スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」の中で、一番好きな習慣は、第七の習慣「刃を研ぐ」の章です。
森の中で、必死になって木を切り倒そうとしているキコリがいる。もう5時間もかかりきりで、へとへとだ。見かねて、
「ちょっと休んで、刃を研いだらいかが?」と問うと、忙しくてそんな暇はないんでね」という答え。どっかおかしい。いえ、とってもおかしい。
でも、日常の業務やプロジェクトに目を転じてみると、こんな光景はどこにでもある、と思えてきます。以前、忙しくないとやりがいを感じられない一方、その忙しさゆえに消耗してしまうことを称して、「修羅場快感症候群」という言葉を聞いたことがあります。そして、多くのプロジェクトにおいては、ピークを迎えると多少なりとも修羅場快感的な様相があると思います。
そこで、今回は修羅場快感症候群を回避するための、SEにとってのタイムマネジメントのあり方について少し考えてみたいと思います。
タイムマネジメントを考えるにあたって、優先順位をつけることの大切さについて有名な逸話があります。
当時世界最大の鉄鋼会社であったUSスティールの社長チャールズ・シュワブのもとに、アイビー・リーという一人の若い経営コンサルタントが訪ねてきました。何度、面会を申し込んでも、忙しいことを理由に断られました。そこで、アイビー・リーは1枚のメモをシュワブの秘書を通じて渡しました。その数ヵ月後、シュワブからそのアイビー・リーに対して、2万5千ドル(・・いまなら数千万円以上でしょうか)の小切手が送られてきたといいます。
ところで、このメモには何が書かれていたのか?
このとおり実行したチャールズ・シュワブは忙しさから開放されるとともに、業績が向上した、というお話です。
極めてシンプル、それでいてパワフルなアドバイスです。新人の頃に聞いたはずなのに、忙しさからも開放されず、業績も極めてよくはなっていない・・自身を振り返ると、ちょっと恥じらいながらも、このアドバイスは現在でも有効だ、と思います。
そうすると、次は、優先順位のつけ方になります。
「7つの習慣」の中の第三の習慣は、「重要事項を優先する 自己管理の原則」です。
重要事項の整理にあたって、緊急度と重要度の2つの指標を採った、「時間管理のマトリックス」を考えます。
第一領域 緊急かつ重要
第二領域 緊急でない、かつ重要
第三領域 緊急かつ重要でない
第四領域 緊急でない、かつ重要でない
そして、どの領域に注力するかによって、どのようなことが起こるかを示します。
「第二領域に集中することは、効果的な自己管理の目的である。第二領域は緊急ではないが、重要な事柄を取り上げているからである。人間関係づくり、ミッション・ステートメントを書くこと、長期的な計画、運動、予防保全、準備などは、すべてこの領域に入っている。誰もがこうした活動の大切さを理解しているはずである。しかし、それらは緊急ではないから、いつまで経ってもなかなか手がつけられないのである。
ピーター・ドラッカーの言葉でまとめれば、「大きな成果を出す人は、問題に集中しているのではなく、機会に集中している」ということである。彼らは機会に時間という餌を与え、問題を餓死させようとするのだ。つまり、彼らは予防的に物事を考えるのである。この人たちの生活にも、第一領域の問題が、もちろん発生することがある。しかし、その数は非常に少ない。なぜなら、彼らは波及効果の大きい、自分の能力を向上させる第二領域の活動に集中することで、生活のP/PC(Performance/Performance Capability)バランスを維持するようにしているからだ」
この説明を読むたびに、第二領域中心主義の生き方で行きたい、と思います。
それでは、SEにとっての第二領域とは何でしょうか?
それを考えるにあたってSEに期待されることを振り返るため、SWEBOKをみるとこう書かれています。
ソフトウェアエンジニアに必要とされる知識領域には、「ソフトウェア要求」「ソフトウェア設計」「ソフトウェア構築」「ソフトウェアテスティング」「ソフトウェア保守」「ソフトウェア構成管理」「ソフトウェアエンジニアリング・マネジメント」「ソフトウェアエンジニアリングプロセス」「ソフトウェアエンジニアリングのためのツールおよび手法」「ソフトウェア品質」の10にわたります。そしてさらに、これらの知識領域との境界を確立する上で、「コンピュータエンジニアリング」「コンピュータサイエンス」「マネジメント」「数学」「プロジェクトマネジメント」「品質マネジメント」「ソフトウェア・エルゴノミクス」「システムエンジニアリング」の8つの関連ディシプリンを示しています。
どの知識領域もディシプリンも、非常に広汎で極めて深い。またどの領域も発展途上であり、どれだけやっても極めつくせません。
このように期待されているSEへの要求を踏まえて、思いつくままに、SEにとっての第二領域の活動を挙げてみます。
ex.ERD、DFD、UML、マンマシン業務フロー、システム構成図・・
上記のソフトウェアエンジニアリングの成果の修得・取込み
足元の担当プロジェクトにおける活動だけでも、以上のようなことが数え上げられます。
こうして列挙してみると、新しい技術や知識を習得することとともに、「暗黙知」を「形式知」にする努力が主体であると、再認識します。
「・・刃を研ぐことは、第二領域(重要ではあるが緊急ではない)の活動であり、第二領域は、自ら率先して行なわない限りは実行できない領域である。第一領域は、緊急であるがためにあなたに働きかけて、切羽詰まった状態をつくり出す。しかし、個人的なPC(Performance Capability)は、自然にできるようになるまで、つまりある意味で「健康的な中毒症状」を起こすまで、自ら働きかけなければならない。そして、それは自分の影響の輪の中心にあり、ほかの人に代わってもらうことはできず、自分のために、自分自身で行わなければならないものである。
これこそが、人生で唯一最大の結果を生み出す投資なのである。つまり、自分自身に投資することだ。つまるところ、人生に立ち向かうために・・」
第二領域を中心としたタスクの優先順位をつけ、「健康的な中毒症状」となるまで、つまり習慣になるまで、腰を落ち着けて取り組む。その投資した時間への見返りは十二分にあると思っています。