン 2008.9.25 No.03-6 [4]

第14回 「情報システムのあり方を考える」 会 開催報告

 「情報システムのあり方を考える」会 主査の伊藤重隆です。
 9月13日に第14回研究会を2部構成で、慶応義塾大学理工学部創想館で開催しました。参加者は、約30名でした。第1部「トップ主導の情報システム化」は、高田技術士事務所 高田顕重氏(元東洋インキ専務)より、第2部「硬い組織は組織を柔らかくする?―情報システム導入における組織適応の問題―」については、横浜国立大学大学院環境情報研究院 教授 竹田陽子氏よりご講演いただき、その後に質疑を行い、和やかな雰囲気の内に終了しました。次回は、11月29日を予定しています。
 今回は、講演概要についてご報告します。(質疑は省略しました)

第1部講演概要

「トップ主導の情報システム化」

高田技術士事務所 高田顕重氏(元東洋インキ専務)

 情報システム化のトップ主導は必須要件であり、特に、経営に有効な重要課題の選択と目標設定が、重要である。
システム化の歴史的変遷とそれぞれの注力点については、初めにデータセンターに設置した高価なコンピュータで大量処理したIT揺籃期、次にオンライン化を伴う集中分散処理が実施されたIT推進期、最近のIT化からICT化へのIT展開期に分け、現在の傾向として部分最適が優先される傾向があり全体最適を目指すことが企業に取り必要である。
情報管理の重要性に対する認識が上級管理者に無いのは、情報の収集、分析、配布は下部組織が行い情報システムや情報技術は後方支援の問題であるので、技術陣に管理させるのが最善であり、情報管理に関する意思決定を当該部門へ任せたのが原因である。
  引用「プロセスイノベーション」ダベンポート著
 開発経験上、開発方法論プライドが、生産性=効果×効率と定義していて、生産性を上げるためには、効率的であるだけでなく効果的でなければならないことをしめすものだが、情報産業分野では、残念ながら効果について無視しがちであった。情報資源管理に関して、プライド開発方法論で良い点は、情報システムエンジニアリング、データベースエンジニアリングに加え企業エンジニアリングが追加されていることにある。

 次に、企業が日々、直面する問題について、「問題」と言う用語の4種の用法と処理形式について、

(1)解答を求める問。質問。(設問解答型)
(2)面倒な事件や困ったトラブル(原因究明型)
(3)夢の実現や真理追及のため克服・研究すべき課題(課題設定型)
(4)前記、諸問題を解明・解決する過程で起きる様々な現象に対する用法(プロセス対応型)

と分類し、問題が生じてから解決するのでは無く、課題設定して問題解決するのが重要である。
 問題解決とのみ捉えずに、望ましい問題処理対応としては、

(1)問題処理プロセスの効率的運用
(2)型式手順に応じた適切な処置の実施
(3)課題設定型の優先化と「問題発見」の重視
(4)問題処理プロセスに止まらず、人・時間・情報等の環境に配慮したシステム的対応が考えられる。

 なお、問題解決プロセスとして、川喜田二郎氏の「W型問題解決プロセス図」を利用すると有効であり、同図中の問題発見・課題設定領域に注目することが重要である。
 問題処理の見直しとして、

(1)基本的にトラブルを起こさぬに越したことはない
(2)問題の早期発見に役立つ予知力・察知力の強化・重視
(3)問題が顕在化する前に、その芽を摘み取り蒙る障害を軽減させることに注力する
(4)いたずらに解決指向にのみ捉われない
(5)ケプナー・トリゴーの潜在的問題・潜在的好機分析に注目

の以上が主要点となる。
 効果的な問題処理について、

(1)重大な問題に遭遇した場合には、根本から広い範囲で解決
(2)ダメージが大きいと予想される重要な事柄については、予め問題の予想を予見し対応する
(3)組織活動や日常生活に重大な影響を及ぼす事柄については、問題を発生させない理想的な目標設定し計画的に実現する

等を要点として指摘した。

 次に事例研究として、

(1)売れ残った商品の処理
(2)トヨタの問題処理(例 低公害車プリウス開発の経緯)
(3)トヨタのエネルギー調査企画室活動(資源問題への対応)
(4)トヨタのグループ経営観(経営による富士重工業への最新生産設備導入決定による提携関係強化)

について論じ、結論としてトップの問題意識が重要であることが再認識された。
 問題処理に関しては、組織内の役割分担と実践が重要課題である、又、問題と向き合う上では、現在を取り巻く環境を意識し、西洋的思考と東洋的思考の違いを考え、過度なセキュリティ管理等に見られる行き過ぎたやり方と成らない様にする。

 結論として、経営に重要な影響を及ぼす情報システムの開発に当たってトップが特に留意すべき事項をとして、

(1)変革のリーダーシップを取る
(2)内外の環境変化に応じた重要問題の早期把握と、その克服策・トラブル制御策の策定推進と洞察力
(3)総合力発揮のための企業内の風土造り

