生圏情報システム研究会(第1回)記録

 

 日時:2005年9月17日(土)14時〜17時

 出席:橋本典子 浦 昭二 上野南海雄 魚田勝臣 内山研一 金井一成

    後藤浩一 小林義人 柴田亮介 刀川 真 中嶋聞多 中嶋令夫人

    堀内 一 森川憲二 杉野 隆 芳賀正憲

 

1.講演 人間と世界(1.古代ギリシャを中心に) 

    人間は世界をどう認識してきたのか、哲学と倫理の観点からのレビュー

     青山学院女子短期大学教授・総合文化研究所長

       哲学美学比較研究国際センター副所長

     橋本 典子

  以下の資料をもとに、説明を頂いた。

  序論 「生圏情報システム」

   生圏とは  「生圏倫理学」→eco-ethica      1974年国際哲学会承認

               1981−2004年報発行、2005 現在準備中

   eco ← oikos    οικοζ オイコス 家、生息圏、生圏     

        ラテン語への音写       EcologieHäckel)「生態学」

   現在 「生圏」・・・macro   intersidereal (恒星間)・・・宇宙

             micro   nanoスペース(微視的)・・・遺伝子操作

      情報  情報化社会・・・システム化された情報技術・・・技術連関

               結果としての情報・・システム化されている

   20世紀後半から、実体(substance)と影(skia)との分離が行なわれた。

   問題提起  影の持つ意味が大きくなった。想像力(imagination)の重要性

 

 機仝殿絅リシャ(ソークラテース以前)

a.            Thalēs(タレース) 万物のarchē(アルケー、始まり、原理)

                               → principium

                   水、(質料)、<飛躍> 1)幾何学(Geo大地・・metria測る)

                               → Geometria

                   2)日食を予測

                   3)水が万物の始まりである

      自然・・・ミレートスの自然哲学者

  bDiels-Kranz  ディールス・クランツ 『Fragmente der Vorsokratiker

  c.人間  Socratēs   魂の世話(プシュケー) 霊魂としての自己を知ること

 

 

 

 供Platōn  (理想主義)―― Idealism    

         イデア界・・・イデアの世界・・真実 魂そのものになる 実体ウーシア→  idea

          (叡智界)           → 魂の不死

   現実界・・・イデアの影の世界  死(魂と肉体との分離)   死の練習

    影を否定  光が価値のあるもの   質料としての肉体の中に魂が堕ちる

   形相(formaιδεα  イデア・・精神の目で観た形・・本質、○○そのもの

   質料(materia)←ϋλη(hulē) フュレー  木、木材、森林

   イデア界に憧れる ・・・教育 ・・・想起(アナムネ―シス)

 

  Aristotelēs (現実主義)

   形相forma)・・eidos エイドス  個物の中にある形・・設計図のもととなる構想

    「個物こそは本来の意味のウーシア(実体)である」

   実体  hypokeimenon  下にあるもの、基体・・・substuntia(ラ)substance

   四原因 1.causa materialis 質料因   2.causa finalis   目的因

       3.causa formalis   形相因   4.causa efficiens 作用因

   動的  dynamis (可能態)→ energeia(現実態)     entetecheia

       デュナミス      エネルゲイア       完全現実態

 

 

l      わが国では、研究者が自分の領域を守り、未来に向けて哲学を考えることが少ない。

l      生圏倫理学では、各国から有志を募って切磋琢磨し人材が育ったが、すでに50歳

l      以上になっている。若い人を入れたいが、日本国内からは無理である。そこで、

l      本部を外国に移している。

l      学士会報を見て、東洋紡・谷口豊三郎氏の設立した財団から80年代10年間サポートを得た。谷口氏の死去にともない財団が廃止され、今は自弁で運営している。

l      国際会議は24回に及んでおり、5回目まではバラバラだったが、次第にまとまってきた。早い段階で、テロリズムや医学の倫理を取り上げている。DNAやトレランスの概念についても、世の中で問題になる前に予測している。アリストテレスは、倫理学を政治学の序論として位置づけている。

l      エコロジーの意味が、生態学から環境学に変化した。しかしエコエチカは、環境倫理学ではない。宇宙も、ナノスペースも、人体も生圏である。人間は、衛星やロケットを宇宙のゴミにしている。

l      情報は、ハードとしてこれを除くことはできない。ハイデガーの道具連関から、テクノロジカル・コヒージョン、技術連関を発想した。現在、カードなどに人間が取り込まれている。パスワードの方が、本人より信用されると言う側面がある。情報から実体にどう近づくかが課題。イマジネーションが重要であり、正しいイマジネーションをどう形成するかが課題。

l      人間について初めて考えたのは、ソクラテスである。その前にタレースが、ものごとに共通にあるもの、始まりを水と考えた。これがアルケであり、ものごとを原理的に考える初めにもなった。タレースは、抽象だけでなく、想像的な飛躍を重んじ、

l      新しいものを求めた。幾何学や日食の予測も、彼の創始による。

l      自然について、ミレートスの自然哲学者が対象にしている。デカルトの「考える」ことと存在とを結びつける考え方は、すでにギリシャ時代からある。

l      考古学の中に「石は、情報をもっている」という考え方がある。(芳賀注:藤本隆宏先生の「ものづくりは、媒体に対する設計情報の転写」という考え方と対比して興味深い。)

l      愛知万博を視察し、各国の環境に対する取り組みを比較した。自然の叡智を生かしている点で、イスラム系によいものがある。

l      人間について考えた最初の哲学者がソークラテースである。人間にとって最も大事なものは何かという観点から「魂(プシュケー)の世話」を主張。プシュケーは、サイコロジーの語源にもなっている。あらゆるものにプシュケーがあると考える。

