[4] 比較検証
(2)通産省案と文化庁案<2>
ヤングレポートは、レーガン政権の産業競争力委員会(競争力評議会とも呼ばれる)によって提出されたレポートで、その後のアメリカの国際競争力の向上と経済成長をもたらすことになる。この「Global Competition−The New Reality(国際的な競争―新しい現実として)」では、国家として次の4つの主要目標を掲げている。
(1)競争力の優位性のため、新技術を創造、実用化、保護すること。
(2)投資のための利用可能な資本の供給を増加させながら、アメリカのビジネスへのコストを削減すること(資本コストの低減)。
(3)熟練、適応、意欲のある労働者を育成すること。(人的資源の開発のことで、労働力)
(4)自国の国家的優先事業とする世界の通商システムを強化すること。
アメリカは自国に国際的な競争力をつけるために、新技術を創造、実用化、保護すること、すなわち知的財産権の保護の強化が示された。
競争力の優位性により何が生まれるか。競争力は 、自由かつ公正のもとで、国家として有用な商品とサービスを生み出すことになる。そして、それは実質的な国民所得の維持と増大に役立つ。そのためにも、給与を下げることがあってはならないとされている。
またヤングレポートは、アメリカの現状について次の通り報告している。
(1)日本の自動車、鉄鋼、電気 精密機械における競争力の上昇がアメリカの5倍であり、それが偶然に起きたものでないこと。
(2)アメリカの実質所得が停滞していること。
(3)アメリカの製造部門の再投資について、20年前は12%だったものが、1983年には4%まで低下したこと(その原因として、アメリカの低い貯蓄率が指摘されている)。
(4)1983年の貿易赤字が12億5000万ドルに達したこと。
(5)米国の10のハイテク産業のうち7つのシェアを日本に奪われていること。
そして、その競争に影響を与えるものは4つ。「技術」「資本・資源」「人的資源」「国際貿易」としている。その中で知的財産権に関連するものは、「技術」における戦略、民間企業の研究開発の奨励と特許制度の見直しである。特に、コンピュータソフトなどのハイテク分野の競争力の低下は著しく、国内問題としての保護の不明瞭さだけではなく、米国の技術を利用した製品が国外のみならず、国内にも流入していることを指摘している。その原因が、国際的な知的財産権の保護レベルの各国の差や、途上国において特許保護を軽減する政策であることも示されている。
引用・参照文献
「著作権法概説第13版」 半田正夫著 法学書院 2007年
「著作権法」中山信弘著 有斐閣 2007年
「著作権法第3版」 斉藤博著 有斐閣 2007年
「ソフトウェアの法的保護(新版)」中山信弘著 有斐閣 1992年
「特許法(第2版)」中山信弘著 有斐閣 2012年
「岩波講座 現代の法10 情報と法」 岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編 岩波書店 1997年
Michael L. Dertouzos, Richard K. Lester and Robert M. Solow, Made In America: Regaining the Productive Edge, MIT Press, 1989. MIT産業生産性調査委員会、依田直也訳、『Made in America アメリカ再生のための米日欧産業比較』、草思社