ブラインド・スポットとは盲点のことです。意思決定者が常に正しい判断をするとは限りません。そこには意思決定プロセスに何らかの盲点が潜んでいるために誤った結果を得ることとなります。意思決定プロセスの中で生じる盲点となる要因を探し回避するためには、より正確な意思決定をする上で欠かせない情報つまりインテリジェンスが必要となります。企業における多くのインテリジェンス活動は、例えばライバル企業を攻撃するための活動ではなく、むしろ自身の企業活動(例えばマーケトシェアーを守る、販売コストの値崩れを阻止するなど)を守るためのリスク管理としての活動となります。
ブラインド・スポット分析では、戦略的な意思決定のプロセスにおいて不正あるいは欠陥のある判断をしてしまった問題を検証します。認知心理学、戦略理論、ダイナミックな組織行動を有機的に結合し、しばしば分析者が競争環境を読み間違えるのか、そしてなぜ内部で行った綿密な調査では企業の競争能力を過大評価しがちなのかを検証する方法として知られています。ブラインド・スポット分析により、組織の意思決定プロセスに重大な欠陥がある場合、それに気付きやすくなり、戦略意思決定を改良することができます。ここでは、ブラインド・スポットを起こすであろ背景と7種類のソースについて紹介すると共に、それらのソースが意思決定にどのように影響するかについて紹介します。本寄稿では、具体的な分析については省略します。
ブラインド・スポット分析は、「合理的かつ最適」であることの前提を緩和することで、競争のある環境での戦略的意思決定のプロセスに焦点をあてます。
M.ポーター(Michael Porter (1980)) は、業界組織および教育の場でブラインド・スポットを採用した最初の戦略研究者の1 人として知られています。M.ポーターは、問題を (1) 企業による自社自身の仮定 (2) 企業の企業が競争をしている競争相手および業界に関する仮定の2 つのカテゴリに主に分けました。また、多くの場合、これらの仮定には欠陥があり、そのとき知覚バイアスまたはブラインド・スポットが生じることを指摘しました。
次に、ブラインド・スポットが明らかになるのは 、次の3 箇所あるとされている。
第一に、企業が戦略的に重要な事柄の発展を理解していない場合。
第二に、企業が戦略的に重要な事柄の発展を間違って理解しているかもしれない場合。
第三に、正しく理解していたとしても、そのペースが遅すぎて適宜対応できない場合。
M.ポーターは、業界の分析シナリオに対して企業が計画した戦略で成功するには、ブラインド・スポットの排除は重要であると述べています。また、いったん企業の戦略が導入された後に競争上起きた偶発的な事態に対応するときは、企業の競争力を正しく評価するキーとなると指摘しています。ブラインド・スポット分析で最も重要なのは、偶発的に起こる事態、つまりリスクへの対応です。
あらゆる種類のブラインド・スポットは、複雑、あいまい、そして不統一な判断に対する意思決定者の反応があります。意思決定者は、不確実性への対応とお互いを認知することの不協和を減らすために試行錯誤を繰り返し意思決定に伴う判断プロセスを簡略化しようとします。この心理的なプロセスに対処するためのメカニズムの複雑さとあいまいさを管理可能なレベルの構造にしてしまうと確実性を減らすことになりかねないと同時に深刻な偏りをもたらすことにもなります。このような心理的な問題に対して、次に示す7つのソースによりブラインド・スポットが生じることが知られています。この7つのソースについて概説します。
ベン ギラッド(Gilad (1994)) は、ブラインド・スポットは欠陥のある仮定が原因で起きるという M.ポーターの初期の主張を拡張しました。B.ギラッドは、企業ではしばしば次の3 種類の危険とも言える仮定がなされ、競争上のポジションに悲惨な効果をもたらすと述べています。
