情報システム学会 メールマガジン 2011.6.25 No.06-03 [4a]

第12回 「情報システムのあり方と人間活動」 研究会 開催概要記録(第1部)

研究会主査 伊藤重隆

開催日時 2011年6月4日(土) 午後1時30分
場所   慶應義塾大学日吉キャンパス協生館6階大会議室
出席者  20名

 今回の研究会でひとまず本研究会は終了しました。これまでの会員の皆様のご支援に感謝申し上げます。今後、別の形の研究会を検討したいと考えております。


第1部 午後1時30分〜3時15分(内  質疑20分)
  題目 「大学・大学院における実践教育で教育・学習するメタ技術」
  講演者  法政大学情報科学部コンピュータ科学科 教授 溝口 徹夫氏

【講演概要】
 講演資料 http://www.issj.net/mm/mm06/03/mm0603-4a-kr-shiryou.pdf も併せてご覧ください。

 昨年の当学会でのシンポジウムのテーマは、「大学院教育」であった。講演に共通するキーは、「メタ技術」と認識した。今回の報告は、「メタ技術」を定義するのが目的では無く、何をどのように教育するかを理解し、また、大切な点である学習者が得たものとして自覚するものが何であるかを明らかにしたい。

1 「メタ技術」の意味

 メタデータという用語は、データを記述したデータ、すなわち定義データを指す。メタデータは、定義データを記述するための定義表現となる。メタ数学の考えに準じて「メタ技術」を考えると、システム/ソフトウェア開発・管理の対象技術を観察するものという意味になると考えられる。経験を経て修得した個々の技術のことではない。学習者にとっては、対象技術を扱うことによって、その先にある「メタ技術」を得て、以後、対象が何であれ、システム/ソフトウェア開発・管理が適切に行なえると考えるが、「メタ技術」の実態は模索中である。

2 実践的教育OJL(On the Job Learning)の理解

 実践的教育へのきっかけになったのは、2006年6月の(社)日本経済団体連合会からの意見書「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」である。
  ・まず、意見書を紹介する。(講演資料7ページから8ページ参照)。意見書中の調査結果によれば、情報工学関連の学部・学科出身の新卒者のうち、新卒者向けのIT技術研修を受けずとも、即業務に対応可能な即戦力たる人材は、わずか1割弱とあるので、「即業務に対応可能な即戦力たる人材」が評価されている。しかし教育の観点から本当に望ましいか疑問がある。座学では、大学と企業において大きな差は無いと考えられ、大学・大学院での座学が機能していない可能性として、第一に、提供される座学の内容が必要なレベルでない、第二に、学習者が座学の内容を理解していない、が考えられるが、第二の可能性が重要と考える。これは、約8割の新卒者が企業でIT技術研修を受けた後に業務に従事できるとの調査結果から推測するものである。つまり学習者の自覚に依存する点が大きいと考える。
  ・では、何故、実践教育が必要かであるが、意見書中のシステム開発のプロセスの一通り経験と小規模プロジェクト管理経験については、新卒者はプロジェクト管理者として活動するとは思えず、又、企業内で経験を積んでから管理者になると考えるので実践的教育としてはシステム開発のプロセス経験が適切と考える。意見書中には、自社のニーズを掘り下げシステム開発へとつなげることが出来るものとするとあるが、企業により事情が異なり、大学・大学院でその教育が可能との見解には無理がある。
  ・次に、実践的教育(例 OJL)と企業の実践教育の違いについて述べる。企業での実践教育は、期間も長期間で企業が考えるテーマに限定して行なうと考えられる。実践的教育では、システム開発プロセスの順次実施、つまり上流から下流への開発実践が行なわれていると考えられる。その点は、企業と同様なプロセスを踏んでいると思う。OJLで示されている教育目標は、第一に製品レベルの実システム開発の体験、第二に開発や管理に関するスキルの修得、第三に、開発課題の特徴に応じた適用技術の取捨選択能力の獲得で企業の期待人材像と一致している様に見える。このOJLの教育目標としては、検証・評価がカギになると考えている。つまり、実システム開発の体験をすれば良いだけでなく良質の製品開発を行なうことが目的であるので、学習者は自己の開発成果の良否の評価を行なう、また、開発と管理の双方についてのスキルを求めているが、管理について要求することには現実的に無理と考える、さらに、開発課題の特徴をどのように抽出可能であるかは、一つの実システム開発経験のみでは可能か疑問である。
  ・学習者が実践的教育で何を学ぶかであるが、通常は、「なにを」ではなく「どう」開発したかに指導の重点になっている。学生が実問題を通して学ぶことは重要であるが、座学で学んだ技術をどの様に適用したか、期間内に開発問題をどの様に解いたかを学生自身が説明する観点が大切である。これらの点でOJLは成果があると推測する次第である。
  ・OJL以外の実践的教育であるが、システム開発の上流から下流への教育プロセスとして、PBL(Project Based Learning)がある。これは、企業の実プロジェクトに入りシステム開発を学ぶ教育方法である。この教育方法は、学習者がプロジェクトの出発点の上流フェーズについて具体的理解が難しい。開発成果は、システム実施後に得られるので途中でプロセス成果を明らかにすることが重要になる。このために教育成果の評価を明確にする枠組みが大切である。そのためには、何故教育するのか、何を教育するのか、如何に教育するのかと言う枠組みを持つことが枠組みとして考える上では有効である。
  ・実践的教育の提言として、双方向の教育(上流開始+下流開始)を述べることにしたい。提言第一として上流開始は概略のまま俯瞰する、第二として下流開始は実践的課題を主とする、第三として時間があれば上流を与えた後に、逐次下流プロセスから上流へ遡る開発を行なわせる方法である。議論はあると思うが有効と考えるので実践していきたい。
  ・最後にシステムデザイン・マネジメント学の教育について述べる。
学習者は、何らかの専門性を身につけた経験者を対象とし環境共生等の多様な価値の関係性も考慮しシステム全体を創造的にデザインするための知恵とスキルを教えることが目的である。System of Systems、V字型実践、システムの要求仕様作成書他、実践的グループ演習等が学習されている。あくまでV字型実践は、枠組みでありメタ技術ではないと理解した。恐らくメタ技術の観点からSystem of Systemsを考察することになる点が課題と考えているが、今後、研究したい。
以上