情報システム学会 メールマガジン 2006.11.25 No.01-03 [2]

理事が語る  「学会の発展を期して」

ISSJ理事   上野南海雄

 昨年より学会のお手伝いをしておりますOGIS総研の上野です。私は1969年大阪ガスに入社して以来、一貫して情報システムに関わってまいりました。会社の多角化経営の一環として、23年前(1983年)に、システム部門が分離独立し、情報システムサービス会社の一員として、親会社以外の企業のシステム企画、設計、開発、運用などにも関わってきました。しかし、実践の経験は長いものの、情報システム(IS)、ソフトウェアエンジニアリング(SE)などについて、学問的に勉強したことはありませんでした。会員皆様のお力添えをいただき、当学会の発展を願って会員の一人として運営に尽くしたいと思っています。

 当学会は、情報社会の健全な発展に寄与することを願って、昨年4月に発足した若い学会です。私は、恥ずかしながら会員になるまでは、情報システムとは「人間活動を含む社会システム」という認識ではなく、企業競争力強化、業務の合理化、企業のビジネスプロセスの改革、改善などの強力な実現手段としての「コンピュータを中心としたシステム」という認識でした。当学会に入会し、設立総会における今道先生のご講演(※1)を拝聴し倫理について考えさせられ、また図書「情報システム学へのいざない」や「学会の設立趣意書」を読めば読むほど、情報システム学とは人間の行動の根源について深く探求した学問分野であることを知らされ、目からうろこが落ちるほどの驚きと共に、改めてその魅力も感じました。公共性の高いシステムの障害、企業不祥事、あるいは社会問題化している「いじめ」、「過労死」、「インターネットを使った低俗かつ悪質な情報氾濫」など、社会で発生している事象を、いまこそ情報システムの視点から観察、分析し、評価する必要があります。インターネットを介した超分散コンピューティング、Webサービス技術、情報処理環境を変えていく技術がどんどんあらわれています。また、オープンソースの普及などで、ソフトウェアの開発も世界中の人々が開発に参加するという形態が進みつつあります。技術の持つ正の部分だけでなく、負の面も評価する必要があります。

 現在、学会は6つのカテゴリー

・情報システム学の認知
・情報システムの構築及び活用に関する経験の蓄積と共有
・情報システム構築及び活用手法に関する研究の推進
・情報システム人材の育成
・経営管理者に対する情報システム啓蒙活動
・情報システムに関する研究成果・事例報告等を発表しやすい場の提供

のもとに活動しておりますが、各活動分野に共通しているのは「人間活動を含む社会システム」、「人間の情報行動の理解に立脚」と認識しております。このことが他の学会との違いを鮮明にしているのではないでしょうか。幅広い人々に参加いただき、企業、社会の出来事を情報システムの視点から捉え、社会へ提言し、情報社会の発展に結びつける活動も必要です。また、企業経営者にも情報システムが企業、社会とどのように関わっているか、社会へどのように貢献しているか、積極的に働きかける必要があります。

 私は当学会で生圏情報システム研究会に参加し、ギリシャ以来の哲学を勉強する機会を得ました。そこで学んだことは、人間と世界とのかかわりにおいて、すべてのことに対する疑問と徹底的な根源への追及、論理、言葉(概念化、抽象化)への執念です。情報システムの設計とは、対象のモデル化であり概念化です。「人間の情報行動の理解」に立脚し、情報システムを構築するにあたっては、哲学的素養も必要です。この観点からの人材育成のあり方の研究、育成も必要だと痛感しています。情報システム専門家には、文系、理系(理学、工学)の枠組みを越えた哲学、科学する芽(疑問、不思議と思う心)が必要ではないでしょうか。

 当学会が、発展し、飛躍するには学生、研究生も含め、次世代を担う若手が育っていくことがぜひとも必要です。当学会が、情報社会の発展に寄与する人材の宝庫となることを切に希望する次第です。

※1 今道友信氏の講演「情報と倫理」の要旨は
 → http://issj.nuis.jp/vitality/meeting.html