最初のものは「議論されていない仮定」と呼ばれるもので、企業の競争環境に関するさまざまな要素に対する不正な仮定です。これには、競争相手、顧客、サプライヤーまたは企業の価値連鎖内の他の構成員に関する不正な仮定を含みます。これらは、企業内のだれもがこれらについて議論せず、最初から正しいものであると決めつけていることに起因しています。B.ギラッドGilad (1994) は、より大手の競争相手からしか深刻な競争はもたらされないと考えていたマウンテンバイク企業を例として取り上げ、その結果、小規模でそれほど重要に見えなかったライバルに儲かる成長著しいマウンテンバイク市場をを奪われてしまったことを例として説明しています。
2番目の不正な仮定としては、「企業にはびこる神話」と呼ばれるもので、企業の競争上の能力に関する不正な仮定です。しばしばこれらの仮定は、企業の実際の競争環境から完全に内部分析が離された結果、内部で行った調査をないがしろにすることです。B.ギラッドは、変わる市場の需要に対し、コンパックが取った反応を次のように述べています。コンパックは優れたエンジニアにより創業された企業であるため、同社の過去および現在の成功の主な理由は、その卓越した技術にあると考えていました。しかし顧客は急速に価格に敏感になり、デルなどの安いPC を求めるようになりました。コンパックは企業内部での議論では、価格よりも技術の卓越性の方がはるかに重要であると考えられていました。
3 番目の不正な仮定としては、「企業のタブー」と呼ばれる不正な仮定です。企業のタブーとは、企業風土の中で聖域と見なされている触れることができない仮定です。
例えば、オークションの落札者は、しばしば無意識に高額の金を払いすぎています。出品者は商品の本当の価格を知っており、脅迫されない限りこの価格以下では商品を売りません。どうしてもそれを欲しいと思ってしまうため、不当に楽観的な価格で落札者は商品を入札してしまいます。勝者(落札者)をこのような事態に陥らせる戦略は、儲けのない買収を行ってしまう理由で説明することができます。勝者ののろいの予見とその明確な認識がない場合、意思決定者は特許、企業、人員に過剰な投資をしてしまい、予定していたリターンを得られずに結果的に儲けのない買収をしてしまう可能性があります。このような選択をしてしまう根拠のない楽観的な行動を説明する要因がいくつかあります。確かに複数の落札者がいて、商品の本当の経済価値が分からないという状態では入札をさらに加熱させることになります。さらに、入札になる前の段階で分析上の欠陥があります。企業が市場を管理している場合では、シナジーのコンセプトはしばしば過大評価されています。真のシナジーが識別された場合でも、ほとんどの場合は2 つの障害がそれを捉えることを阻止します。まず買収後の予期せぬ多くの出来事として、最も知られているのは企業風土の衝突であり予期していたシナジーを最大限に実現することを妨げます。次に、多くの企業は他の入札者と目標の企業との間にある潜在的なシナジーを正確に考えることができないことがあります。競合入札者が潜在的なシナジーに対し、高い価格を設定する可能性があることを考えないと、企業は勝つことが出来ない入札戦争に無意識のうちに参加してしまうことになります。企業は目標とする企業を得られないばかりか、それよりも悪い潜在的なシナジーを手放さなければならない状態になり、結果として「成功」企業に負のリターンを与える、つまりおなじみの勝者ののろいに陥ってしまうことがあります。企業と目標企業および競争入札者と目標企業との間のシナジーに現実とは違う低い評価をしてしまうのは、買収を伴う戦略意思決定においてしばしば存在するブラインド・スポットです。
この勝者の「のろい」をさらに拡大した良く知られているシナリオが、企業が生産能力や市場シェアを拡大したり、新規ビジネスに参入して戦略目標を達成するために企業が投資をし過ぎてしまうケースです。このような状況において、成功していた企業は勝者の「のろい」によって徐々に破綻してゆくことになります。つまり、企業の上級幹部がい続ける企業よりも、その立場を失ってしまう企業を見る機会の方がはるかに多いということになります。
