情報システム学会 メールマガジン 2011.6.25 No.06-03 [4b]

第12回 「情報システムのあり方と人間活動」 研究会 開催概要記録(第2部)

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科
准教授 嶋津 恵子

第2部 午後3時25分〜午後4時40分(質疑 20分)

講演題目 「システムエンジニアリングの世界標準動向」

副題「システムエンジニアリングの世界標準知識-INCOSE SE-を
日本に浸透させるために」

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 准教授 嶋津 恵子

 世界に通用する即戦力を備えた技術者を育成するための実践(Hands-on)型授業と,INCOSE(International Council on Systems Engineering )の提唱するシステムエンジニアリングフレームワークの理解を深めるための活動を,情報システム学会を中心に進めることを提案したく,紹介させていただきました.
 現在日本は,未曽有の国家的危機に直面しています.原子力や地震学・気象学等の工学系の研究だけでなく,社会政策等研究でも,日本には超一流の専門家が育っています.その一方で,先の大地震と大津波による被害と事故に対し,未だキラーソリューションと言えるものが特定されていません.さらに数か月前には,アラブ首長国連邦向け原子力発電の国際入札で韓国に敗北し,現在進行中の米国鉄道施設計画に対しても日本は旗色が悪いと言われています.すでに多くの専門分野で最先端技術を誇る日本は,現在,システムエンジニアリング力の欠落に対し,産業界任せではなく学界が率先して解決にあたるべきだと,私は考えております.
 システムエンジニアリングは,アポロ計画時に,当時の貧弱な技術力を最大に生かし,月面着陸を達成するために生み出された技術統合技法だと言われています.この成果をもとに,IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.) やDoD(Department of Defense),それに欧州のECSS(European Cooperation Space Standardization)等の報告や産業界からのベストプラクティスを研究し,一般に広く展開できるモデルとフレームワーク,さらにそれらの利用手順を展開しているのがINCOSEです.例えば,最近各方面での世界進出が目覚ましい韓国は,10年以上前からINCOSEの成果を自国の産業に取り入れる戦略を採用しています.
 一方日本では,Vモデル等が部分的に,かつ誤った解釈で展開されているにすぎず,システムエンジニアリングの本質である統合工学を浸透させるに至っておりません.このことが,部品製作技術や要素開発技術では世界一流の日本が,世界に誇れるシステムを実現できない理由の一つだと考えております.
 私はこの考えの下,これまでに,INCOSEの提唱するシステムエンジニアリング技法の講義と,それをどう使うかを体験させる実践(Hands-on)型授業を行い,就職後に学生たちが高い即戦力を訴求できることを確認してまいりました.また国際会議で,この教授法の紹介をすると欧米の多くの大学や産業界から授業の見学要請を受けて参りました.
 現在,国内の大学で世界標準のシステムエンジニアリングの講義を行っているのは,慶應義塾大学の大学院だけであり,INCOSEの活動と協調する国内の学会は存在しません.一方,シンガポールはアジアで初めてINCOSE Conferenceを誘致・開催し,韓国はKCOSEを立ち上げております. 情報システム学会が,国内唯一,学会としてINCOSEの提唱するシステムエンジニアリングの知識を有する技術者(CSEP:Certified Systems Engineering Professional資格取得者)を輩出するサービスを展開することを提案させていただきます.

以上