情報システム学会 メールマガジン 2010.6.25 No.05-03 [6]

評議員からのひとこと
「学会の発展にむけて」

評議員 原 潔

 情報システム学会も創立6年目に入り、発展期に入ってきたというところでしょうか。学会の理念に惹かれるものがあり、創立準備の段階から産業界の立場でこの学会に関係してきました。そのため、産業界と学会との連携に関し、他の学会に対するよりは少々深い思い入れがあります。本学会には、理事会に助言・提言を行うための機関として評議員会がありますが、その一員を現在務めています。評議員として期待されている役割の一つ、「学会と社会をつなぐ」視点から、本学会の発展に関して日頃思っていることを書いてみました。

 私は、半世紀近くICT産業界で仕事を続けていますが、最近は実感として日本におけるICT産業の凋落を感じています。現象的には、ICT業界への学生の就職の不人気とか、日本からはほとんど新しい技術が出てこないとか、さらに、企業の学会離れなどがあげられます。
 実務に関わっている人間からみれば、学会は遠い存在です。
 私自身、ICT産業界で仕事をしていて学会に何を期待していたか、ということを個人的な経験から振り返ってみると、1980年代はじめ頃までは先進的な研究成果を知りたいという要求が強かったような気がします。しかし、それ以後、特にオープン化が進み始めてからは、学会に期待するものより各種の技術コンソーシアムに期待することが多くなってきたように思います。その頃は、新しい技術話題を得ることもありましたが、同じ課題意識を持つ人たちとの自由な交流に、より価値を感じていたように思います。現場で関心のあることと学会で得られるものがずれ始めたのではないかと思います。そして企業経営が芳しくない現在においては、企業は学会に対する賛助費用を経費節減の対象にしています。企業の学会離れです。
 企業は営利を目的とした組織であり、学会は、学問の研究成果を公開発表することを目的とした組織です。研究成果をいかにビジネスに生かすか、とか現場の課題をいかに研究課題にするかという関係性はありますが、なかなか企業と学会とのウィンウィン関係を形成するのは難しいと思います。
 一般的に言って、「学会」は、学問や研究の従事者らが、自己の研究成果を公開発表し、その科学的妥当性をオープンな場で検討論議する場であると考えられています。また同時に、研究成果の発表の場を提供する業務や、研究者同士の交流などの役目も果たす機関でもあります。そもそも中世ヨーロッパで当時の保守的な大学に反発した知識人が集まって情報交換を始めたのが学会を形成していくきっかけだといわれています。研究者という職業が確立している現在では、学会は、研究者のための組織になっており、学会に産業界が関心を持つのは、そこでの研究成果や鍛えられた人材が、産業の発展に寄与することが期待できる場合のように思われます。

 さて、本学会はその理念によれば、情報システムを、「社会、組織体または個人の活動を支える適切な情報を、収集し、加工し、伝達するための、人間活動を含む社会的な仕組みである」と捉えています。そして、「社会、組織体及び個人の対処すべき課題を解決するためには、情報システムの活用が不可欠であり、より安心して利用できる情報システムが望まれ」るとし、「情報社会が健全な発展を遂げるためには、情報システムを担う有為な人材を育成し、利用者にとって真に有用で信頼できる情報システムを構築し、活用していくことが必要である」という認識を示しています。その「認識のもとに、情報システムの概念的枠組み、学問としての方法論の体系、あるいは社会的な影響などを広範囲にわたって考察することを通して情報システム学を確立し、その成果を社会に発信していくことを学会の活動の理念として宣言しています。これを実現していくためには、様々な分野の研究者、実務家、経営者、利用者、一般市民及び行政といった人々の参加と、さらには相互間の連携を図っていく」必要があります。
 コンピュータを中心にした技術的なシステムを情報システムと狭く捉えるのではなく、人間活動を含む社会的なシステムである、という当学会の情報システムに対する認識は大切なことであり、当学会を特徴付けるものだと思います。当学会は、最初からその構成メンバに企業の参加を必要とするものとしてスタートしています。それだけ取り組むべき課題は、産学連携的、あるいは学際的な協力が必要なものになってきます。深化し続ける情報技術などの科学・工学的なものと、社会学的、人文学的、経済・経営学的あらゆる分野を融合する活動が必要になってきます。このような視点から情報システムに関心を持つ人々の相互研鑚の場として、情報システム学会が機能していくことが期待されます。

 これまでの当学会の研究会活動や、大会、シンポジュームなどを見てみるとそのような方向で着実に進んでいることを感じます。「情報システム学」という新しい学問領域を確立するという目的のもとに、多分野の人たちの交流の場であり、情報交換の場になりつつあると思います。しかし、産業界の巻き込みに関しては、まだ不十分で、このような研究交流には産業界も積極的に参加していくことが必要だという働きかけがほしいものです。
 この学会活動が着実に成果を生み出していくためには、何より学会が継続できていかなければなりません。学会は営利団体ではないので収入を増やすことが目的にはなりませんが、それでも目的とする活動成果を出すために必要な経費に見合う収入の確保は必要です。それを保証するのが会員の増加であり、安定した会員の確保です。会員を増やすには、学会の活動を賛同する人々を増やし、活動しやすくすることが欠かせません。新しい「情報システム学」を確立し、情報社会の健全な発展に寄与するというメッセージのもとに学会活動の成果をもっと広め、会員を募っていくことが、もっと必要ではないでしょうか。そのための学会の活動情報の公開の仕組みや、会員間のコミュニケーションの新しい場の提供などを具体的に検討していきたいものだと思っています。

 情報システム学会のさらなる発展を期して日頃思っていることを書いてみました。