第9回 「情報システムのあり方と人間活動」 研究会 開催概要記録
主査 伊藤重隆
開催日時 平成22年9月25日(土) 午後1時30分
場所 慶應義塾大学日吉キャンパス協生館6階 大会議室
研究会を開催しましたので概要をご報告します。今回の研究会は、第1部では情報システム開発の先輩から貴重な経験とその経験を活かした、現在取り組んでいるプロジェクトの紹介、第2部では現在進行中の国際財務報告基準統一の動きと情報システムでの対応について基本的な考え方の講演がありました。大変、時宜を得た講演であったと思います。いつもと同様に質疑を交えた活発な研究会となりました。
第1部 午後1時30分〜3時 質疑30分
題目 「専用CADシステムの開発」
講演者 元三井造船(株)造船設計用CADシステム開発担当
元三井造船システム技研(株)
住宅用開発会社向住宅設計システム開発担当 平野 哲雄氏
講演者補助 企業等OB人材マッチング千葉協議会
コンサルタント 疋田 美洲氏
【講演概要】
1 概要
汎用CADは、多くの図形生成機能を有し、操作が多岐に亘りCAD専門オペレーターが必要である。製造業の設計作業は部材を作成し、それを配置して部材相互間を調整する機能からなる。汎用CADは多くのユーザーのニーズに応えてこれらを一つのシステムの中で行うので操作が複雑なものとなる。
また、多種の設計業務に対応するため、個別ユーザーの業務には必要でない機能も含まれる。個々の設計作業を汎用機能を利用して行うため操作が複雑になる。
専用CADを開発する余裕のある会社は操作の最適化を求めて独自のCADを開発するが、独自にCADを開発する余裕のない企業も多い。
今回の講演では、極力不要な設計機能を排除した特定業務遂行に必要な機能のみよりなるコンパクトな墓石CADシステムの短期間開発への取組みを紹介する。
・昭和38年三井造船に入社し数値計算を担当(言語:機械語・アッセンブラー)
・39〜41年 技術コンサルタントとしてFORTRANを修得
・42〜43年 システムプログラマーとしてIBM360で、造船鋼板加工情報記述言語開発(図形作成省力言語)し図形作成の省力化を実現
・46〜48年 米国に出張しMITで開発中のCADシステムを見聞した。メモリーが64KBのDEC PDP11で稼動していたので驚いた。帰国後、早速 MITでの見聞を参考にして、造船鋼板NC切断システム開発をPDP11上で行う。
・49〜50年 通商産業省担当官が訪問しPDP11で稼動している上記NCシステムを国産機富士通U200へ変換するプロジェクトを提案。財政補助を得て実現
・51〜52年 化学プラント用配管組立て図作成システム開発(富士通U300)
・53〜54年 造船配管加工システム開発(富士通U300、FORTRAN他)
・55年 測定/解析/加工システム開発(EWS使用、C言語)
・56〜60年 造船配管設計CAD開発(IBM汎用機、FORTRAN、アッセンブラー)。主要機能:3次元配置、干渉チェック、保守検討、部材表
・平成6年 地図情報作成システム(PC、Lisp)
・7〜8年 住宅設計システム(PC、C++)
・9〜10年 住宅設計システム(PC、言語 富士通ICAD)
上記、住宅設計システムは顧客仕様通りに作成したが、業務運用上問題発生
・11年 階段設計システム(PC、言語 Autocad)
Visual C++の修得に1年間を掛け、現在 取組みの下記開発を実施中
・14〜22年 墓石CAD開発(PC、言語 Visual C++)
(1) 開発の主要目的
・ユーザーのニーズに最適な専用設計システムの容易な構築を指向する
・設計者が簡単に操作できるCADを目指す
・極力、図形生成に要する数値入力操作を少なくする
・業務ごとに機能特化した複合命令を作成し、簡単操作でCAD操作の専用オペレーターでなくとも操作可能とする
・部材の雛形(クラス)を予め定義し、パラメトリック手法で主要寸法を与えれば、個々の部材(オブジェクト)を生成できる柔軟な仕組みを組み込む
・CADに必要なプログラム部材を用意し、それを組み合わせて専用CADを作成しやすくする
・具体例として墓石CAD開発事例を紹介
同システムは、部材生成システム(以下 TDCと呼称)、部材配置システム(以下 ARGと呼称)より構成され、TDCで部材を生成しARGで敷地上に部材を配置する。部材とは、棹石、墓石、素輪、上台、中台、芝台、宝珠、多宝塔、・・、墓誌、灯籠、羽目、玉垣、親柱、階段、物置台、納骨室他多岐に渡る。これらの部材をTDCで生成し、又、ARGでは、これらの部材を選択、加工して墓石の敷地上に配置し調整する。
