システム開発のプロジェクトにおいて、プロマネ及びSEとして、常に忘れてはならないのは、自分たちの役割・ミッションです。
馬場史郎氏は「信頼されるSEの条件」(日経BP社)の中で、「SEとは何か、どんな仕事か」と問われた場合、「SEは社会システム変革の担い手である」と断言しろ、と言い切られています。
過去そして現在のIT技術者が営々と積み重ねてきた取り組みの結果が、社会インフラとしてのIT基盤・サービスとなっているのは間違いありません。その社会システム変革の担い手としてのSEは、顧客に対して、様々なソリューションを提供する必要があります。
ソリューションが、問題解決という意味であることから、システム構築ソリューションとは、システム構築によって、顧客の経営戦略上・業務改革上の様々な課題を情報技術(ハードウェア、ソフトウェア、パッケージソフト、スクラッチ技術など)を用いて解決することになります。
したがって、システム構築ソリューションを提供するSIベンダー及び、そこでのプロマネ及びSEは、顧客の言われたことを聞いて、そのままプロダクトを導入する存在、またはアプリケーションプログラムを開発するという存在ではなく、顧客の業務を熟知の上、顧客が明示的にできない要求事項を形式知とし、顧客ビジネス・業務改革のグランドデザインの中でのシステム化をプランニングする提案をすること。そして、その中で適切なハードウェア・ミドルウェア・業務パッケージを選定し、カスタマイズ及びスクラッチによる開発というトータルなインテグレーションを提供する主体であるべきです。
システム構築ソリューションの取り組みの現状を考えるにあたって、そもそものソリューションが創出されるプロセスを振り返ってみます。
2000年のアメリカズ・カップのテクニカル・ディレクターを務められた宮田秀明氏が、イノベーションのための創造プロセスをこう述べています。
「哲学」→「ビジョン」→「コンセプト」→「モデル」→「デザイン」→「シミュレーション・変更とフィードバック・検証」→「意思決定」「テスト」→「実行」(*)
ビジョンからコンセプトを作りモデル化していく。そして、実行まで終えると、再びビジョンに戻すというスパイラルを回していくことで大きな価値を生み出す。
ところが、多くの会社・組織は、コンセプトやモデルを前例や他社事例から採り、自らが考えようとしていない。「デザイン」「シミュレーション・変更とフィードバック・検証」から入り、小さな改善をコツコツと行うことに集中する。その成果は上がることは確かですが、コンセプトから得られる価値に比べると、とっても小さな価値となってしまいます。コンセプトやモデルが前例や他社事例・・借り物であることが多いとの指摘は、耳が痛いです。
デザインは、「モデルを具体化する」作業であり、「シミュレーション・変更とフィードバック・検証」によって、デザインの実現性を確実にします。たとえコンセプトやモデルがよくても、デザインができなかったり、コンセプトから逸脱するようなデザインになってしまったら、そのプロジェクトは失敗です。
技術者に対しては、シミュレーション以降のことが仕事のすべてだと、錯覚してしまわないようにと釘をさされ、理想のサイクルを回すことで、大きな価値を生むマインドを失わないこと。自分のプロジェクトが、この創造プロセスのどの工程から回っているかを、常に意識することが大切であると指摘されています。正直この指摘、目からウロコでした。
システム構築ソリューションにおいても、IT戦略立案工程において、「ビジョン」を練り、システム化の企画工程において、「コンセプト」づくりを行う。
基本構想・要件検討工程で、「モデル」「デザイン」「シミュレーション・変更とフィードバック・検証」を実施した上で、以降の設計・開発の工程を実施していきます。
ソリューション=顧客の問題解決という原点から、システム構築ソリューションを捉えなおすと、
ということになると思います。
実際のプロジェクトにおいては、IT技術をベースとしたインプリメンテーションを中心に、スキル及び体力の過半を割かれることが多いと認識していますが、顧客のビジネスモデルや業務を理解した上でのアプローチを常に心がける必要があります。
また、たとえ開発工程からの参画の場合であっても、プロマネは「コンセプト」レベルの意識を持ってプロジェクトに望むことが大切である、と思います。
最後に、宮田氏の「イノベーションのための創造プロセス」において、一番目のプロセスは、「哲学」であるといわれています。以下の工程においては、経験と論理と直観を駆使して、意思決定を図っていく必要があります。当然ながら、プロジェクトの推進途上においては、この経験と論理と直観に基づく科学的な意思決定ができない場合が生じます。
その際、拠りどころになるのは、「哲学」と「ビジョン」である、と。そして、この「哲学力」は技術の習得以上に難しく、困難なプロジェクトの実戦経験を通して鍛えられると指摘されています。
本メールマガジンの連載「情報システムの本質に迫る」において、芳賀正憲氏が「情報と情報システム」の根本から遡って議論を展開されていますが、ここで論じられている知育面を理解した上で、実戦での体育面を通して経験を積み、それを再び、より進化した知育として表出することがIT技術者の成長にとって必要ではないか、と考えています。
(*)宮田秀明「理系の経営学」、「仕事のやり方間違えてます ― 成功を手にする「理系思考」10の法則」