経営資源の投資が負のリターンをもたらすのは、最初の分析に欠陥があったか、競争環境に変化があったか、内部の能力が徐々に低下しているかのいずれかです。これらの良くあるシナリオに対し、削減、戦略の変更、または積極的な経営資源の配置をすることができます。戦略的意思決定者は戦略的な悲劇を回避するために、経営資源の投資を増やす傾向が強くなります。「盗人に追い銭をする」この行動は、皮肉にもさらに損失を招き、やがては経営戦略の失敗へとつながります。このような現象は、勝ち目がないことへの「コミットメントのエスカレート」と呼ばれ、競争分析および戦略意思決定においてブラインド・スポットを生じさせる主要な要因の1つとなっています。このブラインド・スポットは、豚に真珠と等しいようにも見えますが、これが頻繁になされてしまう論理的な理由はいくつかあります。
合理的とは言えない直感に反した行動を説明する要因は、次のとおりです。結果に関する多大な説明責任を負う意思決定者個人は、過去の判断を内部および外部で正当化するために、勝ち目のないことへのコミットメントをエスカレートさせます。過去の判断が原因の負の結果を、実際よりも不当に楽観的に偏って理解する処理メカニズムは、管理者がよく用いる手段です。これは合理的に見せかけ、自身のエゴを守り、同僚からの評価を維持するための、間違った方向へ導くものです。自分が何をしているかを理解しているように見える管理者は、コミットメントをエスカレートさせることによって、逆境にもかかわらず企業風土内の一貫した基準のもと事を遂行しているように見せかけます。しかし実際は、何をしているか理解していない場合もあり、初期の投資を正当化する思いがけない状況が到来しないかというはかない望みを元に、投資を拡大している可能性があります。したがって、従来の説明どおりに考えると、意思決定者が管理者としての能力を内部および外部で正当化する心理的な必要性がある、経済的合理性が個人的な説明責任と絡み合うときに深刻なブラインド・スポットとなります。
コミットメントをエスカレートさせる行動に対する従来の説明に挑んでいるのは可能性理論と呼ばれる考え方です。可能性理論では、特定の行動に対するコミットメントのエスカレートにつながる決して理性的でない判断を意思決定者がリスクに対し下してしまう理由として、次の2つをあげています (Kahneman & Tversky、1979、1982a、b、1984; Whyte、1986)。
第一に、人はリスクを判断する際、企業の富の効果に対してではなく中間的な判断は何かを測ろうとします。第二の理由は、判断の結果の可能性が予想よりも低下する影響は、幾分可能性があると考えられていた場合よりも、当初は必然と考えられていた場合の方が大きいという「確実性のリスク」に関係します。
図1は、不確実な多数の戦略的判断に、包括的価値機能(generic value function) をオプションとして割り当て、可能性理論を示しています。カーブは基点よりも上のときには凹状で、基点より下のときは凸状であることに注目してください。利得と比較した場合、価値機能(value function) は損失よりも深くなっています。これから、人は通常ゲインに魅了されるよりも損失を嫌うことが理解できます。
実際の判断は、意思決定者の価値機能に対する理論構成の枠組みによります。当初 10 万ドルのリソースを配置した意思決定者が、予期せぬ競争上の要因によりそれを失ってしまったとします。さらに 5 万ドルを投資した場合、それがペイオフする可能性は 10:1 です。管理者が下す判断は、価値カーブの管理者自身の評価基準によります。さらなる投資を行うことによってさらに 5 万ドル失うと考える場合もあれば、5 万ドル得られると考える場合もあります。この決定の枠組みでは、さらなる投資に対するより最近の判断に対し、多くの加重をかけます。また、管理者がプロジェクトの開始時からの富の総合計で投資判断を行う場合があります。この場合、投資判断の結果は、当初の 10 万ドルのロスまたはロスの累積の 15 万ドルとして考えられます。この場合、選択した理論構成の枠組みと関連する「確実性の効果」のために、勝ち目のないことにコミットメントをエスカレートし誘惑に屈してしまう可能性は高くなります。つまり、損失と利得の選択肢があるのではなく、2 つのロスの選択肢の中から選ばなければならない場合、管理者はリスクを合理的に回避できなくなります。
