情報システム学会 メールマガジン 2008.9.25 No.03-6 [3]

第1回シンポジウム 基調講演概要
基調講演 「情報システムの王道」 (13時〜14時)

繁野高仁氏(株)情報システム総研代表取締役

会社合併に伴うシステム構造改革

 KDDIに在籍した当時、会社の合併に伴うシステム統合に携わった。合併して同じ会社になった途端に、お客様からは請求書を一緒にしてくれと要求される。各社のシステムをどう統合していくかが問題となった。会社の将来を考えると、全体としてきれいな構造を持つように抜本的な構造改革を早くしなければならなかった。対応が遅れると付け焼刃のシステム対応となってしまうからである。

ソフトウェアの老化が深刻な情報システム

 情報システムは無秩序に巨大化・複雑化している。そのため開発期間・コスト・障害が増大している。既存システムの保守は属人化しやすく、保守体制を維持していくのも難しい。これはIT技術の新旧が原因なのではなく、本質的にはアプリケーション・ソフトウェアの老化である。アプリケーション・ソフトウェアが老化する原因は、「早く安く安全に」開発することが求められると、追加・変更の際に極力既存部分に手をつけず、外付けで開発しようとするために起こる。これは不可逆的なプロセスであり、抜け出すためには考え方を抜本的に変える必要がある。

成長し続けるソフトウェア

 システムに対する要求が変わってきている。現在の機能要求は不安定で、データの処理量も不安定。セキュリティのリスクも高くなっている。環境変化に対してシステム設計上の考え方も変わっているかというと変わっていないのではないか。
 良いソフトウェアとは将来の環境変化に対して柔軟に対応できることである。これを「成長し続けるソフトウェア」と名づけた。このためにはソフトウェアとして変化に強いしっかりとした構造が必要である。

情報システムとコンピュータシステム

 情報システムとコンピュータシステムとの違いを認識すべきである。情報システムとは人と人とがコミュニケーションをする仕組み。そのなかで、道具としてコンピュータシステムがある。コンピュータシステムは実世界をシミュレートするもの。実世界の捉え方はものこと分析を基本とする。基本構造は100年前も100年後も変わらないと考える。これがなければビジネスが成り立たないというエッセンスを取り出して設計することが一番大事だが実行するにはハードルが高い。
 ではどうやって実装していくかというと、まず人が実世界をどう捉えているかを「もの」と「こと」でモデル化する。次に、このモデルからデータベースとデータベースの状態を変化させるトランザクションを設計する。次にアプリケーションをサブシステムとして切り分ける。そして、サブシステムごとにプラットフォームの構造設計を考える。ユーザ要求には、情報ロジスティックスの観点から、どのように情報を提供すれば良いのかを考えて応じる。

大砲とミサイル

 今までは「大砲」のイメージでシステムを作ろうとしている。標的のユーザ要求に対して、仔細にヒアリングして文書化し、その後は動くなといっているようなもの。だがビジネスは常に動いていており、ユーザ要求は変化し続けている。ビジネスにとって、変わらないことは自殺行為に等しい。「ミサイル」のように、安定した構造を作った上で変化する要求を追尾すれば良い。大事なのは要求を聞いたらすぐに実現することである。そこを解決するのがシステム屋の技術力である。
 こういう考え方に立てば、日本にはチャンスだと思う。欧米のように新しいパッケージに入れ換えてリセットするのではなく、ソフトウェアを成長させて行くべきある。地道にメンテナンスしていく文化が活きる時代を到来させなくてはいけない。良いものを積み上げていくべきで、良いものを積み上げていけばより良いシステムに進化する。良いものを作って日本のシステムを世界に展開すべきであると考える。

以上