TDCの機能は、基本要素を組み合わせ、単体部材を作成しこれを組み合わせて複合部材とする。基本要素として、多角形、円柱、回転体、円、自由曲面、外円・・・があり、特殊な基本要素として、偏芯肉厚円筒、曲率円柱、くり貫き(例:灯籠)がある。
ARGの機能は、予めTDCで作成した部材を対話型で画面を見ながら墓石の敷地に配置するものである。部材の配置に際しては、部材の伸縮、移動、回転、軸対称鏡像作成を行い、部材の伸縮、移動に際しては伸縮幅、移動幅を数値でなく隣接する部材を指定し、隣接部材の接合面まで部材を伸縮、移動することにより数値入力を極力排除した配置が行える。又、配置と共に部材間の干渉チェックが行えるものである。
画面は、4つのウィンドを用意、部材選択に必要な部材は予めTDCで作成しておきその中から選択していく方式を取っている。
画面については、種類として全体パース図、全体3画面図、部材パース図、部材3画面図、見積書、加工指図がある。墓所など多数の部材で構成された場合、全ての部材の組み位置を1枚のパース図で明示することは、一般的にはできない。そのとき、部材をグループに分けて、部分組み立て図を作成すると個々の部材の配置位置を明示できるようになることが多い。そこで、1枚のパース図では隠れて見えない部材を複数のパース図に振り分け確認できるようにした。
・開発経験を振り返ると、日本のもの作りを支えてきた工場現場の熟練技能者のノウハウをプログラムに組み込み生産性を向上させたかも知れないが、一方で熟練技能者のノウハウを数値化することにより彼らの尊厳を傷つけてしまった。又、現在の経済状況を見ると彼らの貴重なノウハウの流出を助けてしまったとの感が強い。彼らの悲しい気持ちを考えると複雑である。
・現役時代に実現できなかったCADシステムの現在の取組み概要を述べたが、開発言語は、Visual C++で機能が多く優れていると考えるが、開発ノウハウを身に付けるのが容易でなく言語の新バージョンが出荷されると追随するのが大変である。
・墓石CAD開発は、全てを手作りしたので時間がかかったが次回からは短期間で開発可能と考えている。
・ITの発達により自宅でプログラム作成が可能になった。現役引退後の時間を有効に利用するのにはプログラム作成は適切と考える。又、現役時代には予算・期間の制約があったが、それから開放され最善の解を追求することができる達成感も味わえる。又、共同で開発を行ってもらえる人がいるので大変、心強いと感じています。
・下記が質疑での主要点でした。
外部から開発を受注する場合と社内システム開発の対応の違い
現在、開発中のシステムのパッケージ化の可能性
日本では、パッケージ化が何故うまく行かないのか
海外(開発途上国)へのノウハウ流出(技術移転)は必然なのか
今回の開発についての貴重なノウハウ継承をどう考えるか
(現在開発中のプログラムを無償で提供も可との回答がありました)
第2部 午後3時40分〜5時 質疑 30分
題目 「IFRS(国際財務報告基準)の情報システムへのインパクトと対応」
講演者 (株)システムフロンティア 常務執行役員 山田 雄久氏
【講演概要】
1 概要
現在、IFRS(国際財務報告基準)の適用が上場企業を中心に大きな課題となっている。IFRSは、国際会計基準審議会が単一な会計基準を各国に適用する会計基準ですが、日本においても企業会計審議会で慎重に審議中である。2009年6月に中間報告を公表し、2010年3月期より任意適用し強制適用については2012年中に決定し、早ければ2015年―2016年には強制適用される見込みです。この会計制度の適用に関しては、各企業が保有している基幹情報システムへのインパクトが考えられます。本日は、当社で考えるIFRS導入についての情報システムでの考え方をご紹介します。
IFRSは、対外公表する連結財務諸表を国際的に統一した基準で作成するというものです。情報システムでの対応としては、
1番目の方法として、連結システムを導入し業務システムの修正は最小限とし短期間に対応する、但しこのデメリットとしては、オペレーションレベルでIFRS対応を個別に行うので業務標準化やシェアード運用による効率化、運用コスト低減効果が低いことがあげられます。
2番目は、これを機会に業務プロセスの標準化と共通業務システムの導入を行う情報システムの全面改築です。企業グループの業務を標準化・共通化し、IFRS対応と業務効率化、コスト削減を同時に実現する方法です。但しこの方法は、グループ全社での取組みが必要で横展開するまでに時間とコストが相応にかかる弱点を持ちます。