理論構成の枠組みが限定されているために良く起こるもう1つの問題は、意思決定者は戦略的な挑戦を企業の観点から見るために起こります。つまり、自社の戦略だけを考慮した限定された理論構成の枠組みの元でしか活動していないかもしれないと言うことになります。しかし、戦略が革新的であるには、従来の競争分析でもそうであったようにライバルの戦略も考慮する必要があります。企業間の協調そして協力体制を構築しなければならない時代の中、競争相手の戦略を明確に知り、予測している必要性はますます強くなってきています。理論構成の枠組みを拡大しない限り、業界の価値連鎖内で他の企業との協力することによって、競争優位を確保する競争で企業はライバルにそれを奪われてしまう可能性が強くなります。
多くの管理者は、意思決定の際に使用する知識および専門知識を過信しています。しかし過信の逆は、戦略的な判断においては同程度重要なパラメータである、「知らないことがある」ということに管理者たちが気付いていないということがあります。ルソとショーメーカー(Russo と Schoemaker (1992))は、自分の知識に限界があることに気付いているかどうかをメタ知識と呼んでいます。分析および決定の信頼範囲を正確に把握できていない意思決定者は、知らない事があるということに対して無知だと考えていることがあります。この結果は、もう 1 つの致命傷となりえるブラインド・スポット、つまり過小評価のリスクとなります。人が過信してしまう根底には、多くの戦略決定に関連する複雑さおよび不確実性に対する心理的な反応が関係します。複雑さおよび不確実さに対処するメカニズムとして、認識の簡略化(cognitive simplication)と言われる方法が使われます。戦略的意思決定者は、無意識のレベルでこれを行うことで現実を簡略化したものをやがては正確なものと信じてしまいます。この様な理由で、分析が正しくそれを採用した戦略決定も正しいものであると自分の能力を過信してしまいます。特に、固着、可能性、確認の偏り、後知恵、制御に関する錯覚や情報ボリュームなどが過信の原因とみなされています (Langer、1983; Schwenk、1984、1986; Rosso & Schoemaker、1992)。
固着とは、最初の非公式の評価または予測のスラングである「当て推量」に関係しています。管理者は無意識のうちに「当て推量」に固着し、その周辺に正式な分析を構築します。実際、「当て推量」は、正確かつ明確な分析およびそれに引き続いてなされる決定の範囲を制御する絶対的な基準点となります。その結果、戦略ビジョンは、当て推量の基準点の範囲に人為的に制限されることになります。
可能性とは、下せる判断数を減らすために、可能性および選択肢の範囲を制限する人の傾向を意味します。つまり、しばしばありがちな可能性のみが考慮されます。その結果、判断の選択肢、および出来事の結果の可能性として、ごく少量の判断材料しか考慮されず、それを元に判断が下されることで過信の状態に陥ります。当初はありそうもないように思えた判断の選択肢、および出来事の結果が実際に起こるときにブラインド・スポットとなります。
確認の偏りとは、証拠に対する荷重のかけ方に関係します。意思決定者の最初の見解および信念または直観的直感は、予想される考えに挑む証拠よりも分析において多くの比重がかけられます。したがって、不正な直観的直感は、正しいものだと見なされてしまいます。
後知恵とは、過去の判断を正確に予測することができたために生じてしまうゆがみに関係します。「後知恵の洞察力の明敏さ」と言われる現象は、競争環境は実際よりも予測しやすいと考えさせがちです。その結果、管理者は予期せぬ事柄に対する緊急時対策をよく怠ってしまうことがブラインド・スポットとなります。
制御に関する錯覚とは、管理者が自分の能力やスキルを信じているために、組織や競争上の現実を制御できると考えてしまうことです。過去に管理者によって制御されていることが確認された以前の仮定が確認できる情報がしばしば採用されるため、これは確認の偏りと密接に関係してしまうことがブラインド・スポットとなります。
