情報システム学会 メールマガジン 2008.7.25 No.03-4 [4]

連載 「大学教育最前線:第12回 室蘭工業大学」
「社会情報システム学」

情報メディア教育センター・刀川 眞

本学の概要と情報システム関連教育

 室蘭工業大学のルーツは、明治20年に設立された札幌農学校工学科である。現在は建設システム、機械システム、情報、電気電子、材料物性、応用化学の5学科と大学院からなる単科大学で、学生・教職員を合わせて約3,600名が在籍する。情報関連の教育・研究は主に情報工学科で行われているが、学科構成からも推測できるように伝統的工学の色彩が濃く、情報システムについてもいわゆるコンピュータ・システムの比重が高い。その中で筆者が所属する情報メディア教育センターは、学内の情報基盤の整備・運用が主業務であるが、それに加えて情報リテラシーやマルチメディア教育も行っている。最近は大学全体の情報セキュリティの維持向上や、各種学内情報システムの見直しなどにも関与しており、本学会でいうところの情報システムに最も関連深いと考える。
 当センターが行っている情報システムに関連する教育には、学部生向けの「情報と職業」と、大学院修士課程向けの「社会情報システム特論」がある。「情報と職業」はビジネス最前線や企業組織内における情報の活用、職業人としての情報との付き合い方などに関するもので、これらは情報システムと大いに関係はするものの、情報システムそのものを対象としているわけではない。これに対し「社会情報システム特論」は、情報システムを社会的視点から考えようとするものである。

社会情報システム特論

 そもそも社会情報システムとは何だろうか? 以降ではこれについて考えながら、「社会情報システム特論」の一端を紹介したい。
 結論から先に述べると、社会情報システムとは何かについて、まだ十分にコンセンサスが得られたものはないと考える。もちろん幾つかの大学にはこの呼称の組織があるし、多くの大学で講義が行われている。しかしそれらにおける社会情報システムの捉え方は一様ではないようである。
 言葉としての「社会情報システム」を分解して考えると、次の3つの組合せがある。
   (1)社会情報+システム
   (2)社会+情報システム
   (3)社会システム+情報
 よくあるケースが(3)で、この場合の社会システムとは交通システムや医療システムのように、主に自治体等が管理運営する公共システムに近い概念である((3)-1)。一方、「社会システム」にはこのような概念とは異なる、社会学的な意味がある。そのような観点からは、(3)は社会システムにおける情報の機能や役割を扱うことになり、かなり社会学に接近してくる((3)-2)。
 (2)は、社会における情報システムの役割や位置づけなどを論じるものと考えられ、恐らく本学会と最も関連深いと考える。ただしここでは社会と情報システムとを分離させているため、情報システム単独には"社会"が含まれず情報システム≒コンピュータシステムのように見られかねない。情報システムにも"社会"が含まれているとすると、すなわち「情報システム=社会+コンピュータシステム」とすると、(2)は「社会+(社会+コンピュータシステム)」ということになり、前と後の2つの社会の違いを論じなければならなくなる。
 (1)は「社会情報」の定義に依存するが、しばしば見受けられるのが(3)の公共システム的な場面で扱う情報、たとえば先にあげた交通システムや医療システムで扱う情報を社会情報とし、それのICTシステム化を論じるものであり、結局これは(3)-1とほとんど同じことになる。しかし社会とは複数の人、あるいはその結合としての組織から構成されるものである以上、そこでは人や組織間での情報授受、すなわちコミュニケーションが必定である。すると社会情報とは社会を構築・維持する上での情報のことであり、これについて論じることは限りなくコミュニケーション論に近くなり、ゆえに(1)はコミュニケーションシステムを論じることになる。
 このように考えてくると、そもそも社会情報システムにおける社会とは何かがポイントとして浮かび上がる。
たとえば、
  i 公共や公共性
  ii 人や組織の関係性
  iii いわゆる世間
などがすぐに思いつくが、これに即して(2)で示した「社会情報システム=社会+(社会+コンピュータシステム)」を考えると、後者にある社会がiiの人や組織の関係性を表し、前者の社会はiii"世間"が入ると考えることができる。つまり社会情報システム論とは、(人と接点を持ち、あるいは組織に入り込んだコンピュータシステム)と世間との相互作用を論じるということである。ちなみに、個々での議論ではiの公共や公共性はあまり本質ではなく、強いていえば費用負担者やサービス受給者の性格に特徴がある程度である。

 ‥と、あたかも社会情報システム論そのものについて述べた感があるが、本学の社会情報システム特論では、このような議論を基礎にして、情報システムの構築、ITベンダー、情報システムの社会的意味の変容などについて論じている。

おわりに

 最初に述べたように、社会情報システム自体がまだ未完成な概念だと認識しており、当然、ここで示したことも仕掛品の域を脱していない。情報システムが社会に浸透し社会と不可分の関係にある現在、情報システムをより根源的、あるいは"過激"に捉え、従来の枠組みを飛び越える思考の展開が必要と考える。ぜひ興味や関心、問題意識のある人たちが集まり、情報システムの次のステージに向けた精力的な研究を期待するものである。