情報システム学会 メールマガジン 2008.3.25 No.02-12 [3]

大学教育最前線:新潟国際情報大学 情報文化学部 情報システム学科
「学生のIT離れをどう防ぐか」

新潟国際情報大学教授 竹並 輝之

【カリキュラムの特徴】

 新潟国際情報大学情報文化学部情報システム学科の特徴は、「情報システムの企画・設計・運用に携わり、あるいは情報システムを活用することによって、ありうべき情報社会の建設に貢献できる人材を育成すること」という教育目標のもと、利用者の立場に立って情報システムを開発できる技術者と、有用な情報システムを企画し活用できる利用者の両方を育成していることである。カリキュラムの専門科目は、以下の5つの分野に分類して配置されており、学生には各分野からバランスよく科目を選択して履修した上で、各自の興味のある分野を専門分野(E分野を除く)と決めて卒業研究をするように指導している。
 A:情報とシステム
  (情報システムの企画、設計、構築方法の理解)
 B:人間と社会
  (情報システムと人間の内面的、社会的活動の関係の理解)
 C:経営と組織
  (情報技術を活用した企業経営と経営における情報システムの役割の理解)
 D:コンピュータと通信
  (情報システムを構成するコンピュータ技術とネットワーク技術の理解)
 E:論理と数理
  (論理的思考力の育成)
 情報システム技術者としての進路を希望する学生に対するプログラムでは、JABEEの情報分野で要求される能力を育成する科目を必修としている。

【学生のIT離れ】

 前述したように、情報システム学科では情報システム開発技術者と利用者の両方を育成しているが、現状ではシステム開発に興味を持つ学生(主として上記のA,D分野)対システム利用に興味を持つ学生(主として上記のB,C分野)の比率が4対6程度である。これは、理工系学部でない情報文化学部内の学科としては妥当な数字であろう。しかし、本メルマガ前月号で慶応義塾大学の山口高平教授(情報システム学会理事)が指摘している学生のIT離れの兆候が、ご多分に漏れず本学にも以下のようなところにでてきているように感じられる。

 学生のIT離れの原因は、いろいろ推測されているが、これといった決定的な理由は明らかでない。その原因追求に思いをめぐらせているときに、本学の特徴とする科目である「学外実習(インターンシップ)」の報告書に、ある学生が書いた文章が目にとまった。このあたりの事情を良く表わしているので紹介したい。

【IT離れの原因】

 情報システム学科では、3年次の夏休みにあらかじめお願いしてある企業や組織で、2週間のIT関連業務を実習し「学外実習」科目の単位を与えている。この実習は、学生に非常に良い効果を与えている。授業で勉強したことが、企業においてどのように活用されているのかを体験し理解することにより、実習後の勉学に対する取り組みが大きく違ってくることが多い。今年、あるIT企業(システムインテグレータ)で実習した学生の感想文の全文を、本人の了解を得て以下に引用して紹介させてもらう。
 「実習期間以前は2週間というのはとても長いものだと感じていたが、実際に実習を終えてみると非常に短かった。実習期間中は、見るものすべてが新しいものばかりで、作業中に座っているだけでも、周りの雰囲気や仕事の様子を見て、学ぶことがたくさんあった。また、それ以上に多くの人から話を聞かせてもらうことで、大学で講義を受けているだけでは知ることのできない、現場のことや、技術に関することなど多くのことを学ぶことができた。日々の一つ一つの作業やコミュニケーションなど、一瞬一瞬が勉強の連続で、とても充実した2週間をすごすことができた。
 この実習に来るまで、自分は多くの誤った考え方をしていたことに気付かされた。書籍やWebサイトから私が持っていたSEのイメージは、納期が迫ると突貫工事と称して徹夜の連日で少しの仮眠だけでずっと働き続けるものだと考えていた。自分の周りにもそういったイメージを持っている人間がいて、自分もそういうものだと考えていた。しかし、実際に現場で話を聞き、働いている様子を見て、私の誤った考えに気付かされた。
 私は中学生の頃からコンピュータに興味を持ち始め、将来はそれを使った仕事がしたいと考えていた。しかし、大学に入ってSEという仕事を本格的に調べてみると、誇張された表現が多く、職に対して誤った認識を持ってしまっていた。そのため、自分の興味のある職である一方で、SEとして就職したら体を壊してしまうのではないかと不安を抱いており、志すことに若干のためらいを感じていた。それを今回の実習期間の間に、本当のSEの姿・働く現場を見ることで、悪い先入観を取り除くことができて本当に良かったと思った。もし、この間違った認識を抱いたままだったならば、誤った材料をもって、自分のこれから先の就職を含めた進路を正しく決めることができなかったのではないかと思う。
 また、技術的な面でも非常に驚かされた。私は大学で学んだことが、現場ですぐに生かせると考えていたが、それは大間違いで、大学でやっていることより、はるかに現場のレベルは高く、私からすると非常に難解な作業を涼しげな顔をして皆さん行っていた。この実習の中でしか見ることのできないSEの作業を見せてもらうことで、自分がまだまだ未熟であり、今まで井の中の蛙であったことに気付かされた。私も大学にいる間に今まで以上に切磋琢磨し、実習先の技術者のようになりたいと思った。
 期間としては2週間だったが、実質は何ヶ月、もしかしたら何年にも及ぶほど多くの勉強をさせてもらい、自分の価値観・考え方を変えるとても貴重な経験となった。ここで見たこと、聞いたこと、学んだことは、今後の私の就職活動を含めた将来に活きてくると確信している。これらを糧にして、これからの大学生活、そしてその後の人生をより充実させていきたいと思う。学外実習を行って本当に良かった。」

【IT離れを防ぐために】

 こうしたIT関連業種に対する学生の思い込み、誤解に対して我々はどのように対応すればよいのであろうか。若者に情報システム開発の仕事の重要性や、やりがいを理解させ、夢を与えるにはどうすればよいのか。産業界に協力いただいて、学外実習(インターンシップ)などで学生が仕事の現場を理解する機会を増やすことは重要である。私個人としては、いままで学生に対しシステム開発の仕事の難しさ、苦労や大変さばかり協調しすぎていたのではないかという反省に立ち、大学の授業の中で、また高校生に対する大学説明会で、「システム作りの面白さ」と題して以下のような話をすることを心がけている。

 一方、IT関連業種に対する学生の認識は、あながち誤解ばかりであるとも言い切れない。IT業界の下請け構造、派遣技術者の実態、残業体質など、旧態依然の職場も存在している。IT業界の体質改善が学生のIT離れを防ぐ根本的な課題なのではないであろうか。