情報システム学会 メールマガジン 2007.3.25 No.01-07 [1]

理事が語る

理事 小幡孝一郎

 2年前に文教大学情報学部の教員を退職した小幡です。

 私は理事会内の人選で,今回初めて実施される役員改選のための選挙管理委員長を拝命しました。しかし,学会ホームページでご承知のように,推薦を受けた候補者の数が改選対象役員の定数を超えなかったため,予定されていた投票は実施されないことになりました。
 もう少し詳しく説明しますと,役員の候補者には,一般の会員から推薦を受けた「一般推薦候補者」と,理事会の推薦を受けた「理事会推薦候補者」の2種類あるのですが,今回は一般推薦候補者が皆無で,全員が理事会推薦候補者ということでした。
 どうしてこういうことになったのか,選挙管理委員会内部でいろいろと憶測しておりますが,根本的な原因は,この学会が未だ一つの独立したコミュニティになり得ていない,というところに帰着するのではないでしょうか。さらにその背景として,プライバシー保護の観点から会員名簿が配布されていない,ということもあるでしょう。我々理事も過去2回の研究発表大会で発表された方々しか,会員の名前を知り得ません。
 私は個人的には,プライバシーとセキュリティを確保できる何らかの条件をつけた上で,会員名簿を配布したほうがいいのではないか,と考えております。しかしこれはコミュニティが形成されるための,いわばインフラの一つに過ぎなくて,学会である以上,お互いの研究活動を通じて知り合っていく,というのが本筋であると思われます。そういう意味で,堀内理事が前回のメルマガで提案されたことは,誠に当を得たものといえます。

 それではおまえの関心は今どこにあるのか,と聞かれると思いますので,簡単にご紹介いたします。私の関心領域は「情報システムの評価」です。
 10年ほど前に,経営情報学会の中にある小さな研究部会の仲間と一緒に「情報システムの評価に関する独自の枠組みを作る」という途方もない目標を立てました。そのために,その時点で公表されていた情報システムの評価に関する文献をみんなで手分けして調べました。その途中で,一つの文献が我々の関心を引きつけました。それはCSCW(協調作業支援システム)の評価を取り扱うものでしたが,我々がこれに着目したのは,著者が次のように主張していたからです。
(1)技術だけでなく,組織的乃至社会的な視点からCSCWを捉えるべきである。
(2)評価に関して,情報システムだけでなく,教育や社会改革プログラムまでも対象とする方法論を広くレビューした結果,そのほとんどが上記の視点からCSCWを評価するのに適切でない。具体的には;
 2.1 合理主義の視点から,あらゆる状況に対応できるOne Best Wayを求めている
 2.2 情報システムを組織のマネジメントまたは設計者の視点だけから捉えている

 さらにこの著者は,様々な評価に関する主張の中で,自分の考えに極めて近いものがあるとして,それを次のように紹介しています。「彼らは,異なる視点を持つ(改革プログラムに対する)様々な関係者を,どのようにマネジメントし,統合していくかに特に関心を持っている。これはこの仕事にとって極めて重要である。そのために評価にとって必要な方法論は,定性的であるだけでなく,陽に解釈学的でなくてはならない,と述べている。」
 私たちは,いわば彼の推薦を受けて,この本を読むことにしました。この本の評価対象は情報システムではなくて,教育改革プログラムだったのですか,第4世代評価と呼ばれるその方法論は情報システムに対しても十分通用する筈である,と考えるに至りました。それは,次のような理由からです。
(1)改革プログラムを評価する目的の一つは,評価者に対して,そのプログラムに関する情報を提供することである。従来のアプローチはこれに止まっていたが,第4世代評価ではそれだけでなく,改革プログラムの影響を受ける全ての関係者が,評価結果に基づいてそれぞれ適切な行動を取るようになることを目指している,という意味でこれは問題解決指向の評価方法論である。
(2)組織において情報システムを開発し,それを活用することは,ある種の改革プログラムを導入することだといえる。従ってそこに問題解決指向のアプローチを適用するのは極めて自然である。
(3)評価に関する従来のアプローチがこのような指向を取り得ないのは,それが伝統的なパラダイムに執着しているからであることを示し,それに代わる新しいパラダイムと,それに基づくアプローチを詳しく説明している。

 残念なことに,我々は未だ具体的な成果物を生み出していませんが,それを目指して今も細々と活動を続けております。
 今後もどうか宜しくお願い致します。