1980年代からの米国のプロパテント政策への転換は、その後各種規則の制定やガイドラインの策定を経て2005年「レーヒ・スミス米国特許法」によって、ひとつの完結を得る。
その間の主な米国としての要請は、次のとおりである。(1)特許の質的の向上、(2)負担を増やす特許訴訟の軽減、(3)日本や欧州などの主要先進国との制度調整。特許自体の質、すなわち特許の有効性が疑われるような問題(無効または広範囲)のある特許において、権利が主張されて訴訟が起こされることが多くなった。NPEのような賠償金やライセンス料を目的とする組織も現れた。そのような質の低い特許権による訴訟は高額な賠償請求を求める訴訟を増やし、また、米国固有の特許の抗弁要件(不公正行為・ベストモード)によって訴訟費用が上昇した。また、世界で米国だけとなった特許の先発明主義が国際的な制度全体に調和を欠くことになっていた。
これらの理由から、「レーヒ・スミス米国特許法」が連法議会に提出された。ただし、直ちに法律が成立したわけではない。米国の主要産業、特にIT業界や製薬業界など特許が有利に働く業界の積極的なロビー活動が繰り返され積極的であったブッシュ政権下でも成立せず、約6年近くの議論の後の2011年9月6日オバマ大統領が署名して成立した。
(次号はレーヒ・スミス米国特許法について)
引用・参照文献
「著作権法概説第13版」 半田正夫著 法学書院 2007年
「著作権法」中山信弘著 有斐閣 2007年
「著作権法第3版」 斉藤博著 有斐閣 2007年
「ソフトウェアの法的保護(新版)」中山信弘著 有斐閣 1992年
「特許法(第2版)」中山信弘著 有斐閣 2012年
「岩波講座 現代の法10 情報と法」 岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編 岩波書店 1997年
Michael L. Dertouzos, Richard K. Lester and Robert M. Solow, Made In America: Regaining the Productive Edge, MIT Press, 1989. MIT産業生産性調査委員会、依田直也訳、『Made in America アメリカ再生のための米日欧産業比較』、草思社 1990年
「米国発明法とその背景」、澤井智毅、経済産業調査会 2012年
「アメリカ通商法の解説」ヴェーカリックス,トーマス・V.ウイルソン,ディーヴィッド・I.ウァイゲル,ケネス・G.松下満雄監訳、商事法務研究会 1989年