情報ボリュームとは、情報の量は判断の元となる分析の質と直接関係があると管理者が結論付ける現象のことを言います。さらに、ボリュームの多いそれぞれの項目が、管理者の判断を支える理由として見なされことがブラインド・スポットとなります。しかし、これらは間違っている場合が多々あります。
類推による推論と呼ばれる現象は、限定されたサンプルまたは不十分な情報から無分別な一般化がされることを言います。企業が現在対峙している問題は過去の戦略的な挑戦と同じであると考えたり、因果関係が紛らわしかったり、かなり正確に将来の結果を予測できると企業が考える場合などにブラインド・スポットが生じることがあります。分析に対し少なすぎるサンプルしかないにもかかわらず、意思決定者は「少数の法則」にしたがって不正な推測をしてしまいます。類推による推論の重要な要因は、厳密な定量的な統計分析よりも、華やかなケーススタディに影響を受けてしまう傾向があります。その結果、サンプルサイズや分析インプットの種類を制限してしまう管理者の顕著な傾向です。この意味で、類推により推論 をしてしまうことに関連する概念は、管理者が現実をより簡単なものだと考えてしまい、ケーススタディに色付けを行ってしまうところから類推による推論操作されたモデルだと言うことができます。戦略的な判断を支える類推は、残念ながら、現在する判断の戦略パラメータに類似するものでも代表するものでもない場合があります。その結果、企業の競争環境が抱える複雑さおよび不確実性を過度に簡略化してしまうことになり、それがブラインド・スポットになることがあります。
経営の最上層部はしばしば、企業の階層の下位の管理者たちから判断の元となる分析を得ます。そのため、上述の6つのブラインド・スポットからのインパクトも、最上層部の意思決定プロセスにフィルターされ戻されます。経営者層のブラインド・スポットに情報のフィルタリングが与えるインパクトの範囲について、B.ギラッド は、組織内でブラインド・スポットの成長を促進する次の4つの要因を挙げています。
最初に、企業の組織構造を挙げることができます。戦略的挑戦、責任の共有、構造が分散化されているがゆえの意見の多様性は、ブラインド・スポットを解消できる場合があります。しかし、組織構造が際立って横方向である場合、戦略的判断が遅々として進まない傾向があり、これらはトレードオフされます。ここで必要なのは、正しいバランスを見つけることです。
ブラインド・スポットが生じるもう2番目の要因は、企業の戦略の失敗の扱い方です。企業が失敗を公然と学習の機会だと捉える場合、ブラインド・スポットが生じることは少ないと言えます。
ブラインド・スポットにインパクトを与える3番目の特徴は、企業の競争環境の不安定さです。急激な変革はより早く下位にいる従業員層にインパクトを与えるため、政治的、経済的、社会的、および技術的な混乱の中で競争する企業は、より安定した業界内にいる企業よりも早くブラインド・スポットに気付きます。
ブラインド・スポットが生じる4番目の条件としては、企業内にある組織で起きている怠慢なレベルを挙げることができます。成功している企業は、逆境時に自社を保護する経営資源を蓄積していることが多いことからも理解できます。このような企業の場合、パフォーマンスの低下が組織を浸食するときになってやっと明らかになります。
業界の生産能力に関する判断同様、内部開発を通じてのビジネスへの新規参入にも、ブラインド・スポットがはびこっています。はびこる要因については、次の4つの原因が考えられます。
過信とは、偶発時のリアクションをしばしば過小評価し過ぎるために能力を過信し、新規市場に参入できると考えてしまう管理者が多くいます。
理論的構成の枠組みの制限とは、 ビジネスへ新規参入するかどうかの判断を支える分析は、企業が参入を果たした後も業界の魅力は以前と同じであることを前提としています。しかし現実には、企業の参入前に行った業界構造の財務分析は、現実の競争を正確に表しているものでは無い場合があります。企業が参入した場合、競争および顧客にどのような刺激を与えるか、また業界の魅力をどのように変えるかを財務分析は考慮に入れている必要があります。