3番目が、当社が推進する会計(GL)システムの導入により解決する方法です。会計システム導入によりIFRS対応が行え、財務・管理会計一致の勘定科目体系の構築によりセグメント情報報告、子会社の勘定科目の標準化が実現され、IFRS、ローカル、連結それぞれの帳簿の一元管理が可能で財務諸表作成にかかる内部統制対応へも対応しコスト削減が可能となります。但し勘定科目体系、帳簿体系の設計に経営管理部門(経理部門)の参加が必須で、ある程度の時間とコストを要します。
IFRSへのソリューションは大変 広範囲なので、会計制度の中の「仕訳」と「元帳転記」、さらに決算書作成に焦点をあてたソリューションを考え、技術基盤として Oracle EBS R12/SLA(Sub Ledger Accounting)を採用し独自の機能強化を行い、開発促進ツール(LASAI Booster)を備えた商品名LASAI(Landing Site for accounting information)を開発しました。その全体構成は、現行勘定コード分析によるIFRS影響調査ツール(LASAI Booster I)、新仕訳パターン策定促進ツール(LASAI Booster II)からなり、Booster IIを利用することでSLA用仕訳設定情報を自動生成するのでSLAへの人手による入力を不要にする効果があります。
LASAIは、オラクルが提供するSLA(複数会計仕訳生成エンジン)をフルに活用し日本会計基準とIFRSに対応する仕組みで下記の特徴を保有しています。
(1)仕訳設計のためのツール(エディタ)を備え会計担当者同士でなされる通常の検討結果をシステムに入力できます。
(2)上記入力により、改修を要する上流システムに対しての要求要件・IF構造を明記した仕様書が得られます。
(3)仕様書を前提としたSLAへのセットアップ内容を記述した設定文書とSLAに直接アップロード可能な形に変換した設定用データを準備できます。
更に、仕訳設計効率化のため、JGAAPとIFRSとの二つの会計基準に対応した仕訳テンプレートを内蔵し、これにより通常の事業会社の仕訳について一定の網羅性を確保しています。
これにより、JGAAP用GLのみならず、IFRS用GLにも仕訳全量が保持され、両基準間で質的に差のない最高粒度のGLを作成することが可能となっています。
何故、複数会計基準仕訳全量維持のソリューションが最適と考えたかについて、ご紹介します。
まず、近い将来「主」たる会計基準となるIFRSのGLに仕訳明細が存在しないような方式、つまり連結決算の時点になってからGLの組替えによりIFRSへ対応した場合、適用までが短期間であったという先行する欧州で発生している問題と同様な問題を日本でも引き起こすものと考えています。又、組替え方式のコストがLASAI利用方式と比較しても安いとは考えにくいからです。
IFRS適用時には、多くの非会計情報である注記が必要とされますが、仕訳全量をGLに保有するので柔軟に対応でき、又、セグメント情報、管理会計と財務会計の一致についての開示情報も適切に作成することができます。(LASAI開示支援ツール)
4 各企業のIFRS対応プロジェクトでのLASAIの位置付け
IFRSの強制適用が近い将来予想されていることから、LASAIのBooster IIを利用することが早期対応着手となります。つまり、プロジェクトの予備検討段階で会計開示方針についてヒアリングを進めBooster IIを利用することで業務処理を行っている上流システム群等への要件提示が行えるのでIFRS対応プロジェクトの計画策定が早期に可能となります。又、現行基幹システムの改修を最小限に抑え総投資額の最小化が図れます。又、プロジェクトの早期立ち上げによりプロジェクト要員の早期確保が可能となります。但し、早期着手のため未決事項の追加改修・開発が生じますが、LASAIの利用で最小限の対応で行えることになります。
今回、ご紹介したソリューションはIFRSへの対応を一過性のものとして捉えずGLの仕訳明細を保有することで、今後の制度変更、開示情報の充実に活用できること、経理部門がIFRSの方針を受け、会社として具体的な開示方法を検討、実装する時に柔軟に対応が出来る大きな利点を持つと考えています。是非、早期にIFRS対応の着手に取り組んで頂きたいと考える次第です。
なお、今回のソリューションの検討には、中京大学 経営学部長 吉田康英教授からご支援を頂いている点を述べさせていただきます。
日本でのIFRS対応の確定はいつ頃か
IFRSでは、具体的な会計開示方式をきめないのか
このソリューションの引き合い状況は
海外へ展開する可能性は
以上