ITは企業,政府,教育機関,病院など様々な組織を支える基本的なインフラの一つであり,ITを活用してユビキタス社会を実現するための技術も多数提案されています。しかし,その一方で,IT社会を支えるべき人材の不足やそれに起因する問題が各方面から指摘されています。
筆者の勤務する佐賀大学では,これらの問題を早くから認識して教育の質的保証に取り組んでおり,2003年度には国内の大学で2番目にJABEEによる認定(情報および情報関連分野)を取得しました。
http://www.cs.is.saga-u.ac.jp/JABEE/
大学等の高等教育機関に対するJABEE認定は,企業等に対するISO 9001(品質保証システム)取得に対応します。すなわち,卒業生が達成すべき目標(知識および能力)を大学が宣言し,それを達成するためのカリキュラムやシラバス等を整備して教育します。その結果を踏まえて必要な改善を施す,いわゆるPDCAサイクルを機能させることを通じて教育の質的保証を達成すると同時に,教育システムの継続的改善を実現しようとするものです。
佐賀大学 知能情報システム学科が掲げている目標を以下に示します。
(A) 情報システムの社会的意義と技術者倫理に関する知識
(B) 情報システムの原理・構造・設計・実装に関する知識と応用能力
(C) コンピュータサイエンスに関する知識と応用能力
(D) 数学や自然科学に関する知識と応用能力
(E) 文書作成・プレゼンテーション等のコミュニケーション能力
(F) 問題解決のための情報収集,計画立案,計画推進等の能力
大学が掲げる目標は単なる努力目標であって,建前に過ぎないと解釈されるケースも多く見られますが,JABEE認定プログラムの場合には,講義資料や答案等の確認や教員・学生等へのインタビューを含む厳しい外部審査を通じて,掲げられた目標が実際に達成されていることが保証されています。
また,JABEE認定プログラムの修了者には,技術士の一次試験が免除されます。JABEE情報分野では2006年度までに28のプログラムが認定されており,毎年1000名以上の認定プログラム修了者が大学を卒業しています。
今年の7月1日から実施されている「情報システムに関する政府調達の基本指針」では,情報システム調達における多くの工程において,情報工学部門の技術士資格が推奨されることになりました。これを受けて,技術士(情報工学)やJABEE認定プログラム(情報分野)の価値が高まることが期待されます。
日本後経団連が今年1月に出した御手洗ビジョンでは,「高度ICT人材を5年に1500人/年,10年後に3000人/年育成する」といった目標が掲げられています。この目標は,JABEE情報分野の修了生に対して技術士(情報工学)のIPDおよびCPDを施せば達成可能なものになります。
筆者はJABEE認定プログラムや技術士資格だけを重視するつもりはありません。しかし,情報専門教育を受けた学生が,しっかりした継続教育を受け,しかるべき能力を持たせた上で,その能力にふさわしい処遇を期待できるようにキャリアパスを構築する必要があると考えています。
そのためには,産業界,大学,学会も含め,産学官の協力が不可欠です。今年4月に情報処理学会で「高度IT人材育成フォーラム」を立ち上げました。これも,そのためのきっかけを作るのが大きな目的です。本フォーラムには情報システム学会の会員の方も無料でご参加頂けます。10月24日には情報システム学会の協賛も頂いて東京でイベントも開催しますので,IT人材問題に関心をお持ちの方と議論できれば幸いです。