情報システム学会が進めている活動の中に、社会人による論文投稿があります。私事になりますが、1976年に大学院修士課程を修了してから30年ぶりとなります3年前、アラカン*を間近にして博士論文の作成に挑戦することとなりました。東京でのコンサルタントの仕事を続けながら、大阪府にあります大学院の博士課程に入学し、毎月新幹線での出張を続けながら、久しぶりの学生生活を体験致しました。諸先生の手厚い御指導のお陰で、今年の3月に3年間の学業を無事終了し、経済学博士号を取得することができました。
永らく学業や研究活動から遠ざかっていたため、今考えて見ますと大変な体験でしたが、小生の社会人としての論文作成挑戦の雑感を述べさせて頂きたいと思います。(*編集者注 アラカン:還暦前後のこと)
社会人にとっての論文作りは、忙しい日常生活の中で相当の時間を割いてでも論文を作りたいという動機付けが出来るかが、第一の関門になると思います。小生の場合、「いつかは博士を取りたい」という以前からの願望がありましたので、そのための必要条件としての論文作成への取り組みとなりました。しかし、学位取得のような明確な目標がない場合には、個人にとって論文作成が達成感や誇りにつながるような仕組みを作りませんと、なかなか時間を割いてでも挑戦しようという意識は芽生えてこないのではないかと考えます。
学士論文でも修士論文でも、論文のテーマ決めには苦労しましたが、博士論文のように査読に耐える論文では、日頃研究者の世界から離れている人間にとって、自分の興味ある領域の中からいかにして論文として取り上げる価値のあるテーマを見つけるかは、至難の技です。幸い小生の場合は、指導教官との打ち合わせの機会を十分取ることができましたので、一人で悩むことはありませんでしたが、一般の社会人が論文作りに挑戦するためには、この「テーマ決め」の部分をアドバイスできる方の存在が望まれるところです。
次の関門は、慣れていない学術論文の形式にそって、研究の内容を組み立てて記述することでした。学術論文の基本的な構成要素となります「研究の狙いと背景」「関連する研究論文の調査結果要約」「研究内容の意味付け」「研究内容の説明と実施結果の整理」「過去の研究との対比」「今後の方向性」などを、はじめから頭に入れて研究に取組みませんと、いざ論文を作成する段階で苦労する羽目になります。実際小生の場合でも、論文とりまとめる段になって関係論文を必死に集める結果となりました。社会人の論文投稿を推進する上で、論文構成のテンプレートや構成上の注意点などの情報を提供することは、有効ではないかと思います。
はじめて論文を投稿して面食らいましたのが、査読者からのコメントです。小生の場合でも、査読者のコメント内容はもっともなモノばかりでしたが、少ない時間を割いてやっと論文を書き上げたにも関わらず、大幅な内容追加を求めるようなコメントは負担感が大きく、論文への挑戦を頓挫させてしまう可能性が高いと思います。社会人を対象とした場合、投稿者の対応できる作業量を考慮したアドバイスが必要となってくると思います。
また、査読結果を回答するスピードも重要です。せっかく論文を投稿しても、査読結果の回答までにあまり長く時間が経ってしまいますと、社会人にとっては「研究内容を思い出す」ために時間が掛ってしまい、コメントへの対応の負担感を増す原因となります。社会人の「ビジネススピード」での査読実施が求められます。
以上、あくまでも個人的な感想と意見になりますが、仕事をしながらの論文作成挑戦について述べさせて頂きました。情報システム学会の今後の活動に、何かのご参考になりましたら光栄に存じます。