情報システム学会 メールマガジン 2009.8.25 No.04-05 [9]

連載 著作権と情報システム 第6回

司法書士/駒澤大学  田沼 浩

1.著作物

[2] 通産省案「ソフトウェア基盤整備のあり方について
      −ソフトウェアの法的保護の確立を目指して−」(4)

 そして、通産省(現、経済産業省)の産業構造審議会情報産業部会は、プログラムの特質や工業所有権的な観点から、既存の法律(特許法や著作権法)では十分に保護できないとして、新たな「プログラム権法(仮称)」を提唱している。

プログラム権法の骨子(案)
(1)法の目的
 プログラムの保護及び利用を図り、プログラムの開発、流通、利用を促進することにより、産業経済の発展に寄与すること。
著作権とは異なる「プログラムの保護及び利用」だけの独立した法として構成するものである。「プログラムの開発、流通、利用を促進」することで、コンピューター「産業経済の発展に寄与」させる産業育成的な一面も有するものとしている。

(2)保護客体
 プログラム(ソース・プログラム、オブシェクト・プログラム)を保護の対象とする。
 権利の客体たる保護対象を限定することで権利を明確にすることを狙ったものである。

(3)権利の内容
 (1)使用権を新たに創設する。
 使用権を新たに創設することは、プログラムが使用により経済的価値の発揮することを前提としている。
 (2)改変権(範囲を限定する)、複製権、貸与権を創設する。
 プログラムは既存プログラムをもとに作成されることが多いことから、改変権、複製権、貸与権を要するものとしている。
 (3)人格権に関する規定は設けない。
プログラムは社会における経済財としての役割を鑑みたとき、流通などを阻害する人格権を規定としておく必要はないと考えている。

(4)権利の発生
 権利は創設により発生する。(使用権については登録を権利発生要件とすることを検討)
 経済財としてのプログラムに多量の資金と人材が投入されていることが多いことから、登録という要式行為に基づいた権利発生を採用している。また、権利発生時期を明確にする必要があると判断したためでもある。

(5)権利期間
 15年程度を適当とする。しかし、国際的合意により短縮を図ることを前提に、米国等保護期間を考慮して、ある程度長い保護期間の制度を発足させることを検討する。
 プログラムに対する多額の資金と人材の投資を回収する意味では回収できる相当程度の期間を権利期間として保護する必要があるが、あまり短期間にし過ぎると外国の優れたプログラムが日本に入ってこなくなり、ソフトウェア産業の衰退を招く可能性もある。そのため、外国における状況を考慮して、権利期間を決定すべきこととしている。

(6)登録及び寄託
 (1)形式審査による登録制度を設立する。
 プログラムの流通・利用を考えた場合、時間やコストの関係から実質的審査を実施することは不可能に近い。よって形式審査による登録制度を採用することになったものと考えられる。
 (2)登録時にプログラムの寄託を受理し、非公開にて管理する。
 技術的思想自体を保護する特許法などの登録と同様に、プログラム自体を寄託することとしている。また、プログラムの中身(アイデアなど)さえ分かれば、多額の資金や労力をかけずに類似したプログラムを作成することができる可能性が高いため、非公開による管理としたものと考えられる。
 (3)登録されたプログラムはその機能の概要等を公表する。
 「登録されたプログラムはその機能の概要等」は、「プログラムの流通・利用の促進を図」り、それにより「重複投資の防止を図る」ことを目的にしたものである。本中間答申が発表された当時は、インターネットが国内で現在ほど普及していない、プログラムの流通・利用も少ない時代であることを考慮する必要がある。現在の状況を鑑みると、昨日の概要等を公表する必要があるかは疑問である。

引用・参照文献

・著作権法概説第13版、半田正夫著、法学書院、2007年
・著作権法、中山信弘著、有斐閣、2007年
・ソフトウェアの法的保護(新版)、中山信弘著、有斐閣、1992年
・岩波講座 現代の法10 情報と法、岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編、岩波書店、1997年