情報システム学会 メールマガジン 2010.10.25 No.05-07 [7]

理事が語る
よりHuman-oriented / Human-centricな情報システムへ

理事 川野喜一(富士通ディフェンスシステムエンジニアリング)

 本年(2010年)5月に理事を拝命し、メルマガを担当しております。編集委員長の岩崎理事はじめ編集委員の方々との活動をとおして、学会の情報発信、学会員の情報交換やコミュニケーションの場作りに少しでもお役に立てればと存じます。
 これまで、災害やテロなどの脅威から国土や国民の生活・安全を守るための情報システムの構築に、SE・研究職として携わってきました。現在も、一経営者の立場で携わっております。
 複雑で動的に変化する環境や、不確かな状況に対応する人や組織には、タイムリーな情報収集、正確な状況把握、即座の意思決定と行動が要求されます。センサ、移動体、施設、装置、通信、手順(規約)および人間・組織などを含む系(システム)全体で、(1)情報(インフォメーション/データ)を収集する、(2)収集(感知)した情報(データ)を処理し意味のある情報(インテリジェンス)にする、(3)環境・状況を把握し評価する、(4)状況の推移を予測する、(5)行動・対抗手段を列挙し効果を予測する、(6)行動計画を策定する、(7)決定した行動を命令・指令する、といった一連のプロセスが行われます。
 余談ですが、その昔(昔々)、このプロセスの一部に旗や伝令、狼煙や鐘が使われ、烽火台伝達網(ネットワーク)が作られました。また近世には腕木通信(テレグラフ)や電気通信、無線通信が生まれました。コンピュータやインターネット、セキュリティ技術もこの中から生まれました。
 さて、この一連のプロセスを支援する情報システムを、情報技術の利用の視点で見ると、コンピュータ技術や通信技術の発展とともにplatform-centric なシステムから network-centric なシステムへと発展し、情報伝達やデータ処理の即時性の点、認識の共有のための情報共有の点、シミュレーションを活用した状況の予測や行動計画の評価の点などで効果をあげてきています。命に関わるミッションクリティカルなシステムですから、確実性を追求しながら発展してきましたが、最近では、人に着目した知識のマネジメントやパーソナルな支援、フィールドワークの手法を使った情報技術活用のプロセスの改善など、より効果的な情報システムの実現に向けて、human-centricなシステムの構築が試みられています。
 また、対応する事態が多様になるに伴い、情報技術の効率的な利用に加えて、組織の特性、組織間の連携(相互運用性)、事態の推移に応じた態勢移行、実務者や意思決定者の行動特性などを考慮したシステムデザインが求められ、個人や組織としての人間の情報行動の理解の観点からのアプローチが不可欠になってきています。学会が目指すところの「単に情報技術の効率的な利用を狙うだけではなく,人間の情報行動の理解に立脚すること」の必要性を、最近とみに実感している次第です。

 私自身、実務経験の学会へのフィードバックがなかなか実行できておりませんが、学会での他の実務者や研究者の方々との交流や相互研鑽をとおして、社会や組織、そして一人ひとりに役立つhuman-oriented / human-centricな情報システムの実現に努力していきたいと思います。みなさまからのメルマガへの情報発信も含めて、どうぞよろしくお願いいたします。