情報システム学会 メールマガジン 2010.3.25 No.04-13 [9]

連載 著作権と情報システム 第12回

司法書士/駒澤大学 田沼 浩

1.著作物

[3] 文化庁案「著作権審議会第六小委員会(コンピュータ・ソフトウェア関係)
       中間報告」(5)

IV 保護の内容
 著作者の権利内容としては、著作権法によって定められた著作者の人格的な利益を保護する「著作者人格権」と財産的な利益を保護する「著作権」に分類できる。
 一 著作者人格権
 著作者人格権は民法上の人格権(人格的利益)を著作物として具体化されたものであり、著作権法第18条(公表権)、第19条(氏名表示権)、第20条(同一性保持権)に規定されている。法規定の具体的な効果としては、(1)権利侵害による損害発生前に、侵害予防ができること、(2)著作者人格権の要件が明確に定められているので、要件に反することを立証しやすいことである。また、著作者人格権はベルヌ条約でも規定されているが、万国著作権条約にはない。ベルヌ条約を締結している国もあれば、万国著作権条約にしか加入していない国もある。また、アメリカやイギリスのように著作権法に著作者人格権の規定はないが、アメリカ各州のコモンローのように著作者表示権や改変防止権、公表決定権、非公表決定権など一般的に人格権の保護が図られている場合や、イギリスのように名誉の侵害を不法行為法で救済される場合もある。

(1) 公表権
 公表権は、著作者が「その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利」(著作権法第18条第1項)であり、すなわち、公表するかどうか、いつ公表するか、どのような方法で公表するかを決定する権利である。しかし、プログラムに公表権を認める必要があるかどうかについて、中間報告では、プログラムについても公表権を認める必要があると結論付けている。一方、プログラムに個性がないことから、すべての著作者人格権になじまないという意見も紹介されている。もちろん著作者人格権は、個人・法人等を問わない。委託によって製作されたプログラムの公表権については、プログラムの著作権が譲渡されたとしても著作者人格権は一身専属権のため受託者に残ることになり、結果として受託者から公表権が主張されるのではないかという問題が生じる。ただし、この場合も、著作権法第18条第2項第1号により受託者から委託者に譲渡されたとき、公表権の同意が推定されることになるため、著作者人格権としての公表権を主張できないとされた。また、プログラムの受託者が委託者の意思に反して、受託者の公表権に基づき雑誌等にソフトウェアを公表した場合の問題については、受託者は委託者の財産権としての著作権の侵害として差止め請求及び損害賠償を請求されることになる。
(2)氏名表示権
 氏名表示権(著作権法第19条第1項)の立法趣旨は、「著作者と著作物の人格的不離一体性に着目し、その人格的利益を保護するために、著作者にその著作物の創作者であることを主張する権利を認める点にある」として、内容としては著作者の名前を表示するか表示しないかを決める権利であり、著作物に表示する場合でも著作者が実名で表示するか変名(周知された変名又は周知されない変名)で表示するかを決めることでもある。法人においても氏名表示権は法人著作であるかどうかを判断するときに必要なものである。ただし、中間報告では、フローチャートやコーディングシートに書かれた製作者名は、法人著作としてではなく、単なる責任の所在を示すものであることが大方の意見であるとしている。
 また、プログラムが委託によって製作される場合、著作者人格権である氏名表示権は受託者が有することになるが、モジュールなどプログラムの一部だけの製作を外部に委託している場合、プログラム全体は委託者にあると考えられるとしている。

引用・参照文献

・著作権法概説第13版、半田正夫著、法学書院、2007年
・著作権法、中山信弘著、有斐閣、2007年
・ソフトウェアの法的保護(新版)、中山信弘著、有斐閣、1992年
・岩波講座 現代の法10 情報と法、岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編、岩波書店、1997年
・標準パソコン用語辞典(2009〜2010年度版) 赤堀侃司監修 周和システム第一出版編集部 2009年