―問題解決万能主義からの脱却、自由な発想と相互の創造的情報交流を促す風土―
以上を強調、講演を終了した。

第2部講演概要

「硬い組織は組織を柔らかくする?―情報システム導入における組織適応の問題―」

横浜国立大学大学院環境情報研究院 教授 竹田陽子氏

 情報システムにおいて新技術が登場すると、必ずどこかの既存組織に適合しないケースが生じる。新技術導入においては、技術の変化、プロセス・コミュニケーションの変化、組織構造・制度の変化と相互作用がある。情報システムのトレンドとして、つくり込みのシステムと組み合わせのシステムに分類し、つくり込みシステムは企業独自のオーダーメードシステムで開発は、情報ベンダーに委託か内部開発方式を特徴とし世界的には1980年代前半まで主流、一方、組み合わせシステムは、既存の技術やシステムを組み合わせることにより構築し内部構造に踏み込むカストマイズをしないのを特徴とする。80年代後半よりパッケージソフトウェアの登場により始まり、90年代後半からのインターネットの普及により発展して来ている。日本企業のIT利用とIT業界の歴史は、1950年代、1960年代を定型データの大量処理を基本とした「つくり込みシステム黎明期」、70年代―80年代前半を企業間システムの自由化を特徴とした「つくり込みシステム発展・完成期」、80年代後半―90年代前半では、「つくり込みシステム」の典型である基幹系と組み合わせシステム「情報系」が大手企業で並存し、90年代後半は、インターネットの普及もあり、「組み合わせシステムの発展」と分類されるが、ベンダーは、以前として「つくり込みシステム」中心のビジネスモデルを維持する状態が継続している。

 日本企業のIT利用の特徴として、既存の組織プロセスに技術を合わせ様とする等の強い組織慣性があり、労働力とIT導入が補完的であると言え、ボトムアップのIT導入なので大企業ほどトップがITに関らなくなり、情報システム部門は非主流の専門職部門であることが多い特徴がある。
 日本の情報システム産業のビジネスモデルは、「つくり込み」を特徴とし、

(1)受託開発がメインの業務
(2)伝統的な受託開発システムの範囲では高いパフォーマンスを上げる
(3)システム開発で顧客を囲い込み、メインテナンス・サポートで収益をあげている。

最近の経済産業省による、「特定サービス産業実態調査」においても、2006年においても売上中の62%が受託開発となっていることでも裏づけられている。
 日本企業の情報システムの問題点として、

(1)従来のシステムの構造を全く変えるような新しい技術を取り入れにくい
(2)特定の情報システム・ベンダーとの取引を変えにくい

の2点があり、組み合わせのシステム構築が苦手、優れた技術を持つ企業や人材の活用が不十分であることにつながっている。

 実証研究として、

(1)コミュニケーションと組織のあり方は情報システム導入の成功にどのように関っているか
(2)日本企業のつくり込み/組み合わせシステムの使い方
(3)情報システム導入における問題点

の調査を、情報システムプロバイダーと情報技術導入企業(ユーザ企業)に対して実施した。ユーザー企業の情報システム導入成功要因として調査から判明したことは、戦略適合性、各部門の関与度、部門間・ベンダーとのコミュニケーションの量と多様性に伴い発生する調整コストの適切性の3要素が重要となる。ユーザー企業への調査から、委託開発・パッケージのカストマイズ・パッケージ導入(極力、パッケージ機能使用)の開発タイプ別に分けた場合、パッケージのカストマイズが総合満足度として一番低い結果となった。事由は、委託開発(つくりこみ)システムと同様な手間、コミュニケーション等のコストがかかるのに、きめ細かくニーズに対応できない点にある。

 一方、情報ベンダーへの調査によれば、顧客ニーズ充足度の点では、パッケージのカストマイズは第2位でよい結果であり、ユーザー企業と認識ギャップが発生している。
情報システム開発へのアプローチとして、委託開発とパッケージ導入を使い分けることが重要なポイントとなる。委託開発は、大規模で戦略的なプロジェクトに適しており、カストマイゼーションを伴わないパッケージ導入は、コストとスピード面のメリットがあり、特に小規模プロジェクトでユーザー満足度が高い。
 情報システム導入における最大の問題は、企業規模が大きい程、経営層が情報システム導入に関らないことである。この問題は、「新技術は取り入れたい。しかしながら、導入方法は従来のやり方で特に問題はない」という経営層の認識から来ている。

 日本のITジレンマをユーザーとベンダー別に分類する。ユーザーには、コスト削減しつつ、旧来のパフォーマンスを落とさずに、新しい分野にもIT利用を広げたい。ベンダーには、(1)旧来のスキルを維持しつつ、新しい技術に対応し、その両者を統合するのは無理がある (2)受託開発を基本としたビジネスモデルを変えられない、という状況があり、ニーズが少ないから、外部人材市場、専門家、教育機関、アウトソーシングが育たない、環境が整わないから需要が生まれない原因となっている。

 情報システム導入に関しては、技術(パッケージ等)を組織に合わせるのか、組織を技術に合わせるかの企業に取り重要課題があるが、情報システム部長の課題となっていて経営者の問題と認識していない。経営者は、硬い技術(パッケージ等の組み合わせの技術)の導入が、新事業の創出、事業の大幅な改革といった大きな変化を生じ、技術の組み換えと組織変革の同時実行が不可避であることをよく理解した上で、経営戦略を策定すべきである。

以上