情報システム学会 メールマガジン 2013.6.25 No.08-03 [12]

連載 著作権と情報システム
第37回 1.著作物[4]比較検証(1)著作権法と特許法

司法書士/駒澤大学  田沼 浩

[4] 比較検証
(1)著作権法と特許法
 これまで当時の通産省案と文化庁案を説明してきた。実際に通産省案である産業構造審議会産業部会中間答申の「プログラム権法(仮称)」の提唱が、文化庁案に基づく著作権法の改正に微妙に影響したことは否定できない。また、知的財産権としてプログラムを考えるとき、著作権法の基本的な理念、たとえば「思想又は感情を創作的に表現したもの(2条1項)」の創作的な表現であることを否定するような、たとえば特許法の基本的な理念「自然法則を利用した技術的思想の創作(すなわち発明。2条1項)」を肯定しているわけではない。
 しかし、プログラムについて特許権を認めていないというわけではない。すなわち、発明として認められる技術的思想の創作であれば、判例も特許権の付与を認めている。また、実務上は、ソフトウェアがハード(物)によって体現化できるもの(たとえば情報処理装置)であれば、発明として保護するため特許権を付与している。
以上のようなことから、プログラムがソフトウェアとして特許として認められるには、相当高いハードルを超えなければならない。
 とは言っても、ソフトウェアは簡単に技術的思想として認められるわけではなく、結局契約や著作権法(著作権のライセンス契約)によって保護することも考えなければならない。
 ところが、詳細な契約を結ぼうとすると、その調整に時間が掛るうえ、仕事の受注競争からどうしても元請け会社と下請け会社の関係が形成されやすく、必ずしも平等な契約が結べるかどうかは難しい場合もある。ソフトウェアを元請け会社が取得するような契約が結ばれれば、下請け会社は特許権を取得することはできない。このようなソフトウェアにもライセンス料を支払わなければならない。
 また、下請け会社は元請け会社からライセンスを与えられなければ利用することもできず、新たなソフトウェアを開発しても既存の特許権の抵触を常に考慮しなければならない。著作権でもライセンスの付与を受けられなければ、そのソフトウェアは利用できないが、新たに技術的思想を同じくする代替ソフトウェアを開発することはできる。
 このようにソフトウェアの特許を安易に認めていけば、特許権によって一部企業の産業の独占的な支配を認める結果にもなりかねない。
 そのため、実際には、ソフトウェアにだけこれまでの産業政策を転換するほど特許の要件を緩和するようなことはあり得ない。アルゴリズムに特許権が認められないのもそのためである。
 もう一方で、特許権の存続期間は著作権の保護期間50年(著作権法51条)ほど長くはなく、特許出願日から20年(特許法67条)である。しかし、ソフトウェアのようにサイクルの早いものにとっては20年という期間は保護をうけるには十分な期間である。それを考えるとき、ソフトウェアが経済財として、文化的発展と少し離れたところにあることも事実である。
 このことからも、ソフトウェアの財産権を考えるとき、特定の知的財産権として捉えるべきではなく、幅をもった財として考えるべきであり、そのため特許権から著作権まで、その要件に合わせて保護されるべきものであると考える。
 情報として財産権を考えるとき、自然法的な発想ではなく、実定法に基づく知的財産法の範囲で、それぞれの法の要件にあった場合のみ、適用すべきである。

引用・参照文献
「著作権法概説第13版」 半田正夫著 法学書院 2007年
「著作権法」中山信弘著 有斐閣 2007年
「著作権法第3版」 斉藤博著 有斐閣 2007年
「ソフトウェアの法的保護(新版)」中山信弘著 有斐閣 1992年
「特許法(第2版)」中山信弘著 有斐閣 2012年
「岩波講座 現代の法10 情報と法」 岩村正彦、碓井光明、江崎崇、落合誠一、鎌田薫、来生新、小早川光郎、菅野和夫、高橋和之、田中成明、中山信弘、西野典之、最上敏樹編 岩波書店 1997年