情報システム学会 メールマガジン 2009.11.25 No.04-09 [11]

連載 著作権と情報システム 第9回

司法書士/駒澤大学 田沼 浩

1.著作物

[3] 文化庁案「著作権審議会第六小委員会(コンピュータ・ソフトウェア関係)
       中間報告」(1)

 次に1984年(昭和59年)1月に発表された文化庁の著作権審議会第六小委員会の中間報告を検証する。
 1973年(昭和48年)6月の著作権審議会第二小委員会によるコンピュータ・ソフトウェアに関する報告書にて、コンピュータ・プログラムが学術の著作物であるという見解を示したが、10年近くが経過して、次のような問題点を指摘している。

 (1) パーソナル・コンピュータの普及、ソフトとハードの分離やパッケージソフトの流通量の増加によって、ソフトウェアの流通等の実態が変化している。
 (2) プログラムの無断複製等による紛争が多発し始めている。昭和57年12月6日東京地裁事件(スペース・インベーダー・パートII事件)などプログラムが学術の著作物で、ゲーム機のROMに入っていたオブジェクト・プログラムがソース・プログラムの複製物であると認定されている。
 (3) 1978年WIPO(世界知的所有機関)のパリ同盟からソフトウェアの保護についてのモデル規定が公開され、その後のWIPO国際事務局により「コンピュータ・ソフトウェアの法的保護に関する協定案」に基づき、1983年6月パリ同盟の第2回ソフトウェア法的保護専門委員会において、ソフトウェアの保護は著作権法によるという意見が多数を占めたが、国際協定の締結には時期尚早として、WIPOのベルヌ同盟(ベルヌ著作権条約)及びユネスコ(万国著作権条約)による検討を待つことになった。一方アメリカでは、1980年(昭和55年)12月著作権法を改正してプログラムを著作物として保護することになった。
 このような当時の内外の状況から、1983年(昭和58年)1月文化庁は、著作権審議会において著作権制度によるソフトウェア保護の議論を本格的に開始することを決め、著作権審議会に第六小委員会を設置して審議に入った。
 同年2月から約1年に渡り、著作権審議会第六小委員会はソフトウェア及びその法的保護の現状と、ソフトウェアの著作権制度による保護するため、著作権制度による保護とそれによる問題を報告書としてまとめた。これがこの中間報告である。

著作権審議会第六小委員会(コンピュータ・ソフトウェア関係)中間報告
第一章 コンピュータ・ソフトウェア及びその法的保護に関する現状
1 コンピュータ・ソフトウェアの製作、流通、利用の実態
「現行法制下におけるコンピュータ・ソフトウェアの保護の範囲と方法」
 一 著作権法による保護
 (1)保護の対象
 プログラムの著作権性については、著作権法第2条第1項第1号の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に含まれると昭和48年6月の著作権審議会第二小委員会の報告書で発表されていることと、昭和57年12月6日東京地方裁判所が「スペース・インベーダー・パートII事件」と昭和58年3月30日横浜地方裁判所が「スペース・インベーダー事件」でプログラムを著作物として判示していることによる。
 (2)保護の内容
 プログラムの著作者には次の権利が認められる。

 (1) 公表権(著作権法第18条)…著作者人格権
 (2) 氏名表示権(著作権法第19条)…著作者人格権
 (3) 同一性保持権(著作権法第20条)…著作者人格権
 (4) 複製権(著作権法第21条)…著作権
 (5) 翻案権(著作権法第27条)…著作権
 (6) 放送権、有料放送権(平成21年11月現在の公衆送信権と公衆伝達権、著作権法第23条)…著作権
 (7) 頒布権(著作権法第26条)…著作権

 (3)権利の発生
 著作権法第17条第2項による方式主義をとる。
 (4)保護期間
 著作権は、著作物の創作の時から始まり、著作者の死後(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者の死後)五十年を経過するまでの間、存続する(著作権法第51条)。また、法人などの団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、公表後五十年(その著作物がその創作後五十年以内に公表されなかったときは、その創作後五十年)を経過するまでの間、存続する(著作権法第53条)。
 著作者人格権は著作者の一身に専属し、それを譲渡することができないだけでなく、著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないとしている(著作権法第59〜60条)。
 (5)救済制度

ア あっせん制度
 文化庁長官が委嘱するあっせん委員による紛争処理ができる(著作権法第105条)。
イ 民事上の救済
 著作権または著作者人格権が侵害された場合は、不当利得返還請求(民法第703条)や不法行為による損害賠償請求(民法第710条)のほか、著作権法の差止請求(著作権法第112条)及び名誉回復等の措置の請求(著作権法第115条)することができる。
ウ 刑事上の救済
 著作権または著作者人格権が侵害された場合、懲役または罰金が科せられる。(著作権法第114条、法人については著作権法第124条)。親告罪(著作権法第123条)。

引用・参照文献

・著作権法概説第13版、半田正夫著、法学書院、2007年
・著作権法、中山信弘著、有斐閣、2007年
・ソフトウェアの法的保護(新版)、中山信弘著、有斐閣、1992年
・岩波講座 現代の法10 情報と法、岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編、岩波書店、1997年
・別冊ジュリスト 著作権判例百選 齋藤博、半田正夫編、有斐閣、2001年