情報システム学会 メールマガジン 2009.11.25 No.04-9[4]

第4回 「情報システムのあり方と人間活動」 研究会 開催概要記録

 開催日時 平成21年11月14日(土) 午後1時30分
場所   慶應義塾大学理工学部創想館2階 ディスカッションルーム7

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第1部 午後1時30分〜2時30分 質疑20分
題目 「協調的達成力を育む知的活動の場の構築」
     講演者  静岡大学 特任教授    市川 照久氏

【講演概要】
 個人の能力を持っていても集団の中で力を発揮できない人が増えている状況がある。この問題に対してグループ学習などの試みがされているが、集まるだけでは不十分である。三人寄れば文殊の知恵と言う諺があるが、グループでの知的活動が活発化することをめざして、力を合わせて何かを成し遂げる能力(以下、協調的達成力と呼ぶ)を育むための知的活動の場を考案し、その効果を検証した。集まるだけでは協調的能力向上にならない原因として、自律的な協調関係不足と継続的な取組不足と考え、その解決として自己決定的な協調活動を促す目標設定と活動成果を評価してフィードバックする場を継続的に構築することを提案し、この有効性を小学校、高等専門学校、大学、企業研究所の4箇所で実験し検証した。いずれもグループの知的活動が活性化され協調的達成力を育む場となり、教育環境においても勉学意欲が向上し発想の拡大につながった。研究環境において知的生産性の向上や受託研究増加につながることが確認された。
 小学校の場合に、算数の授業にグループ学習を取り入れ、国内(山形と山梨)、海外(ドイツ)との遠隔共同授業における成果発表の場を提供することで、競争心が高まり相互に刺激し合って発想が高まり協調的達成力が育まれた。
 高等専門学校において、情報工学の一環である知識工学の授業にプロジェクト管理機能を備えたグループ学習を取り入れ、成果発表およびWEBベースの質疑応答の場を提供した結果、活発な議論が生じ能動的な学習が強化され協調的達成力が育まれた。
 大学の大教室での講義に、事前・事後のグループ学習能力を取り入れ、公開授業における成果発表の場を提供した。グループ人数として4人が丁度良い人数と考えてグループを編成した。結果として活発な質疑応答が起こり、勉学意欲が高まり協調的達成力が育まれる場となった。
 企業研究所の日常における研究活動に、自部門の研究管理者が自ら設定したグループの評価指標による目標管理の場を提供した。その結果、グループの特許や論文が年々増加し、比例して受託研究も増加し協調的達成力向上となった。
 今後の課題として、目標の鮮度を保ち活動を継続すること、教育において教員の負荷低減のための支援ツールを整備すること、研究における他の研究機関への適用可能性を検討することが主要なポイントである。
 最近の取組として、「学び直しのプログラム(注)」にグループ学習を取り入れ成果が出ていると追加発表があった。
(注)学び直しのプログラム:実践的情報システム学 学び直しのプログラム
  対象人材:
   (1)IT業界在籍中で更に向上したい人    (1)キャリアアップを狙う
   (2)IT業界離職し再度、挑戦したい人    (2)IT技術として第一線
                          復帰を狙う
   (2)専門教育を受けたが就職経験の無い人   (2)同上
   (3)専門教育未修得者(例:フリーター等)  (3)IT技術者として送り出す
   上記人材を教育しIT業界へ斡旋し就職させるプログラムの総称

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第2部 午後3時〜4時 質疑 20分
     題目 「情報システムとリスク」
講演者 研究会主査    伊藤 重隆氏

【講演概要】
 情報システムについては、その重要性から重要インフラ分野について内閣官房主導のもとにセキュア・ジャパンが打ち出され、経済産業省から「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」が近年、公表されていて情報システムの信頼性に焦点が当たっている。
 一方、2007年から2009年までに実際に情報システムに生じた事故により長時間にわたり情報システムのサービスが停止しリスクが顕在化し社会的に大きな影響を与えている。事故の原因を分析すると、過去に情報システムに生じたと同様な原因が散見される。
 又、情報システムの進展により情報システムの提供するサービスが広範囲にわたるものがあり、情報システムへの入力データ相違が検出されず、結果として、市場関係者に損害を与えるという新しいタイプのリスクが発生している。さらには、情報システムの取り扱う取引量が膨大なものとなり、情報システムに保有するデータの一部変更に時間を要する事態が予想を越えてしまい、情報システムの運用自体に影響を与えたリスクも生じている。
 さらに、公共団体の情報システムの中に、当初の情報システムとしての機能がシステム保守・運用中に変更され、当初の情報システムとしての機能を果たせなくなるというリスクも発生している。情報システムについては、受注者の一括請負契約慣行の中で、大規模システムの中で要件不確定が多数ありながら、契約時の一括請負条件によりシステム構築中のリスクが多数、受注者に負わされる事例も発生している。情報システムについて、システム安定稼動状態から不安定状態となるリスク、運用中情報システムが当初構築した目的と異なってしまうリスク、情報システム構築過程でのリスクと分類して分析し対応をすべきであり、強力なガバナンスにより未然にリスク顕在化を防止する必要がある。リスク管理として情報システムの運用状況を実態に則してリスク評価に的確に反映する等、又、新しいタイプのリスク発生に応じて新しい観点を加えてリスク評価行い信頼性向上に努めるべきである。

以上