情報システム学会 メールマガジン 2008.5.25 No.03-05 [4]

連載 プロマネの現場から
第5回 SEとしての学ぶ姿勢と成長可能性について考える

蒼海憲治(大手SI企業・金融系プロジェクトマネージャ)

 初めてのプロジェクトを前に少し不安を覚えながらも、希望に夢を膨らませている新人たちが、プロジェクト現場に配属される今日この頃・・。若い新人たちの今後の活躍に期待する一方、新人たちの指導員やコーチャーとなった2年目・3年目のメンバーが、緊張感を持って対応しているのが伝わってきて、とても嬉しくなります。
 研修を終えたばかりの新人たちに話しをするのは、これで勉強は終わりではない、ということです。もちろん、これからは業務を通してのOJTが中心となりますが、OFF−JTや自己研鑽を継続していくことが大切であること・・そして、それは若手だけのことではなく、SEを続けていく間は一生必要であることを自戒をこめて話します。

 システム構築ソリューションのカバー範囲の大きさを考えると、SEやプロマネは自分自身の役割や職域の幅を広げるため、学び続ける必要があります。
 馬場史郎氏は「信頼されるSEの条件」(日経BP社)の中で、「SEの5年サイクルの危機」というものがある、といいます。
 20数歳から仕事を始め、最初の5年間ぐらいは日に日に力をつけ成長していくものの、28歳前後で何%かのSEは伸びなくなる。つまり、進級できずに落第を続ける状態である。さらに、その5年後、33歳前後になると、「成長できない落第SE」はもっと増える。こうしたSEの成長の節目は、38歳、43歳、48歳と5年サイクルで来る。

 「28歳あるいは33歳ごろ」に落第するSEのキャリアの特徴は、
 (1)若い時、付加価値のある仕事をあまり経験していない
 (2)ビジネスマンとして厳しく指導され、鍛えられていない
 また、「38歳、43歳あるいは48歳ごろ」に落第するSEのキャリアの特徴は、
 (3)新しいITについて行けない
 (4)SEとしての夢が持てない
という共通点が見られたといいます。

 若手から中堅のSEは、プロダクト中心の仕事やプログラミングの仕事ばかりするのではなく、アプリケーションの開発やシステム基盤全体の構築なども担当するようにする。さらに、提案書作り、業務分析、要件定義、システム設計、プロジェクト管理といった付加価値の大きい仕事を率先してする。また、対人関係の処理能力、表現力、交渉力、リーダーシップなどを持つようにする。
 中堅以降になったSEは、製品や技術の細かい知識が必要な仕事から、経験と応用力が要求される仕事へと、比重を移していく。要件定義や設計など上流工程の仕事、対人関係の処理能力やマネジメント能力が要求されるプロジェクト管理の仕事、非常に深い業種・業務知識に基づくコンサルタントの仕事、あるいはライン管理職を目指す。
 若さにまかせてITを追求することはもちろん重要ですが、同じ若い時に、顧客や仕事の進め方について多種多様な経験を積むことにより、SEにとって普遍的なものの重要さを知り、それを身につけるよう心がけることが大切なのだと思います。

 IT企業におけるエンジニアの年代別スキル調査を実施された、ITイノベーションの林衛氏が、アンケート調査により、「向上心」について面白い結果が出たことを紹介されていました。
 その調査結果によると、入社し仕事を始めたばかりの25−29歳のレンジが一番意欲が高いのですが、30−34歳でがくんと落ち込み、以降、54歳まで落ちたままの意欲は横ばいとなる。そして、定年を意識した55歳以上で再び向上する。
 この中だるみの現象の原因は、本人の問題であるだけでなく、組織として、社員に対して「仕事の多様性」を教えられていないからだ、とコメントされたことを覚えています。

 そうはいいながら、組織が変わるまで受身でいるわけにはいきません。自己成長を考える必要がありますが、人間の成長可能性についての考え方を2つ紹介します。

 ブライアン・トレーシー氏の「フォーカル・ポイント」に、1000パーセント成長する方法が書かれています。
 曰く、毎日0.1パーセントずつ成長して、10倍成長しよう!
 毎日1パーセントの10分の1ずつ進歩すれば、1週間でおよそ1パーセントの2分の1の進歩が見込める。
 1週間で1パーセントの2分の1ずつ進歩すれば、1ヶ月でおよそ2パーセントの進歩が見込める。
 1ヶ月で2パーセントずつ進歩すれば、1年でおよそ26パーセント分、生産性・成績の進歩が見込める。つまり、こつこつと人間性の育成と学習に励めば、誰でも1年で26パーセントずつ、生産性・成績を高められるということだ。1年で26パーセントの進歩を1年また1年と積み上げていけば、2年7ヶ月で、生産性・成績は2倍に達する。
 1日に1000分の1(1パーセントの10分の1)ずつ進歩し、1年で26パーセント進歩していけば、10年後、あなたの生産性・成績は1004パーセントにまで増えている。
 複利のマジックには誰しも驚かされることですが、時間を味方につけて成長するという指摘はもっともだと思います。

 では、この0.1パーセントの成長をするための方法は・・ということへのヒントですが、「仮説思考」と「仮想演習」を挙げたいと思います。

 「仮説思考」とは、ある事象が発生する前または発生したがその真の原因が判明するまえにその答え=仮説を想定することです。限られた時間の中で、すべての問題や原因をしらみつぶしに検証していくことが不可能である中で、極めて有力なアプローチ方法です。人生が有限である以上、すべての人に必要なスキルになると思います。

 「仮想演習」とは、畑村洋太郎氏の「決定版・失敗学の法則」において紹介されている、自己の課題を明確にした上で、その課題をいかに解決すればいいのかを思考することです。「仮説思考」で想定した課題に引き続いての思考法であると考えています。

 畑村氏、この「仮想演習」が自己成長につながるため、大いに実践することを勧められています。
 仮想演習によって、「つねに自分の周囲を観察し、自分の守備範囲以外の課題を4つ5つと設定してシミュレートしている人は、少なくとも人の5倍、成長することができます。もし、「仮想演習」を日々繰り返すことにより、様々な物事に対する対処能力を、5年で5倍の成長が見込めるとすると、切磋琢磨し続けることにより、25歳から60歳になったとき、25歳の自分に比べて、なんと!5の7乗=78125倍も成長することができる。
 5年で5倍の前提を置く・・という前提の妥当性はありますが、5年で2倍でも、2の7乗=128倍です。自分よりも、よくできる人・・っていうと、イメージ的に10倍ぐらいかな〜、と思っていたら、大間違い。
 100倍から1000倍以上も差がついている可能性があること。たとえ40歳からでも、目標を70歳にすれば、6乗するチャンスがあります。

 冒頭の馬場氏は、「SEのキャリアは、年功序列で偉くなることではなく、年齢とともに成長することである。」と述べられていますが、一日も早く課題設定して、それに向けて徹底的に仮想演習に取り組むことで、個人はもちろんですが、組織としても成長し続けるようにしていきたいと思っています。