情報システム学会 メールマガジン 2009.7.25 No.04-04 [8]

連載 著作権と情報システム 第5回

司法書士/駒澤大学  田沼 浩

1.著作物

[2] 通産省案「ソフトウェア基盤整備のあり方について
     −ソフトウェアの法的保護の確立を目指して−」(3)

 通産省(現、経済産業省)の産業構造審議会情報産業部会が、ソフトウェアの保護制度の確立のために満足させるべき要件として掲げられた事項(つづき)

(9)登録・公示制度・・・プログラムの登録・公示
 プログラムの登録・公示制度は、その権利侵害を未然に防ぎ、権利を証明することで紛争を迅速に解決するために有効な手段である。プログラムの機能概要等を登録することによって、プログラムの流通・利用の促進を図り、重複投資の防止につながる。また、使用権については、新たに創設する権利であるため、その権利の及ぶ範囲も広いことから、登録を権利発生用件とすることを考えるべきとしている。

(10)ユーザー保護・・・プログラム取引の指針、特別寄託制度
 プログラム開発者の保護の視点だけでなく、プログラムを利用するユーザーの利益についても配慮すべきとしている。具体的な方法として、プログラムの内容・機能・使用条件等の表示を行わせるなどの一定義務を課すことが必要としている。

(11)標準化・・・基礎プログラムの一定標準化
 プログラム開発において、重複投資を回避してプログラムの利用の効率化を図るため、基礎となるプログラムについて一定の標準化(規格化)を図ることを必要としている。

(12)裁定制度
「プログラムに係る権利保護については、工業所有権的な観点に立って図られるべき」として、「一定の条件を満たすことを前提に」、「適正な対価のもとで、」利用許諾を認められるべきであるとしている。本中間報告では、プログラムに関する権利についても既存の特許法、実用新案法、意匠法や著作権に準じた制度として「裁定制度と同様に(1)既存プログラム又は特許発明等を利用してプログラムを作成する場合、(2)公共の利益のために必要な場合、(3)プログラムの不実施の場合、等において、裁定による使用・複製等の許諾制度を設ける必要がある」としている。

(13)紛争処理
 プログラムは製品としての価値を保てる期間が相対的に短く、高度な専門知識を集約したものであるが故に秘密性を保たれることが求められる。紛争が起こった場合、早期の解決を要するものとして、「あっせん、調停、仲裁、判定といった簡易迅速かつ公正な紛争処理手続きを設けることが必要」とされた。

(14)プログラム審査員
 プログラムに関する裁判などにおける鑑定人などを確保するため、「プログラムに関する最先端の技術的知識を有する法律の専門家及び法律的知識を有する技術者等」をプログラム審査員として事前に任命しておくことが必要であるとしている。

 次に既存法制における保護の問題点として、次の事項を掲げている。

(1)著作権法によるプログラム保護の主要な問題点

 (1)「プログラムは広く経済活動、企業活動に利用される経済財」であり、小説や映画など(当時の)著作権法で保護されているコンテンツとは異なるもので、(当時の)著作権法は「文化の発展」を目的としているのに対し、プログラムの保護は「産業経済の発展」を目的としている。
 (2)「プログラムは使用してはじめて価値が発揮される」ものだが、著作権法には使用という概念はないので、著作権法で保護するには不十分である。
 (3)「著作権法の翻案権」は適用される範囲も広く、不明瞭な権利でもあることから、これをこのままプログラムに適用すると、その開発や流通を阻害する要因となる。
 (4)「著作権法上著作者人格権」は、経済財たるプログラムには不適であり、必要としない。
 (5)特許権のような「裁定制度、ユーザー保護、紛争処理(調停、仲裁、判定制度)」の規定を著作権法に求めることは難しい。

(2)特許法によるプログラム保護の主要な問題点

 (1)プログラムには科学技術的な「自然法則を利用した技術的思想(発明)」としてのプログラムもある一方、「論理法則や人文科学、社会科学に関する法則を基礎にして作成された」プログラムが存在する。よって、すべてのプログラムを特許法で保護することは難しい。
 (2) 発明の奨励をもって産業の発達に寄与することを目的としていることから特許法には特許権を取得する代わりに、発明内容の完全な公開を義務化(第64条ほか)している。ところが、プログラムの完全公開(ソースプログラムの公開)したのでは、権利者が不利となりかねず、特許権を取得する意味がないこともある。
 (3)特許の要件として「新規性」「進歩性」などを満たす必要があるが、プログラムは作成に膨大な時間を要するにも関わらず、大きな進歩性を確保するものは極めて少ない。よって、特許法による審査段階で大半のものが拒絶される可能性がある。
 (4)プログラムのライフサイクルは1年〜2年程度と考えられることから、特許審査により権利を取得したころは陳腐化する可能性も高く、特許法では十分な保護が期待できないこともある。

(3)契約法によるプログラム保護の問題点

 (1)契約によってソフトウェア契約当事者間の権利保護はできるが、第三者の権利侵害の保護は十分とはならない。
 (2)不特定に販売される汎用プログラムにおいて、契約だけでは保護できない。

引用・参照文献