情報システム学会 メールマガジン 2009.5.25 No.04-02

大学教育最前線:第18回
新しい大学への挑戦-甲南大マネジメント創造学部の取り組み

甲南大 マネジメント創造学部 准教授 井上明

 甲南大学は、2009年4月に「マネジメント創造学部(愛称CUBE)」を開設しました。CUBEは、経済と経営を中心とした学びで、「自ら学び、共に学ぶ力」「自ら考え行動する力」を養うことを教育方針とした新学部です。経済、経営を学ぶと同時に、特別留学コースの学生は原則1年間アメリカに留学するなど、英語教育にも力をいれています。今回は、CUBEの特色であるPBLを中心に学部紹介をしたいと思います。

学部定員180名(マネジメントコース145名、特別留学コース35名)
専任教員15名(初年度)
2学期制(准クォーター制:前期を1Quarte,2Quarte。後期を3Quarte,4Quarteに分ける)
場所:兵庫県西宮市高松町8-33 (阪急西宮北口駅徒歩3分)
校舎:9階建て
URL http://www.konan-u.ac.jp/cube

PBLを中心としたカリキュラム

 CUBEでは、自ら学び、物事をやり抜く力を実践できる学生を育てるために、プロジェクト型学習(PBL)を、学部教育の中心に位置付けています。

 PBLのスタートとして、1年生は「基礎リテラシー」という科目を受講します(必修科目。2Q〜4Q)。

 この科目では、学生を4グループ(1グループ約50名)に分け、1グループを3名の教員が担当します。大教室ではなく、グループ用小教室にて授業を行います。

 この科目では、プロジェクト型の学習方法を理解し、それを進めていくために必要となる基礎的スキルを涵養します。

 入学後すぐの段階で、「自ら学び、共に学ぶ」、「自ら考え行動する」という「PBLでの学び」を理解させます。これまでは、3・4年生でPBLを実施していた大学が多かったかと思います。CUBEではPBLを1年生から実施することで、「これまで学んだことを実践する」というPBLではなく、「学ぶための動機付け」「自分にどのような知識が足りないか」を学生自身に考えさせることを目指しています

 授業の具体的内容ですが、2Qから4Qまでの23回の授業を、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3に分け、それぞれのフェーズでの学びのストーリーを決めています。フェーズ1では、与えられたテーマに対し課題解決ストーリーを作りプレゼンを行う、フェーズ2では、自らテーマを見つけ調べ、考え、発表する、フェーズ3では、全クラス統一テーマのもとクラス対抗プレゼンをおこなう、といった内容です。

 ここで重要なことは、授業内容の統一化です。3人の教員が一つのクラスを担当する、さらにクラスが4クラスある。しかも教員の専門は経済・経営からITや語学などさまざまです。そこでCUBEでは、骨格となる学習ポイントのみ共通化し、肉付けは教員やグループの特色を出すようにしました。具体的には、「調べる」、「考える」、「発表する」、「質問する」、そして「議論する」といった学習ポイントを共通テーマとし、クラスごとに学生へ提示する課題は様々な話題に基づくものになります。

 例えば「新しいゲームソフトを企画する」といった話題を設定し、そこからPBLがスタートするグループもあります。各グループでのテーマや学習項目については、教授会にて全てのグループの授業案を持ち寄り、良い点をお互いに参考すると同時に、改善点を指摘します。このように、教員間の意識統一、共同作業が非常にうまく動いているのも本学部の特徴です。

 2年次以降では、実際に企業などと連携を行うなど、より高度なテーマ、実践的な内容の実践体験型PBL科目を複数設置しています。さらに、英語や数学などの科目でも、PBLの学習の特徴である「自ら考える」を実践させる授業となっています。たとえば数学では「数学的論理思考」という科目名で、文字変数を使ってのパズルを解く、確率モデルが社会の中でどのように利用されているかをなどを理解する、などを学びます。また、PBLに必要な専門知識やスキルは、ワークショップという科目群で学びます。

 PBLを成功させるのは、学生に対し「はい、このテーマであとは自分たちで考えなさい」ではうまくいきません。これでは単なる放任になってしまいます。4年間のカリキュラムの中で、PBLと他の科目との連携と綿密な授業設計のもと、「このPBLでは何を学ばせたいか」を明確にすることが重要です。また、教員個人に負担をかけるのではなく、PBLの在り方をコーディネートする組織や人材が必要です。