l      翻訳語は、漢詩から採られていることが多い。

l      プラトーンは、ロゴスとして言葉を大事にした。イデア論では、イデア界と現実界に分ける。イデア界は、叡智界であり本当の世界であり、光である。現実界は、影であり、劣った世界である。

l      絵画でも、影はルネサンスまではずされていた。これを復活させたのが、レオナルド・ダ・ビンチである。

l      イデアの世界では、プシュケーだけになる。人間が死ぬと、プシュケーは天の彼方に行く。そこでイデアの世界を全部見てくる。その後プシュケーは、別の人間の肉体の中に落ちる。哲学者は、純粋のプシュケーになることを追求しており、これは死の練習をしていると言える。

l      新しいことを学ぶというのは、実はプシュケーが以前学んでいたにもかかわらず本人が忘れているものを思い出すことである。したがって、教育とは想起させることである。魂の不死という点で、東洋思想にも近いものがある。

l      イデアにも序列がある。高いイデアにあこがれ、これを想起することで真の認識が得られる。このあこがれが、キリスト教の「希望」になる。このイデアは、アイディアルの語源にもなっている。

l      例えば、木材を通して超越的に見ることができる価値あるものがイデアである。

l      ソークラテースは、ブランコに乗って上を見ていた、地に足がついていないと批判された。プラトーンとアリストテレースを比較すると、アリストテレースの方が現実に重きを置いている。プラトーンのアカデミアがアカデミーになり、アリストテレースのリュケイオンがフランスのリュセ(高校)の語源になった。リュケイオンでは、象などが集められ、植物園もあった。アリストテレースは、観察の重要性を説いている。

l      プラトーンのイデアに対応するのが、アリストテレースのエイドス(形相)(見られた形)。プラトーンではイデアが実体であるが、アリストテレースでは個物が実体で、その中に形相がある。形相とは、設計図のもとになる形である。(芳賀注:日立製作所におられた片岡雅憲氏が、情報システムの設計プロセスを型モデルと形モデルの設計に分け、「型モデルは形モデルの中にはめ込まれる」と説明されたことと対比される。)

l      アリストテレースは、ものごとの成り立ちを4つの原因で整理した。最後の姿が目的因、設計図のもとが形相因、木材が質料因、作る人が作用因である。

l      アリストテレースは、ものごとを動的にも見ている。可能態→現実態(エネルゲイア)→完全現実態。可能態ではすべての可能性をもっている。完全現実態は、完全に花が開いた状態で、次世代を生み出すことができる。

l      近代の考え方は、古代と対立しこれを克服する形で作られている。

l      ものごとのかたちの階層構造は、typeformfigureとなる。

l      ギリシャは多神教で、日本に近いところがある。

l      コミュニケーションの哲学的基礎は、ハーバーマス、パースによるのがよい。

l      弁証法はむしろ個人のもの。レトリックは説得のためのものである。

 

2.参加者のコメント、問題提起、感想

 

(杉野)情報システムの構築とは対象のモデル化であり,概念化です(もちろん,泥臭い作業も必要ですが)。そのためには対象に対する洞察力を鍛える基礎として,思考に関する哲学的な理解が必要であると思います。

 

(芳賀) 岩波新書「「わかる」とは何か」の中で、長尾真先生が、「一般的には、欧米の学者は、名前を与えることによってある概念を他の概念から明確に区別するということに関心が高く、こうした名称の体系によって学問を体系的につくり上げていくことが上手である」と述べられています。

相対的に、日本の学者は今まで概念化が下手だった、とも読み取れますが、今回の橋本先生のお話から、ヨーロッパでは少なくともギリシャ時代から、ものごとのアルケー、原理を求める、抽象層と具象層を分けて考える、抽象層を上方に展開して理想に至る等々、わが国に少ない「概念化」の考え方が、ギリシャで2千数百年前に始まり、しかも今日まで問題解決や科学研究の基盤になる思考法になっていることが分かりました。

概念化とは、クラスおよびクラスとクラスの関係の抽出で、今日情報システム開発の出発点とされていることですから、情報システムの原点は、やはりギリシャ時代にさかのぼるということができます。

一方、京都大学で生産システム工学を担当されていた人見勝人先生が、1つの学問の成立要件として、概念(Concept:考え方、本質、理念、哲理)、理論(Theory:学理、原理、学術、技術、解決手段)、歴史(History:史論、実証、現実性、未来性)、

および方策(Policy:政策、方針、実践、方略性、発展性、提言)を挙げられています。

長尾先生と人見先生では、概念の意味が異なっていて、人見先生の方が広い意味で使われていると思われますが、いずれにしても、情報システム学では、「方策」が産業界の直接のニーズから、経験的にであれ、かなり発展をしてきているのに対して、「歴史」の研究は不十分で、それが「概念」「理論」両面の脆弱さをもたらしている

とも考えられます。

生圏倫理学に至る哲学の歴史をレビューし、生圏倫理に対応した情報システムのあり方を考えるこの研究会の意義は、第1回を終え、一層明らかになったと思います。

 

3.次回研究会

  12月23日(金)13時30分〜17時開催

  於 あんさんぶる荻窪

  テーマ 人間と世界(2.中世からルネサンスへ) 

   人間は世界をどう認識してきたのか、今回は、暗黒ではなくダイナミックな

時代としての中世から、古代を再発見、近代科学の萌芽が現れたルネサンスに

かけての思考の歴史をたどって頂きます。

講師 青山学院女子短期大学教授・総合文化研究所長

            哲学美学比較研究国際センター副所長

      橋本 典子

 

以上