特定のアクションに対しコミットメントをエスカレートするということは、 一度企業が市場に参入すると、予期せぬ競争上の報復や顧客の嫌気を抱くことにも関わらず、管理者は良く最初にとったアクションにコミットメントをエスカレートさせてしまいます。
勝者の呪いとは 戦略的意思決定者は、新しい業界内のライバル企業が報復攻撃する可能性をよく過小評価しています。ライバル企業は回収不可能な資産を投資して撤退障壁を作ってしまったために、参入企業の利益分岐点よりも低い価格設定をして既存の市場シェアを積極的に守とうとするかもしれません。その結果、企業が市場に参入しても、予想していた利益を得られない場合があります。
内部開発を通じてのビジネスへの新規参入と同様に、買収をする際にも主に次の4つの原因でブラインド・スポットが生じます。
過信とは、多くの管理者は買収後、シナジーを実現できる能力があると過信しています。理論的構成の枠組みの制限とは、 買収の可能性について分析する際、管理者は期待しているシナジーを完全に利用できると考えているので、制限されている意思決定の枠組みに苦しみます。
特定のアクションに対しコミットメントをエスカレートすると言うこととは、期待しているシナジーを実現できる能力が企業にあると過信している場合、企業はライバル企業も同様なシナジーを実現できる可能性があるということを無視しています。その結果、管理者はコミットメントをエスカレートするというわなにはまってしまいます
勝者の呪いとは、前のブラインド・スポットの結果、期待していたシナジーの多くは払いすぎによって陳腐化しているので、買収側の企業の成功はしばしばあやしいものです。
ブラインド・スポット分析は包括的になされます。簡単に言えば、ブラインド・スポット分析は効率的に分析や意思決定を行うのに必須のものだと言うことができます。戦略的な分析ツールとしての強みは、強調しても強調しすぎることはありません。ブラインド・スポット分析は包括的なもので、会社内の全てのところに行き渡ります。同様にブラインド・スポット分析は、独立した分析ツールとして使用するのではなく、企業が用いる他のすべての分析ツールの手引きをする、すべてを包含する考え方として使用すべきです。
次に、この分析は柔軟性があります。ブラインド・スポット分析は、企業の現在の意思決定プロセスの欠陥を分析するツールとして使用することができます。また企業の CI システムや意思決定者の間で生じそうなブラインド・スポットや潜在的な弱みを監視するために継続的にしようするのに扱いやすいといえます。
また、この分析はコスト効率が良いので導入しやすいと言う利点があります。ブラインド・スポット分析自体にはコストがかからず、比較的導入しやすいです。これが採用されていない場合、戦略が失敗する可能性が高いようなときには、この分析テクニックから得られる利益/コスト率は高いと言えます。
ブラインド・スポット分析は、他の経営管理ツールやテクニックを適用するプロセスとはかなり違います。ブラインド・スポット分析は体系的に適用されるものではなく、むしろ競争分析および戦略的意思決定のすべての分野に普及する哲学的な要素を含むアプローチであると言えます。つまり、戦略を構築するために企業が採用している他の経営管理ツールやテクニックに、可能な限り組み込まれていなければなりません。ブラインド・スポット分析は幅が広いため、厳格に導入する必要はありませんがこの分析を随所に組み込むことにより、いくつかの経営戦略の核となる方針がすべてを含有する枠組みの役割を果たします。何がブラインド・スポットかを本質的な問題かを明らかにするのは困難です。多くの企業はその存在にすら気付かず、それに苦しんでいます。したがってブラインド・スポット分析を導入するに当たっての最初のステップは、企業内にあるブラインド・スポットとなり得るソースを識別することだと言えます。企業がどれだけブラインド・スポットを許容してしまう可能性があるか、またそれらが競争分析、内部調査、戦略的意思決定に影響を与えるかを調べるテストが次の3つの方法が知られています。
