情報システム学会 メールマガジン 2008.4.25 No.03-1 [3]

大学教育最前線: 文教大学 情報学部 情報システム学科

文教大学情報学部 石井信明

 これまで「大学教育最前線」の連載記事は、情報システム教育について大変示唆に富み、また、有益な内容を提供されています。そのような連載記事のバトンを気軽に引き受けてしまい、少し後悔しています。これまでの記事とはだいぶ質が異なると思いますが、文教大学情報システム学科の教育を中心に、その概要を紹介させていただきます。

【文教大学情報学部について】

文教大学情報学部は、工学系の学部にコンピュータを学ぶ学科ができ始めた1980年に、日本初の文科系情報学部として設立されました。国内の情報学部としては、老舗になります。情報システム学科の設立は、少し遅れて1986年になります。現在の情報学部には、広報学科、経営情報学科、情報システム学科の3学科があり、それぞれカリキュラムの内容に違いはありますが、情報学部としては、「感性」、「知性」、「技能」のバランスを重視した教育を目指しています。

【情報システム学科のカリキュラム】

 情報システム学科では、情報化社会の先駆者を育てること、および、学生が次に示す力を身に着けることを目標に、科目を構成しています。科目の概要については、学科ホームページをご覧ください。(http://www.bunkyo.ac.jp/faculty/fac-info/index.html
<学生に身に着けてほしい力>

 情報システム学科では、2年生からISコース、DCコース、ESコースの3つのコースに分かれ本格的な専門教育に入りますが、ここに示した学生に身に着けてほしい力は各コースに共通のものです。ちなみに、各コースの概要は、次のものです。

 なお、詳細は省略しますが、ISコースのカリキュラムは情報処理学会標準カリキュラムISJ2001への準拠を意識したものです。
 情報システム学科では、「学生に身に着けてほしい力」を養成する具体的な方法として、1年生からはじまる一連のプロジェクト演習をカリキュラムの軸とした教育を実践しています。プロジェクト演習は、1年生から3年生まで続く学科必修科目で、プロジェクト演習I、II、IIIを用意しています。4年生では、選択科目として、卒業プロジェクトがあります。このプロジェクト演習を通じて学生は、自ら問題をとらえ、情報を活用した解決方法を企画・提案し、それを具現化することを経験します。
 プロジェクト演習を成功させるには、当然、専門知識、技能も必要です。カリキュラムでは、プロジェクト演習を通して学生がそれらに気づき、その結果として、学生が学科の用意する専門科目に興味を持ち、プロジェクト演習で新たな問題に挑戦することを期待しています。
 プロジェクト演習は、数名から10名程度のグループに分かれて長期間行う授業です。当然、グループメンバー間のコミュニケーションが、演習の進捗を左右します。演習をプロジェクトととらえれば、プロジェクトの計画と管理も必要です。学生は、プロジェクト演習により、1年生からこれらを学習し、かつ、体験することになります。
 また、1年生の春学期には、初年次教育として「学びのプランニング」という科目を用意しています。これは、大学での学習スタイルを知り、2年生から始まるコース別カリキュラムの内容、学びと仕事とのつながり、人間関係づくりなどについて、グループ実習、第一線で活躍する外部講師による講演などを交えながら進めていきます。

【情報システム教育について考えること】

 多くの報告にあるように、近年、情報系学部学科への学生の人気が低迷しています。その原因として、SEを初めとした情報サービス産業系職種の新3Kあるいは7K説、高校における情報教育のあり方、パソコンをはじめとした情報システムの大衆化など、さまざまなことが言われています。SEに限らず、仕事はどれも厳しいものです。正確なデータがないので具体的には触れませんが、厳しくてもやりがいのある職種に関連する学部学科は、今でも学生に人気があると思います。結局のところ、学生にとり、情報を学ぶことに新鮮さ、時代のフロンティアとしてのワクワク感、あるいは、情報系職種へのやりがいを感じないのでしょう。
 情報システムを学ぶことはコンピュータを中心とした狭い範囲ではなく、情報システム学会の設立趣旨にあるように、人間の活動を学ぶことのはずです。これは、陳腐化の速度が速い技術を勉強するよりも、より基礎的な能力を身に付けることになるはずです。
 筆者が学生のとき、ある先生が、知識の半減期は5年といっていたのを覚えています。大学を卒業したときに100の知識があると仮定すると、30年で1%台になり、ちょうど定年を迎えると説明していました。大学を卒業してからの努力の方が、社会では重要であることを言いたかったのだと思います。変化の速度が速い現在、知識の半減期はもっと短くなっているでしょう。大学では、学部学科の分野の知識、スキルを身につける教育を行うことは当然ですが、卒業してからの学生のことを考えると、社会人として変化の時代を生きていくための基礎的な力を養成することも重要だと思います。以前の学生はこれらの力を、家庭や社会での生活の中で自然と身につけていたと思います。しかし、大学進学率が50%台になり、ほぼ全入時代の現在では、大学が、学生に対して社会人としての力の養成を意識した教育をする必要があるように感じます。
 話を情報システムに戻しますと、人間の活動を学ぶことが本来の情報システムであるならば、情報システムを学ぶことは、学生が社会人としての基礎的力を身につけるための近道になるのではないでしょうか。情報の感性により社会・人間を分析し課題を発見する力を養う、システム開発を通して、コミュニケーション能力、プロジェクト管理能力を養うなど、情報システムを学ぶことで養成できる力はたくさんあります。
 しかし、現在の情報に関する教育はコンピュータ中心になりがちであり、必ずしも上記の視点でなされてはいないと感じます。社会、学生の情報への認識も、「コンピュータ中心の何か」なのではないでしょうか。そのことがよいかどうかは浅学の筆者が判断できることではありませんが、情報の教育について、より広い視点、すなわち、情報システムを学ぶことは人間・社会を学ぶこととであるとの認識から教育のありかたを組み立てても良いのではないかと思います。

 とりとめのない話になってしまいました。ご批判、ご意見をいただけると幸いです。