開催日時: 平成21年7月25日(土) 午後1時30分 〜
場所: 慶應義塾大学理工学部創想館2階 ディスカッションルーム3
第1部 午後1時30分〜2時30分 質疑20分
情報システムを考える上で情報の持つ意味を吟味する
情報システムは現在、一般的な語となっている.一般的な概念となっている例として、国立国会図書館が所蔵する、標題に「情報システム」の語がある和図書が1836件もあることからもわかる.(09年7月15日現在)
情報システムとは何かを定義する場合、分野、関係者、観点により異なるので、情報システムを普遍的に定義することは難しい.分野ごとの定義が必要である.
情報システムで意味するものとその特徴の記述レベルについて、種々な新しい理論や考え方を導入する広く考える立場と現実世界の状況を反映する狭く考える立場があるが.
広く考える立場には、空理空論、議論が収束しない、狭く考える立場は、発展性が無く、状況変化に対応出来ない恐れがある等の限界が指摘できる.
又、構築された情報システムへの疑問として、本当に利用されているか、効果的・効率的に活用されているか、構築・維持に要する費用に見合う便益があるのかの点が上げられる.この疑問は、情報システムに関る概念、対象、目的の多様性、不明確さ、データ処理システムとの混同、情報に関する意識や情報の捉え方が多様であることに起因する.
当学会webページの「情報システム」定義を参照すると、「情報」が重要な語となっていて情報システムの理解には、情報の本質を追究することが必要である.
情報と何か、データ、知識、知恵との違いが何かがテーマとなる.(今回の講演では、知恵の議論は除く)この関連の英文例文として、 Where is the wisdom we have lost in knowledge, where is the knowledge we have lost in information? (T. S. Eliot 1947) が参考となる。その延長として、Where is the information we have lost in data? (講演者) に留意する必要がある。
情報システムでの情報は、データ(事実・現象)、知識と密接な関係を持つのでデータ、知識をどう捉えるかがポイントである.
情報の定義については、広辞苑第四版、生命体を意識した西垣通説、評価されたデータとするMcDonough説、何かを知らされた時に知識が変化する立場のBuckland説、知識が情報を得て増加するとのBrookes説、受け手のイメージ構造を変化させるメッセージ(の構造)とするBelkin説と各種あり、情報としてどこまで考えるかによる.
情報システムを意識した、情報の定義と特徴をまとめると、客観的な実在で無く主観的で受け手志向、意思決定に影響を与えるために使用される、特定の状況下で評価されたデータ、問題直面時、問題解決に役立つ、入手した刺激からの意味抽出、情報となり得るデータ・文献・資料・意見等、それを読み取るシステム(受け手)の状態を変化させるデータと言える.
情報と知識の違いについても良く意識する必要がある。情報は、バラバラで断片的、一時的、メッセージの流れであり、知識は構造的、永続的、蓄積物で、情報入手により知識は変化し知識が情報入手に影響を与えることもある.
情報システムは分野により異なり構築・改変時に、データ項目選定・項目間の関係付け・データ表現を適確に行うことが重要で、情報の本質理解には、意思決定に役立つか、効果・効用の面から取巻く環境を把握すること、又、「情報に対する意識」を強く持つことが大切である.
(追)情報システム人材の育成について、講演者よりコメントがありました.
教える側の自己満足でなく、受講者(学生、社会人、年代の別)により教育方法を変更する必要がある.教育現場での情報の例として「夕焼け」を使用する場合、若い学生の場合は、世代が異なるので意味することを理解できず(明日は、晴れを期待しても無駄)不適切な例となるので、留意が必要。
第2部 午後3時〜4時 質疑 20分
IT人材のモチベーションの現状と課題及びIT部門出身者の博士論文挑戦
並びにIT部門に求められる人材像について
第1部としてIT人材のモチベーションの現状と課題について
「情報処理推進機構IT人材白書2009」から考察を行った。IT人材の就業満足度向上は企業によって重要な課題と指摘されている.半数以上の企業がIT人材の就業満足度向上に取り組んでいる.
学生が考える仕事の条件とITの仕事のギャップは、例えば、1番目にランクされる「上司・先輩や同僚と楽しく働ける」項目は、学生48.3%の期待度、実際14%と大きなギャップが見られる.ITの仕事に対して学生の持つイメージは厳しい、情報系以外の学生にとってITの仕事についてのやりがい度は並、IT企業では希望する仕事との合致度が高い、一方、IT(ソフトウェア)関連は全産業中で最も低い満足度、全産業中で最も低い仕事へのやりがいと指摘されている.IT人材のモラール低下原因への対応として、ITの仕事に誇りとやりがいを感じさせるための取組みが必要と考える.
第2部としてIT部門出身者の博士論文挑戦について
講演者自身のITの各種角度からの経験が役に立ち遺伝的アルゴリズム適用により最適SCM(Supply Chain Management)計画を実現できた.従来は、整数計画法で取り組むことが多かったがSCM計画に対して、グローバル化、全体最適が求められており、今回GA(Genetic Algorithm)を用い高速に問題解決し制約条件の多い組み合わせ物流問題への適用が可能、又、GA改善についても「典型的な問題」に拘わらずに、より現実的な問題をテーマにすることで発展が考えられる.今回の研究を通し多角的な視点でITの仕事に関わった経験から言えることは、
1.業務担当も局所最適化の視点から抜け出しておらず、ユーザニーズを鵜呑みにしてIT化しても、真の効果には繋がりにくい
2.事業に取って真に役に立つ解決方法を考えるためには、全社的な視点からの「あるべき姿作り」をアドバイス出来る知識と能力が必要となる
3.従来の枠組みを超えた業務改革を進める上では、「ITでどこまで出来るか」と「業務改革が真に求めるものは何か」を合わせて把握して提言できるIT人材が必要であり、ITの仕事の範囲と内容にもCHANGEが必要である.
第3部としてIT部門に求められる人材像について
高度成長の時代には、情報システム導入目的の多くは事務効率化・省力化であり説明が明快であった.現在は、環境が大きく変わり多目的かつ業務成果に直接貢献することが求められていて、従来の路線では、情報システムは評価されない.
情報システム部門には従来と異なる業務改革を牽引する等の役割・責務が期待される時代と考える.現在の情報システム部門に期待される能力は、
と考えられ理想の情報システム部員像として、「経営者としての知識とセンス、高いモラール」が求められていると考えたいが現実的には情報システム部門は3Kと言われている.
このギャップをうめるには、社員の「仕事にやりがいが感じられない」、「なぜ、今の目標になっているかわからない」の気持ちを受け止め、仕事のやりがいについて、「お客様に喜んで貰った時、お客様の笑顔が見えた時」が大事な要因であるとの認識から下記の様なIT担当者のやりがいを形成することが大事である.