PBLを支える教育環境

 このようにCUBEではPBLが学部教育全体の学習スタイルとなっています。PBLを効果的に実施するために、教育環境にも工夫をしました。

1.ネットブック必携

 学生全員にネットブック(低価格ノートPC)を購入させました。大学推奨機(HP2140 CUBE独自モデル)または、自分で購入(スペック指定)のどちらかを選択です。Officeソフトは、大学側で学生全員分のライセンスを用意し、学生側の負担が軽くなるように配慮しました。

 大学入学後の1・2週目に計5回に分けてネットブック講習会を開催しました。PC初期セットアップ、無線LANへの接続、ウィルスチェックソフトのインストール、印刷設定などです。

 当初は学生もノートパソコンの使い方に戸惑っていたようですが、今では、授業や課題などにパソコンを利用することが当たり前になり、学内ではいたるところでパソコンを使っている学生の姿を見ることができます。

2.学部専用SNS

 学部専用のSNSを運用しています。学部学生・教職員全員がSNSを利用可能です。学生はSNS上で様々な活動をおこなっています。例えば、「フェアトレードで学部の制服を作ってみたい」「学部見学者への案内をやりたい」「パソコンの資格を勉強したい」などです。学生たちはSNS上でメンバーを募集し、各種活動をスタートしています。SNSの4月の1日平均のアクセス数が4000ページビューを超え、我々の予想をはるかに上回る利用状況となっています。授業とは全く異なる自主的な学びの場が生まれたことは大きな喜びです。

3.無線プレゼンテーションシステム

 グループワークなどでパソコン画面をプロジェクターへ投射する機会が多いので、ワイヤレスでPC画面をプロジェクターへ投射できるシステムを導入しました(商品名Wivia)。学内すべてのプロジェクターへは、PCからケーブルレスで投影可能です。また、投影画面を最大4分割できるので、複数学生の画面を並べながら講評することができるなどグループワークに非常に役立っています。

4.PBLに適した教室

 校舎内の教室は最大50名程度の小教室です。大教室は1教室だけです。「IT教室」の2室(30名、18名)では、机・イスをレイアウトフリーとし、講義形式・グループワーク形式など授業に合わせてレイアウトを変更できます。壁は全面ホワイトボードで、プロジェクターから投影した画面に手書の書き込みができるようになっています。全ての教室にはAV卓が無く、PDAやパソコンから教室の照明On/Off、プロジェクターの投射切り替え、ブラインド開閉が可能となっており、教員が教室のどこにいても授業を中断することなくAV操作が可能です(日本初)。

最新のIT環境

 情報系の授業だけでなく、学生生活全体を通じて最先端のIT環境に触れ、使いこなす。その中からITの意義や活用を学ぶ。そのための最先端IT環境を構築しました。

1.ケータイ・ICカードを使った統合認証システム「Mobile CUBE」

 「Mobile CUBE(モバイルキューブ:略称モバキュー)」とは、FelicaケータイまたはIC学生証を利用した、統合認証システムです。教室パソコンへのログイン、プリンタ印刷、部屋の入退出、IC個人ロッカーの開閉、などをケータイまたはIC学生証をかざすだけで利用できます。学生は入学後すぐに、ケータイかIC学生証のどちらかをパソコン教室にて登録します。登録後、学生のユーザIDとIC番号が各種システムへ自動登録されます。カードの紛失・ケータイ買換時の対応も数分で可能です。約7割程度の学生がケータイを登録しています。

2.全館検疫・認証無線LAN

 館内はどこでも無線LANが利用できます。セキュリティを確保するために、ウィルスチェックソフトの有無、パターンファイルの更新状況、WindowsUpdateの更新状況をチェックします。セキュリティ要件を満たしていないパソコンは、学内LANへ接続できません。また、Webブラウザから学内ID、パスワードで認証を行います。

3.ケータイを使った出席システム

 ケータイを使って出席登録を行っています。教室へICリーダーを設置する方式ではなく、学生がケータイから甲南大学内ポータルサイトへログインし、受講科目を選択することで出席登録が可能です。出席状況は、教員側ポータル画面でリアルタイムに確認できます。

 このようにCUBEはまだ開学したばかりですが、学習方法、カリキュラム、設備で新しいスタイルの学部を展開しています。特にPBLを中心とした教育とそれを支える学習環境の効果について、これから検証していきたいと考えています。4年後、どのような学生が育つか楽しみです。