直観テストは、企業がどれだけ自社の競争環境と内部能力の全局面を知っているかを知るテストです。どのような分析でもこれは行われると思うかもしれませんが、ブラインド・スポット分析においては非常に厳格に行われます。ライバルがどこでどのように競争しているか、業界の境界、戦術の詳細、戦略の概要、そしてこれらの間にある事柄すべてを調べます。積極的な コンペティティブ・インテリジェンスプログラムおよびベンチマーキングの2つは、自社、市場および競争相手のことを、企業が直観的に良く分かっていることだと思います。長期の間成功している企業は、自社ではすべてのことを把握していると考えてしまいがちなため、このテストで失敗します。特に速いペースでの変化および今日の世界市場の構造のあいまい性を考えた場合、これは不可能ではないかと思われます。
リアクションテストは、企業が偶発時に、計画した戦略に対して明確なリアクションを考えているかどうかをテストします。企業はしばしば市場調査をコンペティティブ・インテリジェンスプログラム代わりだと考えてしまいますが、これは大きな間違いです。
黙秘、ブラインド、無頓着テストは、企業に競合分析をする能力があるかどうかを調べます。つまり、企業が真に学ぶ組織であるかどうかがテストされます。
これらのテストはいずれも単純で修辞疑問(肯定疑問文で強く否定を表す)であるようにも見えます。しかし多くの企業経営管理者は、自社ではそれぞれのテストに合格していると採点してしまいます。しかし、それぞれのテストの単純さは、知らぬ間に生じるブラインド・スポットの性質を示しています。例えば、全く異なる業界から未知の競争相手が市場に参入しているにも係らず、企業は競争上、ブラインド・スポットがないと直観的なテストで回答が得られるかもしれません。ブラインド・スポット分析において、無知は「おめでたい」のではなく危険なのです。ブラインド・スポットは通常は被害を受けるまで気付きません。したがってブラインド・スポット分析の目的は、それを早期の段階で発見し、企業の競争上のポジションに負のインパクトを与える前に、それを排除することです。ブラインド・スポット分析の直感的な論理の他に、この危険性を高める十分な事例を証拠として挙げることができます。30 年以上ビジネスを継続できる企業は、極めて少数であるというのがその中の主な例です。ブラインド・スポットを見つけ出し排除しないと、企業は活動不能になり、やがては倒産に追いやっられるというのが冷酷な現実だと思いませんか。
広い意味で製品・技術を導入する前にブラインド・スポット分析を行っていたならば、多くの誤った仮定を防ぐことが可能だと言えます。例えば、インテリジェンスを利活用する可能性が低い企業の場合、それが警告となり管理者はこの分野への コンペティティブ・インテリジェンスへの取り組みを増やすきっかけとなります。さらに企業の各機能分野と コンペティティブ・インテリジェンス の使用可能性との間の差異はコンペティティブ・インテリジェンスの普及プロセスに衰弱な原因となる欠陥があることを企業に警告することができます。これらが分かっていれば、多くの企業が競争の舞台を読み間違える原因となった戦略的なブラインドを排除することができたかもしれません。企業が新製品・技術の導入戦略あるいは新規分野への進出などでで失敗したのは、ブラインド・スポット分析の欠如によるところが大きいと言えるのではないでしょうか。
ブラインド・スポット分析を上手に導入するためには、他のコンペティティブ・インテリジェンスに関する分析との併用が必要です。併用できる分析としては、比較原価分析、競合のプロファイリング、カントリーリスク、政治リスク、顧客セグメント分析、顧客価値分析、機能能力およびリソース分析、業界分析、問題分析、経営陣のプロファイリング、シナリオ分析、S曲線分析、ステークホルダー分析、STEEP分析、戦略グループ分析、SWOT分析、価値連鎖分析など多くの分析があります。多くの分析から3種類ぐらいの分析手法を組み合わせることが大切です。
-- (1986). “Information, cognitive bias and commitment to a course of action.” Cademy of Management review, 11(2), 298-310.