情報システム学会 メールマガジン 2008.6.25 No.03-3 [1]

理事が語る

伊藤 重隆

 今回、理事となりました「みずほ」情報総研の伊藤です。「情報システムのあり方を考える」会の主査もしております。とりとめのない話となるかも知れませんが、ご容赦を頂きたいと考えます。
 情報システム学会とは、その前身ともいえるHIS研究会に参加したことから縁がありました。HIS研究会では、「金融機関の情報システム」についてご紹介したことがあります。その頃、金融機関は不良債権の重圧から脱却すべく努力していた時期でした。私は金融機関の情報システム開発に長く携わっておりました。学生時代を振り返りますとコンピュータ科学を専攻にしましたが、会計、経営、経済も学んだお陰で、会社に入りユーザ部門と話すときに相手の業務理解に役立ったと思います。入社後、1年で第2次オンラインシステム開発に参加しましたが、メインフレームのメーカーを変更することが如何に大変であるかを身をもって体験しました。当時の最先端のメインフレームは主記憶が4MBであり、それで全国オンライン業務を行っていたことは、今振り返ると驚異的なことであったと思います。

 第2次オンラインシステム開発時、システム開発のためユーザ部門業務を逐一調査してシステム化した記憶があります。また、その当時はユーザ部門には実務の大家がいたと記憶しています。会社の国際事業拡大のため米国でシステム開発した経験の中からお話します。システム・プロジェクト計画についてはユーザが主体的に作成する、システム移行計画と移行データ確認はユーザが行うのを原則としていました。やはり米国は、プロジェクト責任が明確で情報システムの成否が会社の業績につながっていると感じました。また、情報システムに対する考え方は、経済合理性を優先し無理して複雑なリアルタイム処理をすることはせずバッチ処理も利用しソフトウェアパッケージが多用されていました。
一方、戦略的に重要な24時間ATMサービスは、自前開発で当時から提供されていました。滞米中に、ブラックマンデーによる株価の大暴落と当時のニューヨーク銀行がシステム障害により証券決済機能が日中停止し連邦銀行の資金決済に重大な支障を生じたことも現地で経験しました。

 話題を変えますが、日本のIT産業について色々な機会に議論されることがあります。米国での経験から言えることは、日本のIT会社はユーザ業務に精通しソリューション提供することが一層重要になると考えます。現実に米国では、情報システム開発・保守、運用に加え事務処理まで含んだアウトソーシングが大規模に行われています。会社の事業部門機能をアウトソーシングする考え方がその代表です。但し、一部の会社は、行き過ぎたアウトソーシングで競争力が弱まったとの話もありますが。日本のIT会社は、ユーザの仕様に従い情報システム開発を受託するばかりでなく、ユーザ業務に精通しWEB等を利用したビジネスモデル改革のソリューションを提供し、グローバルな視点のソリューションも提供する組織へ進化する必要があると考えます。この点については、議論があると思いますのでご意見を頂きたいと考えます。日本の国際競争力ランキング(IMD調査)2007年版で、24位と言う結果が出ています。効率性が悪いことが24位となった主要因と言われている模様です。米国の様にIT活用による効率向上を高齢化社会である日本は、各種分野で更に進める必要があると考え日本のIT会社の方向について上述した次第です。

 効率化の推進力として「情報リテラシー」の社会的な浸透が、ひとつの力になると期待しています。但し、「情報リテラシー」を正確に理解し学ぶことが重要です。米国の高等教育で使用されている定義によると、「情報がいつ必要されるかを認識する」、「情報を入手し評価し効果的に利用する」能力のことであり、コンピュータ・リテラシーとは異なると明確に述べています。コンピュータ自身とその操作は、技術の進展により変化するものです。目先の変化に惑わされずに「人間活動を良く理解し」本質的に「情報システム」を考えることが大切であると改めて感じています。実務家の目から、情報システム学について研究し貢献できればと考えております。やはり、とりとめのない話になってしまいました。今後共、よろしくお願い致します。